一話
日本の芸能界は、腐っていた。
古い権力者たちがのさばり、彼らに気に入られることでのみ芸能人たちは立場が得られた。
力の弱い事務所の新人は人気アイドルの邪魔にならないよう露出の場を奪われ、アイドル育成のコスト削減のために歌やダンスの訓練が大幅にカットされた。
当然彼らの質は下がり、日本のアイドル界はどんどん廃れ、世間から笑い者にされるような存在になっていたのである。
そんなとき、ある潰れかけの芸能事務所から1人のしがない事務員が立ち上がった。
その人物の創設したものこそが「アカデミー」。
人材を集め、歌やダンスの練習を日夜指導し、アイドルとしての実力向上メインを目指した。
加えて、アカデミー生を路上や広場などの公共の場で、パフォーマンスを披露させる機会をたくさん設けた。
アイドルを夢見るアカデミー生たちは日々実力を磨き、コネなどのなんのしがらみもなくファンを作り、公共のイベントでステージに呼ばれてその実力を披露しては徐々に知名度を上げていくのである。
まだ世に出ていない彼らは、ステージの上の実力の高さとファンに示す努力、そして自らのスター性でのみ戦っていくのだ。
実力のみが重視される構図、それを作り上げたのである。
当然の結果、この制度の中で誕生した第一号目のアイドルは公式デビューと同時に爆発的人気を巻き起こした。
芸能界全体がアカデミー制度のレベルの高さを無視できない状況に、多くの事務所が「その人物」のアカデミー出身の人材を欲しがった。
しかし「その人物」はそれらを全て拒否。自ら事務所を立ち上げ、アカデミー生のアイドルたちを率いた。
この成功的実験により、「アカデミー」設立のムーブメントは全国に広がることとなる。
アカデミーに所属しているアイドルの卵を芸能事務所が引き抜き公式的にデビューさせるという、アイドル育成のためのアカデミーという役割が芸能界の中に定着した。
事務所は確実に良い卵を手に入れるために、いち早くアカデミーへの出資を始めた。
こうしてアカデミーと事務所はギブアンドテイクの関係を持つことになる。
今一番経済効果をあげているアイドル業界は、アカデミーを中心とした実力主義の戦国時代を迎えているのであった。