第6話 私の嘘のような現実な日常
「 鉄矢君ずるいんだよね、なんで愛莉ちゃんの家知ってるのさー」
「…?私教えてないよ。」
きょとんと首をかしげながら言うと、皆がえっと声を漏らす。
ただ、鉄矢くんだけが、ニコニコと微笑んでいた。
皆から視線を送られても、微動だとせずに、言う。
「家、隣だからさ」
「な、なーんだ。びっくりしたー」
皆のホッとした声に、なぜか気が抜けた。
「そういえばさ、せっかくだから、皆で映画とか見に行きたいなー」
場を和ませようとしたのか、突然、菜月くんが言った。
「僕、いいところ知ってるよ。あんまり混んでないから、僕らにはいいかもね。」
鉄矢くんは皆に向けて、気遣ったのか、にこりと微笑みながら、言った。
「いいなぁ、僕行った事ないから行ってみたい。」
夏樹くんがそう言うと皆も賛成賛成と声を上げる。
突然、ドアがすっと開かれて、要さんが入ってくる。
「飲み物をあげてなかったから来たけれど、楽しそうな話してるわね。」
優しく微笑みながら、お茶を持ってきた。
「すみません、うるさくして。」
「全然大丈夫よ、私は愛莉ちゃんが楽しければいいのよ。たった一人の愛娘ですもの。」
広樹君の言葉に、優しく答え、私の望む言葉で返してくれる。
嗚呼、なんて美しい人なんだろうか。
私はなんて、無様なんだろうか。
「愛莉ちゃんは映画行きたい?」
「うん、行きたい。」
そう答えると嬉しそうに微笑んで、要さんはポケットから財布を取り出した。
「行ってらっしゃい。」
「え、でも。」
「もう、熱は引いてるでしょう?まだ、お昼の時間だし、もうそろそろアレだから、すぐにはいけないわよ。それに中学になってからじゃ遅いもの。」
私は唇を噛み締めて、手をギュウッと握る。
「…うん。」
「気をつけてね。」
優しく微笑む要さんに、私は少し悔しくなり、つぶやいた。
「ありがとう」
「どういたしまして、みんなの分も払ってあげてね。楽しんでらっしゃい。」
「いえ、そんな…」
遠慮する言葉にシーっと指を口に当てて、いう。
「今のうちは大人にうんと甘えなさい!」
「…はい。ありがとうございます!皆、いくぞ!」
「はーい!」
「あ、ありがとうございます!」
皆が口々にお礼を言いながら、部屋から出て行く。
「行ってきます。」
「行ってらっしゃい。」
私も部屋を出て行く。
外に出ると、風が心地よく吹いていた。
「鉄矢くん、映画館ってどこー?」
「こっちだよ」
「うおっと…まってまってー!」
裏道をまっすぐ通ると、グニャグニャと曲がった道に入る。
「うわぁ、変な道。」
「愛理さん、大丈夫?」
「うん、大丈夫」
曲がった道から左の道に入ると映画館のような古いボロボロな施設があった。
「うわぁ」
「すごぉい!」
「ははは、よく来るから慣れちゃってたけど、やっぱり変かぁ」
鉄矢くんが笑いながら、入っていく。
「おじさーん!子供…えーっと、9人!」
「はいはい、450円だよ」
他の映画館に比べ、安いと思ったが、私は何も言わず、払った。
「何の映画見るの?」
「そういえば、言ってなかったね」
「お楽しみだよ」
ニコニコと前方を進んで行く。
扉の前に来ると、ドキドキとした気持ちを抑えきれず、そわそわしてしまう。
「楽しみだね!」
「うん…!」
そういえばと周りを見ても、やはり人がいない。
こんなにも人が少ないのに、この映画館が成り立っていることに驚愕した。
素直に言えば、すごいと思った。
「はい、どうぞ。」
「ありがとう。」
中に入り、小綺麗な椅子に座る。
「ポップコーンとかはないんだね。」
「食べながら見るより、普通に見て楽しめって方針らしくてね」
「変な方針だな」
「言っちゃダメだよ!」
思ってるのはいいんだろうかと卑屈なことを考える。
「始まるよ」
その言葉と同時に、眠気に誘われる。
「なんか…眠い…」
「ふぁぁ〜…」
まぶたが重くなってくる。
「なんでだろう…」
鉄矢くんですら疑問に思うことが、起きている。
私は重くなるまぶたに抗おうとしたが、抵抗も虚しく、私は眠りについた。
ア「鉄矢くん、ストーカーなの?」
俺「知らん」