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捏造の王国

捏造の王国 その23 とある驚異の閣議決定“総理が万全といったから万全なのだ”

作者: 天城冴

国際大運動大会の会場不備に、アメリカから押し売りされる大量のモロコシなどの諸問題から国民の関心をそらすため、隣国たたきをやりすぎて、想定外の事態を引き起こしたニホン政府。対処に思案するガース長官の元にさらに頭の痛くなる知らせが…

夏休みも終わりに近づき、どう考えても終わらせられない量の宿題や専門分野に本当に関係あるのか?と疑問をもちたくなるような課題レポートに小中高大学生が頭を悩ませるころ、ここ官邸でもガース長官が髪の薄さに拍車をかけるような重大な悩みを抱えていた。

「うーん、うーん、さてどうしたものか」

「長官、冷やしたドクダミ茶がだいぶ温くなっておりますが、もう一度冷蔵庫で冷やしましょうか」

「ああ、ニシニシムラ君か、いやそれはいい、常温の方がよいのだ、胃のためには」

と急いで茶を飲み干すガース長官。十薬と言われるほどの健康茶を飲みながら顔色は晴れない。

「長官、何か、ご心配事でもおありですか?例の輸入品目の件でしょうか、それともこの間の知事選」

無邪気に尋ねるニシニシムラ副長官の言葉にガース長官はため息をついた。

 このところガース長官には頭の痛い問題が間欠泉のごとく噴出しているのだ。アベノ総理が気前よく、しかしニホン国、特に農家真っ青の対米輸入品目爆買いの件やら、大応援を繰り広げつつ負けた知事選の件やら、どれも悩みの種である。国際大運動大会も政府公認ガイドブックを作製したものの、“競泳会場が汚水、大腸菌まみれ”、“暑すぎて人も馬も競技できない”などの諸問題がでており、開催中止の署名運動まで行われている。

「まあ、それもあるのだが、そのう」

「ひょっとすると、あの事ですか、韓国のアレの廃棄」

「まさか、アレを破棄するとは、思ってなかった。やはり選挙対策や法案の目くらましとはいえ煽りすぎたか」

「例の協定破棄ですね、アメリカ側もお怒りのようですので、モン大統領もやりすぎでは」

「そ、それがそうでもないらしいのだ。確かにアメリカは失望とは言っているのだが、一応事前にモン大統領はアメリカにも通告していたらしい」

「ええ!アメリカは承知してたんですか!なんで止めてくれなかったんでしょう」

驚くニシニシムラ副長官にガース長官は沈んだ声で

「アメリカ側も協定破棄は困るとは抗議したらしいが、あちら側が“ニホンがウチの国を信用しないどころか敵国扱いじゃあ話になりませんから”といって逆にアメリカがニホンを諫めてほしいと言い返されたようだ」

「つ、強気ですね。アメリカ相手に」

「そりゃ主権国家ですからね、あの国は。アメリカのいいなりになるつもりはないのでしょう」

シモシモダ副長官が口をはさむ。ニホンも一応主権国家なのだが~と言うに言えないガース長官。

「まあモン大統領もハンニチを利用していると思いますが、こちらが先に安全保障上から韓国をホワイト国から外すだのなんだの言ったし、マスコミやら自称ジャーナリストや査読論文なし学者だのが騒ぎたてましたしね。こうなるのは仕方がないとはおもいますが」

と淡々とニホンのイキリすぎを述べるシモシモダ副長官。

「それで、これからどうなさるおつもりなんでしょう、総理は。産業分野でもこのままではニホンの市場が狭まる一方。韓国の輸出総額よりニホンの輸出総額の落ち込みがひどく、このままいけば経済はダダ下がりとの分析です。観光客も激減して、各観光地は韓国からの客を取り戻そうと躍起になっています。来年の国際大運動大会についても汚染水処理などの限界やらを指摘されボイコット、準備不足や会場が不適切などのことも世界に知れ渡りました。これで安全保障も危うくなるということは、ニホンはかなり不味い立場になるのでは」

ニシニシムラ副長官が不安そうに尋ねるとガース長官はため息をついた。

「わからん、想定外だった」

「は?」

ニシニシムラ副長官とシモシモダ副長官が同時に疑問を呈した。

「だから、考えていなかったのだ、まさかモン大統領がここまでやるとは」

「ええー!」

「外務大臣のあの態度からみて外務省が無策とは思ってましたが、まさか長官まで」

驚きの表情を浮かべる二人の副長官。

「言いたいことはわかる、あのときのモン大統領の対話の呼びかけを無視したのも、外務大臣がなにかと挑発的言動をし、主権国家の長であるモン大統領に命令するような発言をしたのも、ニホン側であるということは」

それだけ相手を侮辱しといて、相手が逆ギレすることは予想してなかったんですかーという呆れと軽蔑の入ったシモシモダ副長官の眼差しをうけ、針のムシロ状態のガース長官は沈黙が恐ろしくて、ついベラベラと本音をしゃべりだした。

「私だってわかってはいるんだ!ニホンの特にオッサンどもが韓国に突っかかるのは、徴用工だのの問題だけではない。本質がそこにないことは!」

冷静に、丁寧に話し合いをし、議題を煮詰めていくことができないのはニホンの外交筋、とくに外務大臣のあの人だということがよくわかってて、放置したんですか、というシモシモダ副長官のつぶやきに、思わず反応してしまうガース長官。

「韓国との外交問題を冷静に解決する気なんて、アイツらにないことは私だってわかっているんだ。偉大な父親やら祖父らと引き合いにされるダメ息子や、能無しで運よく大会社の社員になれたものの退職でタダの人以下になったオッサンや情けないメンタル最弱・非モテ男であることの八つ当たりだということを!特にオッサンたちはバブル後にプライドズタズタ。“俺たちは親の金で威張れただけで、バブル崩壊したら何もないタダの人以下か~”の落ち込み状態のときに、韓国のドラマブームがおこり、あっちの男のほうが素敵と女性たちが騒いで追い打ちをかけたためであることは!」

要するにオスとして負けてる事実を突きつけられて逆ギレしただけだろ、自分らが女性にモテるのための勉強、好かれるための努力を怠ってたくせになにやっとんじゃい、というシモシモダ副長官の声なき声に反論するかのようにガース長官は続ける。

「ニホンの男はメンタルが弱いの奴が多いんだ!だいたい、弱さを自覚したからと言って、すぐに強くなれるわけではないんだぞ、しかもダメダメと落ち込んでるときに追い打ちをかけたら、逆ギレすることだってあるのだ!そ、それに韓国叩きは私が始めたわけではない!鼻っ柱を折られた漫画家だの自称有識者がよく知らんくせに歴史を捻じ曲げ始めたのが始まりだろ!」

それを選挙対策だの国民からヤバい法案からの目くらましに使い続けたのはどこの党でしたっけ、というシモシモダ副長官の無言の突っ込みに対し、

「た、確かに韓国たたきをすることで、のせられやすい国民の支持を得たり、韓国たたきを利用して軍事関係やらの法案を通してはいるが、それは向こうだって同じじゃないか!こ、今回は大臣だの、マスコミだのが暴走してだな、その」

言いかえそうとするガース長官だったが、次第に形勢不利になっていく。正当な言い分がないのだから当然ではあるが、変にプライドが高いためか間違っていたと素直に認められないのだ。その身の丈にあわないプライドの高さが、ますます事態を悪化させるとわかっていても…。

 シーン

部屋に充満する気まずい空気。と、そこへ

「た、大変です、長官」

タニタニダ副長官が飛び込んできた。内心ちょっとホッとしたガース長官だったが

「き、北からミサイルが飛んできたという報告が」

さらなる苦難にガクっと落ち込んだ。


「ど、どうしましょう、早速飛んでくるとは」

「モン大統領もびっくりじゃないんでしょうか」

「いや、事前に知っていたんじゃないかな。それで協定破棄したら困るでしょうって逆にニホンとアメリカに揺さぶりをかける気じゃ」

三副長官の発言にガース長官は、しばし沈黙。そして

「いや、大丈夫だ。総理が万全の態勢を敷くといわれたのだから」

落ち着いた声で話すガース長官。

「あの~」

「ええ!」

「はあ?」

三副長官の驚きの声。

「君たち、アベノ総理が万全と申されたのだ。アレを気にすることはないのだ」

何の根拠もないのにアベノ総理が万全といったから心配ないといいはるガース長官にシモシモダ副長官は

「し、しかし安全保障上問題がまったくないとは言えないのでは」

「いや、ない、ないことにするのだ。ドランプ大統領だって気にしてない(多分)。協定破棄もミサイルが来るのも問題はない!万全の態勢をしいているから安全と閣議決定すればいいのだ」

いや、閣議決定をしたところで、万全というだけでは駄目でしょう、物体の性質が変化して無害になるとか、ミサイルがそれるとか、そういうことはないのでは~と目で訴えるシモシモダ副長官。

しかし、ガース長官はシモシモダ副長官から完全に視線をそらし

「さ、早速、閣議決定にむけて根回しを~、欧州にいるアベノ総理やアトウダ副総理にもお伝えして直ちに~、フジサン三径グループやら黄泉瓜新聞にも“ニホンに影響なし”という記事を書かせて~」

と歌うようにいって部屋からでた。

 急いでついていくタニタニダ副長官。

「僕らもいく?」

ニシニシムラ副長官の問いに

「いかなければならないだろうな。しかし、本当に大丈夫なのか、ガース長官は。俺は心配になってきた」

答えるシモシモダ副長官。このまま韓国との関係悪化を放置してよいのか、国内では、できもしない断交だの、ましてや開戦などという、妄想を口にするものもいるのだ。そんなことになったら、カッコクレンをはじめ世界各国はニホンをどう見るのか…。アメリカはどうでるか、考えたくもない、とシモシモダ副長官は首を振った。

「ガース長官もお疲れなのかな。そういえば今日はドクダミ茶を一杯しか飲んでないけど」

ニシニシムラ副長官が心配そうにつぶやく。

「ああ、この頃、残されることが多いんで俺が飲んで始末してる。ドクダミ茶は翌日まで置いておけないんだよ。その日に煎じて冷しておかないと駄目だから、もったいないんだが」

「血糖値を抑えるとかいう桑とか、頭の冴えるブレンドティーとかも作ってるけど、あんまりお飲みにならないね」

「やはり薬理的な作用と頭の働きは無関係とはいえないのか、それとも何か変なものを食されたのかな、長官は。あのアメリカからの輸入品目を試食されたのが、不味かったか」

二人の副長官の心配をよそにガース長官は“アベノ総理が万全といったらから万全”閣議決定のために精力的に動き回っていた。


異常な暑さにより冷静さをかいたり、つい可笑しな行動に走ることはままありますが、

睡眠と適度な栄養、健康茶などの摂取で正気を保ちたいものです。


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