第9話 私の忘れてしまった日常
本文じゃなくて、前書きに本文を写そうとしました。
「広樹くん…ウズラちゃん…?」
「なぁに?愛莉ちゃん」
「可笑しい話だよな、ここのことは一切分からないのに、君のことだけは鮮明に思い浮かぶんだ。自己紹介した後だけど、僕らって友達だったのかな?」
名前を呼ぶと、にこりと微笑みながら、返事は返ってくる。
私は、その笑顔にホッとする。
「鉄矢く、」
私は、無意識に言葉を飲み込んだ。
彼の目から、流れるそれは、涙。
そして彼から、放たれるそれは、憎悪。
「ねぇ…鉄矢くん?」私は、震える足で立つ。
そして、トンとゆっくり足をあちらに向けて、私は歩く。
それは初めて立ったクララのように、ゆっくり、震えて。
だが、この震えは、恐怖によるものだった。
手を伸ばすと、彼は、大きく手を挙げた。
「っ!!」
思わず、バッと構える。
「大丈夫だった!?」
振り下ろされた手は、下され、私の頭へ。
優しく撫でられて、少し気恥ずかしくなってきた。
「わー、私も撫でちゃおう!」
「じゃあ、僕も…」
いつもの雰囲気に戻っていく。
異様さだけは変わらずに。
先生を殺した犯人を見つけなくちゃ、いけない。
「きたよー」
「うぅ、怖いぃ…なんか、肌寒くないぃ?」
「さっきから、これなんだよー、助けてくんな…い?」
彼の顔はすぐに、蒼白になった。
私はすぐさま、思い出した。
『うわぁ!校長先生の頭は絶好調!』
「う、ウワァァァァァァァッッッッ!!!!」
「ま、待って…!!や、ヤダ、置いてかないで…!!」
普通なら、ふざけるなという場面を彼は変えた。
そう、普通ならば。怒られるはずだった言動、ずっと不思議だった。
私はあの異常な場面を、笑って、過ごした。
そして、受け入れてくれたと喜んだ。
おかしすぎた、あの場面は明らかに。
『そう、可笑しいんだよ。先生、生徒、学校の存在、全部』
ケラケラと笑う、まるでチェシャ猫のようにそいつは話す。
『話を変えよう、英雄に憧れたことはあるかい?』
汗がポタリと落ちた。
私の眼孔はきっと、開いている。
それは、この声を聞いたことがあるから?
いいや、この顔を見たことがあるからだろう?
違う、これはきっと、驚愕という感情とはかけ離れた、恐怖という感情。
「違う、きっと、これは…」
『質問の返しは、無言?…お友達さん、きみ悪がってるよ。まぁ、僕もだけど』
私は、バッとそちらの方を見た。
「あ、愛莉ちゃん…?」
怪訝そうな目、不気味そうにこちらを見る目。
そうか…お前もか…。
私は、そいつらに笑顔を向ける。
「ごめんね、考え事してて…八木ちゃん、大丈夫?」
「だ、大丈夫…前言撤回…腰ぬけちゃった…状況説明お願いできるかな?」
にこりと微笑む彼女に手を貸す。
すぐさま、立つ。だが、足はガクガクと震えている。先ほどの私のように。
「ええ、是非。」
私は、全員の顔を確かめる、一人足りない。
『僕も幽霊見えるんだ、よろしくね。あっ、名前は、木下夏樹!』
跳ねたくせっ毛の茶髪が印象的なあいつ、何故逃げた?
『僕も幽霊見えるんだ』
その言葉が、頭を木霊する。
「そっか…」
私は一言、小さくそう呟くと、鉄矢くんの方に目を向けた。
「ねぇ、お願いしてもいい?」
「…何を?」
「夏樹くんを探して欲しいの…二人も…きっと手かがりが見つけられるから。私は八木ちゃんに、状況説明するから。お願いしたいなぁって…。」
私は、伏せ目がちにそう言った。
お母さんを騙した時のように。
「それなら、もちろん!二人とも一緒に行こう!」
「う、うん。」
「大丈夫だといいね」
「そうだね!」
ニコニコと未だに笑う、鉄矢くんは私を一回見る。
「夏樹と…菜月も探すね!」
「お願いしますね。」
「わ、私も手伝うよ!あの二人の安全確保とか皆の安全確認とかしたいし…」
「あっ、保健委員だったよね、じゃあ、お願いしたいなぁ。」
私は、またもや微笑む。
「状況説明は皆が揃ってからでいいか!私は、この教室で待ってるよ!教室に来る人もいるだろうから。」
言い終えると、うんと言って、皆が出て行く。
足音が遠くに行ったのを聞き終えると、私は、また話しかけた。
「ねぇ、英雄ってそんな偉いものなのかな?」
『さぁ?僕には分かりかねるモノだからね。』