第5話 私の夢のような日常
この場面は、趣味まるだしになりました。
「あら、もう寝てるのね。」
「きっと疲れていたんだろうね。」
「ふふ、そうね。寝かせといてあげましょう。」
「じゃあ、ここで待ってますね。彼女が起きるまで。」
*
ここはどこだろうか。
私はベッドで寝ていたはずだ。
風邪のような気だるさも寒さもない。
手足を動かす時に重いという感覚もない。
「あ、椅子がある。」
「それはね、バズビーズチェアだよ!」
後ろから聞こえた声はとても幼かった。
振り向くと、そこにいたのは本の妖精のような者だった。
「誰?」
「僕はブッ君!本の妖精だよ!」
まんまだった。その本の妖精は、ふよふよとその椅子に座る。
「この椅子に座った人は死ぬんだよ!」
「え、でも、貴方は…」
「死ぬよ!」
その言葉とともに空から四角い重りが降ってきた
1トンと書かれている重りは座っていたブッ君と共に椅子を潰した。
重りの下からは椅子の破片と赤い血のようなもの
「ひっ!?」
「大丈夫!僕は死なない!だって、僕は本だもの!」
私は思わず、小さく悲鳴をあげて、後ずさった。
が、潰れた先とは真反対、私の後ろにまたブッ君はいた。
「えっ、今潰れて…」
「潰れてないさ!本だもの!」
震える指で、重りの方を指差すが、きょとんと返す。
「そんな、軽い言葉で…」
「軽いよ!だって本だもん!」
ニコニコと単調な顔で笑っている。
どうすればいいのだろうか。
誰もいない、この世界で。
周りを見渡せば、まるで図書館のよう。
だけれど、それはどこか不自然だった。
「ねぇ、ここどこ?」
「ここは博物図書館さ!」
「なにそれ?」
博物図書館?
聞いたこともない。
「ここはね、いろいろなものが展示してあるのさ!例えばさっきのバズビーズチェア!
軍服もあるよ!僕が気に入ってるのはやっぱり、日本の海軍服かなー。君はどう?」
聞いたこともない言葉の連発で意味がわからなくなる。
「軍服ってなに?」
「戦争中に使った服さ!」
「戦争ってなんで起こるの?」
「なんでだろうね!僕は人が愚かだと思うからだよ!」
「愚かってなに?」
「…君は質問ばっかりだね!気分を変えよう!僕からも質問をしていいかい?」
そいつは爽やかに笑う。
ただただ、私の答えを笑いながら待っている。
その姿はまるで…
「鉄矢くん…」
「何か言ったかい?もちろんって意味の言葉でもつぶやいたの?」
「ううん…何でもない。いいよ。」
「じゃあ、質問をしよう!」
途端、単調で爽やかな笑顔から、にやけ面になる。
「君は何で自分の両親を殺したんだい?」
なんでだろう、わからない。わかりたくない。
答えなくていい答えなんだ。それはきっと。
「答えないの?」
答えなくていい答えだ。
「答えれないの?」
…いつまでも現実逃避をしてはいけないのだろう。
そいつは未だ、ニヤニヤと笑っている。
そうだ、答えれないと言った方が妥当だろう。
質問をしている本の妖精は、ニヤニヤと私の答えをわかっているのに対して、期待している。
期待通りの言葉が返ってくるのを待っているのだ。
それはマッチ売りの少女の期待に応えるマッチのように、私はつぶやいた。
「殺してないよ。」
その時の私の表情は、わからない。けれど、本の妖精の歪んだ笑顔よりはマシな顔だろう。
期待通りの答えなんて返ってこない。絶対に。
まるで、死んだ後に評価される画家や作家のように。
「嘘つき。」
「知ってた?嘘つきは正直者にしかなれないんだよ。」
「自分勝手」
「そうだよ。だって、自分を導けるのは自分だけだもの。」
「君は大人みたいなことを言うね。君はいつだって女神のような悪魔だよ。
まるで心優しいサタンみたい。」
私は思わずくすくすと笑う。
「サタンが心優しいわけないじゃない。」
「もしかしたら、そうかもしれないだろう?」
私たちはまるでカフェにいる裁判官たちの会話をしている。
嗚呼、心地よい、もういっそこいつと過ごしたらどうだろうか。
「お……ふ…ちゃん。笛吹…ちゃん。愛莉さん。」
あれ、皆の声が響いてるや。
行かなくちゃ…でも、この子を置いて?
「もう行っちゃうの?もう少しいようよ。君とおはなしをいっぱいしたいな」
子供が駄々をこねるかのように、笑う。
それを親がするように、抱きかかえてぎゅうと締め付ける。
「またね。」
いつからこの子に愛情を示したのだろうか。
嗚呼、愛おしい。愛おしい私だけの…
*
「ん…?」
「おはよう!愛莉さん!」
そこにいるのは、鉄矢くんだった。
私は、彼の頬に手を伸ばして突いた
「やわらかいなぁ…」
「…うーん、皆いるよ?並びだしたよ?」
「10秒で交代!」
「愛莉ちゃんは俺たちのだ!!」
「寝ぼけてるから、静かに…!」
私は目をパチパチと瞬きをする。
そこには皆がいた。綺麗に一列に並んで。
「あら、起きたのね。ここに水置いとくから、飲んどいてね。皆お見舞いに来てくれたんだよ。」
「お見舞いに来ました!!」
「そして、お見舞い品のりんご1個と花束!」
「皆のお小遣いを合わせて買いました!」
「あと、明日はプールだからね!!」
「やったぜ!暑い夏には最適だ!」
私はふふふと笑う。皆に向かって。
「楽しみだね。」
「そうだね、明日君の元気な姿を見れるなら僕はそれだけでもいいと思うけどね」
「わっ、鉄矢が口説いてやがる!」
「いけ、第一取り押さえ隊!」
皆がドタドタと騒いでいる。
私はその夢のような光景を眺めて、皆に聞こえないように一言つぶやいた。
「つまんないなぁ…」
ポツリポツリ、私としての破片が心から零れていくの感じた。