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私の____な日常  作者: 百合烏賊
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第8話 私の泥舟な日々

目が覚めると、本の上。

この光景を見るのは、二度目だ。

「また…?」

頭がズキズキと痛む、大きな痛みが来た後、脳裏に先生の死体が鮮明に思い浮かんだ。

「ひっ、あ、ぁあ…!!」

「落ち着きなよ、たかが一人死んだだけじゃないか!」

ニコニコと私の目の前に現れたのはブッ君。

「君はなんで、そう落ち着きがないんだろうね!僕は、逆に嬉しいよ!」

ニコニコニコニコ、ニヤニヤ。

そんな音が頭に響く。

数秒経つと、ブッ君は自身の丸い手で拍手を始めた。

「おめでとう!君の担任の先生である、篠美優は重要人物となったんだ!」

それを言った途端、ブッ君の体が黒に染まり始める。

いや、この表現はおかしい。

ブッ君の体の色が”落ちた”。

綺麗な鮮明とした緑から、どす黒く変わっていく。

「ほら、おしゃべりでもしなよ。あっ、でもぉ…」

その黒い表紙をめくり上げて、中から何かが這い出る。

『あ”っ…、ぁ”あ”あ”あ”あ”?』

喉が焼けたような声。風邪をひいたときのような醜い声。

何かは、本の上を這いずる。本はバラが咲いたかのように赤く染まる。

傷つけられた足や、中から出ている臓物をしまうことも忘れて、近づいてくる。

私は、その何かを知っている。

「あっ、あぁあ…!せ、んせぇ、いぃぃ”…!な、ん…!」

私は少しずつ、這い寄ってくる何かから離れる。

「ヤダ、ヤダ、助けて…!先生…!!!」

『な、ん…で?』

そんな言葉が聞こえてきた。

赤で染まった髪の毛の間から、潤んだ瞳が見える。

人にすがるような目。助けてくれとせがむ目。

私は何度、この目を見たのだろうか。

「ごめ、んなさい…!ごめん、なさい!ごめんね…!ごめん…!」

私は、ひたすら謝り続ける。

その何かは、血だらけの手を私の頭に置き、ささやいた。

『あ”、りがと…う。え”ら、い”…ね。がん、ば…れ…。』

間から、見える表情は先生の優しげな笑顔、そのもので。

「せ、んせい…!」

頭から、温もりが下される。

「ねぇ、そんな茶番劇してないで、さぁ!!」

ブッ君が、先生を殴る。

すると、その何かは、微笑みながら、消える。

その何かは、消える前につぶやいた。

「またね」

本当に小さな囁き。本当に優しげな声音。

涙が溢れる。

「助けれないの…?」

「そりゃあね。死んだ人間を生き返らせようなんて、バカの考えだよ。」

「誰が…殺したの?」

息がつまる。

目の前で消えた先生がいまなお恋しい。寂しい。悲しい。

「僕は知ってるよ。」

「…!教え!」

「でも、教えない♪だって教えたら、面白くないじゃん!これからの展開に絶望してよ!

君らは生まれ持っての希望はないんだから!君らが待ってるのは、黒曜石のような暗闇だけなんだよ!さぁ、その絶望から足搔いて出てみせろよ!」

笑う、笑う、そいつは笑う。

「なんで…?なんで?なんで、教えてくれないの?」

私は、手を頭にやり、力を入れる。

涙は、下に落ちて、本にシミを作る。

「なんで?なんで?なんでぇへへ、あはは、なんぇぇぇ?あはははっ!ねぇぇ…?ねぇ?……答えてよ…!誰が!!私たちの…!!せんぜいを殺したんだよっ!!!!?」

問う自分がバカバカしくなってきて、笑いさえこみ上げてきた。

だが、それを押しのけるように、次は怒りが収まらなくなる。

喉が痛くなりそうなほど、声を荒げる。

「君は、変わったんだね。変わった君なんて…いらないんだよ…?

なんで、感情を持つの?

感情を持つから、苦しむんだ。自分を自制しろよ。自分を自制することすら出来ない奴に、

相手を悲しむ権利なんてあるのか?なぁ?答えろよ。笛吹愛莉。」

それは暴言のように聞こえて来る正論。嗚呼、意見を反対されて、視力を失ったガリレオもこんな気分なのだろうか。

彼は、悲しみすら忘れたのだろうか。自分の見た、最後の景色ばかりを思い浮かべて、感情を殺したのだろうか。

「…違う…彼は、認められた。」

「は?」

彼が支えた、彼らが信じていた地動説は、認められた。

「たった一人を失った悲しみに打ちひしがれていては、いけない…。」

「ああ、そうだな」

「そのたった一人のために…。」

私は、呟いていく。

「また会うために。」

それは確信に近いような、言葉。

「ねぇ、ブッ君。」

私には、そいつに対して、微笑む。

「…」

答えは返ってこない。

「お休みなさい。」

私は、そこに倒れた。



ーーーーーーーーーー暗転ーーーーーーーーー


「あっ、起きたよ!」

「よかった、君で最後だよ」

私の目の前にいるのは、紛れもなく、うずらちゃんたちだった。

「ここ、どこなんだろうね?」

「さあね」

「えっ」

先ほど、発見できたはずの真実。信じられない光景。

本当に見慣れた光景、私たちには日常すぎる光景。

「な、んで…?」

私は、その言葉が出ているのか、わからなかった。

しかし、私の頭に鳴り響く鐘の音は、きっと危険信号。

「あっ、初めまして!私は、うずらっていうの!」

「僕は、広樹。よろしくね」

二度目の光景、けれど、私の視界に入るものは変わらない。

先生の死体、私の嘔吐物。

「…」

ただ一人、鉄矢くんだけは、呆然と私を見つめていた。


最後の「ただ一人」が「ただーん」に見えてしまった。

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