毛むくじゃらの聖者
森の奥深くの村の小さな家に、毛むくじゃらの猿が飼われていました。家の主人はそれを見世物にして金を取っていましたが、その猿は顔が醜く、客は次第にいなくなっていきました。
ある晩のこと、酔っ払いの若者がやってきて、猿の檻へと食べかけのチーズを投げ入れました。醜い顔の猿はむさぼるようにチーズを食べ、若者はそれを見てゲラゲラと笑いました。
きたねえな。豚のほうがまだ上品にものを食べるよ。
若者はその後も、様々な汚い言葉で猿をなじりました。しかし、猿に言葉が通じるはずもなく、彼はキョトンと若者を見上げます。若者は苛立って、その顔に唾を投げました。猿はたちまち興奮し、鉄格子をつかんで暴れだしました。若者はそれを見て愉快そうに笑いました。
悔しいか。それなら、暴言の一つでも吐いてみろよ。
若者はそう言い捨てて、檻の前を後にしました。
翌日、見世物小屋は大繁盛していました。猿が言葉を話したというのです。例の若者は驚いて、猿の檻の前に行きました。確かに、猿が言葉を話しています。それはとてもたどたどしく、覚えたばかりの言葉をやっと発音していると言ったところです。
猿は若者を睨みつけながら、
地獄へ落ちろ……と。
ところが、若者はまたも猿の顔に唾をかけてあざ笑います。
それで人間にでもなったつもりか。悔しかったら、殴りに来いよ。
それからしばらくすると、猿はますます流暢に言葉を話すようになりました。そして、ついには檻の主と交渉して檻の外へと出ました。
猿は檻から出るなり、若者を探して殴りました。若者はほほをおさえながら、また笑いました。
よくも俺を殴ったな。猿ごときが生意気だな。
そして、若者もまた、猿を殴りました。
猿は主人の農作業を手伝うようになりました。猿はとても働き者で、村人から慕われました。村人から好かれた猿もまた、村人のことが好きになりました。この人たちの幸せのために、自分が何をできるのかを必死に考えました。
しばらく経って、猿は司祭になりました。村人の心に寄り添えるこの仕事を、猿はとても気に入りました。村人はますます、猿を信頼しました。
そんな猿のことを、若者はやはり気に入りませんでした。猿が村人たちの信頼を勝ち取っていくたびに、若者の心には醜い感情が渦巻くのです。それはもう、猿の顔ほどに醜いのです。若者はついに人を殺してしまいました。それを裁いたのは猿の司祭でした。処刑台に上がる若者のために、司祭は聖書を読み上げました。若者は突然に笑い出しました。
お前はやっぱり、猿のままだな。いつ見ても、お前の顔は吐き気がする。どれだけきれいに着飾っても、お前はただの醜い猿なんだよ。
なあ。そんなだれが書いたとも知れない本を読み上げて、俺が救われると本気で思っているのか。司祭なら、きちんと俺を救ってみせろよ。
若者は、睨んだまま舌を噛み切って死にました。司祭は、猿のようにおろおろして、若者の死体を見つめているばかりでした。