彼らの物語 1
そこはいわゆるダンジョンであると彼ら三人は聞かされていた。
それも未だ誰も全貌を知らない、はるか昔の大帝国が作り上げたもの。
山にしか見えないのは、土がその姿を覆い、さらに木が繁茂するだけの長い長い年月のゆえ。
内部は強力なゴーレムが警備をしているため、誰にも荒らされることは無かったという、難攻不落のダンジョン。
内部に侵入し、次第に強力になるゴーレムを相手取りながら上へと進むうち、彼らはこの巨大なダンジョンの内部に不可思議な空間があることに気づいた。
中心部に近づけず、外縁部ばかりを歩かされているという構造ゆえに。
三階に上がっても四階に上がっても、ついには最上階らしい階層に上がっても、中心部には入れない。
ではと方向性を変えて、彼らは地下への階段を探すことにした。
「こういうときってさ、たいてい隠し扉があるんだよね」
その考えは、『大当たり』であったらしい。
暗がりゆえに、そして巨大であるがゆえに壁と一体化した大きな扉が、ダンジョンの入り口を入ってそのまま突き当りの壁にあった。
さらに、地下へと降りた先の大量のゴーレムが待ち受ける部屋で、そのすべてを破壊しつくした後に現れた、今までとはあきらかに出来が違う女性型のゴーレム。
倒したその体から落ちた赤い宝玉こそが、その扉の鍵であろうと。
「だってあきらかにボスじゃん、あの格好って」
「ボスなら、持ってるものが鍵だよね。鍵っぽくなくても」
果たして、赤い宝玉を扉にかざすと……宝玉が砕けるのと同時に、扉は軋む音をたててゆっくりと開いた。
「え?」
「なにこれ」
長い年月の末に、山となったダンジョンだからして、内部は灯りの類が無ければ鼻を摘ままれてもわからないほどの闇だ。
だが、その扉の内側は、空が開けているわけでもないのに光に満ちていた。
それどころかそこには木々が茂り、小川すら流れて、一種の庭園のようになっている。
「天窓とか、無いよね」
「ああ。だったら上から入ってくる人とかいるはずだ」
「じゃああんな高い所に光があるのか?」
土の上に踏み石を設えた道を彼らは用心しながら進む。
「これ、お墓……?」
「なんなんだろう、ここ」
庭園の中心には、東屋があった。
彼等の知るものであれば、テーブルや椅子が置かれているだろう中央部には、彼らの知らない文字を刻まれたドアほどもある石の板が載せられている。
その上に、大人の握りこぶしほどもあるだろう、赤い透き通った玉がある。
彼らは、顔を見合わせてうなずいた。
おそらくは、これがこのダンジョンの、クリアのご褒美アイテムだ。
「でも、本当に持って帰っていいのかな?」
置いてある場所に、墓を見出してしまったがためか、不安げな声があがる。
しかし、一人が思い切ってそれを掴んだ。
それと同時に、残り二人は身構える。
……ややあって、彼らはため息とともに体の力を抜いた。
よくあるシチュエーションとしては、この玉を取ったとたんに緑したたる美しい庭園は反転、食肉植物や毒花の園に変わり、おぞましい死者がその間からゆらゆら近づいてくる……。
そんなギミックを、彼らは想定していた。
しかし何も起きなかった。
「やっぱさっきのがボスだったんだよ。ここの鍵持ってたし」
「じゃあこれでクリアだね」
彼らは、およそ十代後半である見た目よりも、ずいぶんと幼い口調で言いあう。
「あ、待って」
一人が、すぐそばに咲いていた花を摘んで、石板の上に置いた。
宝玉の代わりに、とばかりに。
やはりお墓であるという考えを、捨てきれなかったのだろう。
「クリアだ! 王様に報告に行って、レベルアップしよう!」
最初は、「彼女」の物語ではなく、彼らの物語です。