断罪され処刑が決まった悪役令嬢は、最後の晩餐におかかおにぎりを希望する
気づいたら乙女ゲームの悪役令嬢に転生していた。あの手この手でフラグを折りまくり可憐なお嬢様の猫をかぶり、昨年まで『お嫁さんにしたい令嬢』ランキングのナンバー1に3年連続選ばれて殿堂入りまで果たした。それだというのに!
今年突然現れたヒロインに全てを狂わされて、私は今断罪された。
『王太子の婚約者』というフラグももちろん折ったので、私は彼にとって『王太子の友人の友人の友人』ぐらいの薄い関係なのだが、何故だか、彼が愛する男爵令嬢に凄惨な苛めをしたことになっている。更には貴族の子息たちに、法律で禁止それている違法薬物を売りさばいていた元締めの濡れ衣も着せられている。そして極めつけ。王太子の婚約者の暗殺未遂の犯人だそうだ。もちろん、そんな事実はない。
即位五周年を記念する式典後の舞踏会。国内の主だった貴族、外国からの賓客が大勢いるなかでの、断罪劇。視界の隅で両親が泣き崩れ、それを兄たちが蒼白の顔で抱き止めている。
どうする。ここで終わりたくない。私は無実だ。
だけれどすっかり私の有罪を信じ切っている王は、泣きそうな顔で明朝の処刑を宣告した。彼は王太子の異母兄で、まだ若い。私の兄たちの友人でもあるのだ。
いやいや泣きべそをかくまえに、あなたの手元にある証拠が捏造品だと気づいて下さい。だがそんなことを言っても、悪あがきと捉えられそうだ。
「カミーユ」と私の名前を呼ぶ王。「貴族の処刑の場合、最後の晩餐の希望を叶えるのが我が国の習わしだ。何がよいか」
なんだ?その奇妙な慣習は。どうせなら平民も叶えなさい。
って、そうじゃない。ここは一か八かだ。
「では『おかかおにぎり』をお願い致します」
場に微妙な空気が流れる。この国にも近隣諸国にも、米とかつおぶしはない。
「なんだね、それは」と王。
「幼少のみぎり、我が屋敷には船の難破により我が国にたどり着いた東方の異国ヤーパンの商人がおりました」
おお、と両親やその友人たちがうなずく。
「彼が話していたのです。米という食べ物は白く美しいふっくら、ほのかな甘味と粘りけがあり、歯触りは優しい。その米を握って作るおにぎりより至高の食べ物はない。またヤーパン人なら、具はおかか。かつおの身を乾燥させて削ったもので、旨味が凝縮された至福の米の供。これにちょいと醤油をたらし、おにぎりの真ん中に入れる。これぞ究極の逸品!」
じゅるり、と誰かがヨダレを垂らした。
確かに商人がそんな話をしていたな、とギャラリーが話し出す。
「私は最後の晩餐におかかおにぎりを所望いたします」
◇◇
普通だったら、却下と言われて終わりだっただろうが、外国の要人の前で王ともあろう者が前言を翻すことはできなかったのだろう。急遽、東方に向かう商隊が結成されて出発した。メンバーは我が国の商人と兵士だが、各国が出資している。みんな、おかかおにぎりを食べたいらしい。
処刑は延期、私は城の塔の最上階に幽閉された。
◇◇
それから1ヶ月。両親と兄たち、友人たちが必死にがんばって、私の『証拠』が捏造品だと暴いてくれた。暗殺されかかり、意識不明の重体だった王太子の婚約者も意識を取り戻して、真犯人の名前を証言してくれた。
おかげで私の無実は晴れた。王には謝罪されて特別に王太子の財産の半分をもらった。というのも黒幕は、テンプレ通りに男爵令嬢だったからだ。
何も知らなかったらしい王太子はショックのあまり、『心身を鍛え直して参ります』の置き手紙を残して失踪した。
更に更に、帰還に数年かかると思われた商隊が帰ってきた。彼らはなんと昔我が屋敷に滞在していたヤーパンの商人の隊商を連れていた。商人は帰国したもののこの国は取引相手になると判断して、山のような米、かつおぶし、大豆を持って商売をしに来たのだそうだ。
王は私のために、その多くを買い上げて贈ってくれた。ちょっとチョロいけど、悪い王ではないのだ。
私は鍋で炊いた銀シャリで、王の目前でおにぎりをにぎり、塩をふって彼に出した。だって彼が最後の晩餐の約束を守ろうとしてくれたから、私の命は助かったのだからね。
おにぎりをひとくち食べた王は、
「なんて美味しいのだ!」と叫び、「君の手は魔法の手か。ぜひ妻になって毎日おにぎりを握ってくれ」と言い出した。
やはりこの王はチョロすぎる。
「米の切れ目が婚姻の切れ目になりそうだから、お断りします」
とはいえ。食の好みが一緒って結婚生活では大事だよね。と、一瞬考えてしまったのだった。