逆ハンディキャップマッチ
「調印式はマスコミを呼んで盛大にやりましょう」
と社長兼エースのガーリック富田林が大声で叫ぶ。
「着ぐるみと思われませんかね」
心配性のスティック穂先が疑問をぶつける。
「わしが着ぐるみだと申すのか。この愚か者め」
と竜は自分のほっぺたをつねってみて「アウッチ」と叫ぶ。
「それは証拠になりませんよ」
スパッツ岸田が念押しした。
「試合中に選手に怪我をさせるわけにいかないから、口輪と爪に手袋をつけましょう」と何やら道具を持ちだしたガーリック富田林。
「何だその拘束具は? わしの自由を奪う気か! 」
「その牙と爪を自由にしたら、スプラッターな試合になってしまうじゃないですか」
「プロレスに流血は付き物ではないのか」
「その口や爪なら肉を根こそぎ持って行かれます。選手に致命的なダメージを与え、興行が不可能になります」
とクレバーなレフェリー=スパッツ岸田の説得により、竜は嫌々ながら拘束具をつけた。
「そういえば、竜さん。まだ名前を聞いていませんでしたね」
「それでは名を名乗るから耳の穴をかっぽじって聞け。わが名はポリンフアン三世なるぞ」
「脱力しちゃう名前だな。面倒くさいから、ただの竜でいいよ」
「うぬぬぬぬ、お前らはわしを愚弄する気か」
竜は怒り心頭で上半身が赤く色づいている。
「一つここはスパーリングをやって見せましょうや」
船村久満とコブトリ桃山がリングに上がる。
ナンバー2の船村久満が腕を交差させて音を鳴らした。そして竜の胸元に手刀の水平打ち。
「い、痛い──っ! 」
「痛いって、序の口ですよ」
竜はと見ると首をねじりながら痛がっている。
「あのー。もしかして、打たれ弱いんですか」
心配そうに竜を見つめる船村久満。
「お前らは、いつもこんな痛い事をするのか」
「それがプロレスというものです」
と続けてコブトリ桃山が、みぞおちにドロップキックをした。竜はひっくり返って転げ回った。
「お前ら一匹相手に二人がかりで、ひきょう者め」
「やだなあ。三人掛けを想定していたのに」
三人掛けとは一人対三人のハンディキャップマッチのことである。
「やり過ぎだぞ。限度というものを知らんのか」
竜は起き上がると、それは冷たい自然のクーラーのような息を吐いた。
「あー涼しいッス。もっとお願いするッス」
コブトリ桃山は喜んでいる。
「くそっ。わが攻撃が効かぬとは。こうなったら仲間を召喚してやる」
竜は、竜語で呪文を唱えて二匹の竜を召還した。
結局、本番の対戦カードは、ガーリック富田林が、三匹の竜と一戦を交える形になり、竜の弱さに観客席は拍子抜けだった。
「本物の竜が出てくるので期待していたら、弱すぎてあくびが出てきた」
「しょせん、三流団体の見世物だからな」
「だから竜が三匹出てくるのか」
オチがちょっと、やっつけだったと思います。