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満月の夜  作者: サリー
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第6話

アヤカは今日とても疲れていた。昨夜は一睡も眠れなかったのだ。『由美…』アヤカは由美が何も言わず消えてしまった事が信じられないでいる。由美とは高校生の時、学校で知り合って以来唯一アヤカが心から信じられる人間だった。そして、由美もそうだと思っていたのだ。絶対何か事情がある。アヤカは由美が何か事件に巻き込まれたのかもしれないと考えていた。何とかしなくては…。アヤカが施設を出た時、由美はもうすでに一人暮らしをしていた。その時は何か事情があってとだけ聞いていたのだが、由美の父親が原因だと後で由美が教えてくれた。その父親3年前に亡くなっている。そして由美には母親はいない。頼れる親類も誰もいないのだ。

警察に連絡しようと言ったアヤカを仁は激しく止めていた。そして自分を信じろと言っていた。『なぜ!?仁は何か知っているのよ、絶対』

『仁…彼はただのマスターではないのかもしれない…何なの、一体なにが起こっているの!?』

そして、あの晩のアヤカが見たものは一体……

アヤカは警察に言うべきか悩んでいたが、どうせアヤカの見た事は誰も信じてくれないだろう、そう思っていた。

「アヤカちゃん!」

そう考え事をしている時、突然誰かがアヤカの名前を呼んだ。

「アヤカちゃん、どうしたの?考え込んじゃって…大丈夫?」

神埼だった。神埼は爽やかな笑顔でアヤカの顔を覗き込んでいた。

「あっ…神崎さん今日はお休みじゃなかったっけ?」

神埼は何か用事があって今日休暇を取っていたはずなのだ。

びっくりしたアヤカはもっとまともな答え方をすれば良かったと、少し後悔した。

「そうなんだけど、思ったより用事が早く終わってね、それにアヤカちゃんの顔を一日でも見ないと何だか調子がでないんだ。」そう言って神埼は軽くウインクしてアヤカの頭をポンポンと撫でた。

アヤカは神埼に会えて嬉しかった。今日は神埼に会えないと思っていた分、余計に嬉しかった。

『苦しい…何だか胸が苦しい…神崎さんに会えてとっても嬉しいはずなのに、私、どうしちゃったのかしら…』

アヤカは自分の心の変化に戸惑っていた。

『私…彼の事が好きなのかな……』アヤカは彼に惹かれていっている事に気付き始めていた。

「アヤカちゃん、もうすぐ上がる時間だろ?飯食いに行こうよ、待ってるからさ」

「うん、わかったわ」


二人はいつもの居酒屋に来ていた。神崎はこの間の高級レストランに行こうと言ってくれたのだが、アヤカはこっちの方が気が楽だったのだ。

二人はいつものように他愛の無い話しをしていた。

「良かった、アヤカちゃん、もう俺と話をしてくれなかったらどうしようかと思ってたんだ。あんな事を突然言ってしまったからね。君を困らせたんじゃないかと気になっていたんだ。」

「そんな…神埼さんにあんな事を言われて嫌になる女性なんていないと思うわ…」

アヤカは不思議だった。なぜ神埼に彼女がいないのか…実際、アヤカは神埼の事を2年近く知っているが、彼女がいたのを見た事がない。

「そう言ってくれると嬉しいよ。アヤカちゃん、俺は君の事が本当に大切なんだ、俺で良かったらいつでも君の力になりたいんだ。」

アヤカは嬉しかった。アヤカの事を大切だと言ってくれる…そんな人がいる事にアヤカは幸せを感じていた。

『彼に話してみようか…彼ならきっと信じてくれる』

「あのね、聞いてほしい事があるの…」

アヤカがそう話始めた時、誰かがアヤカを呼んだのだ。

「アヤカさん!」

仁だった。

「仁さん、何でここに?どうしたんですか?」

「さあ、行きましょう」

そう言って、仁は突然アヤカの腕を取り表へ連れて行ったのだ。

「仁さん!!突然何をするの?私、一人じゃなかったのよ!?」

「知っていますよ、ちゃんとね。あなたは彼に何を言おうとしていたんですか?忠告しておきます。誰も信じてはいけません。あなたは彼の事を何も知らない、彼はあなたが思っているような人間ではない」

「どういう事!?あなたに彼の何が分かるって言うの?あなたの方こそ信用できません!こんな…こんな突然現れて…まさか…私の後を付けていたの!!!?」

「彼を信用してはいけない」仁はまるで機械のように言い続けた。

「ひどい言われようだな、これはこれはライバルが現れたという事かな?アヤカちゃんほどの女性ならそれも覚悟はしていたけれど、こんなふうに言われちゃな〜俺も黙っていられないね!」

神埼の口調はおどけている様に聞こえた。だがその目は仁がたじろぐ程の迫力ある目で仁を見据えていた。

「アヤカさん、今夜は失礼しますよ。だが、さっき私が言った事は忘れないようにして下さい」

そして仁は神埼にこう言って静かに去っていった。「あなたとはまた会う事になりそうですね。」

神埼の運転する車の中で、アヤカと神埼は何も語ろうとはしなかった。アヤカのアパートが近づいてきた時、神埼がようやく口を開いた。

「アヤカちゃん、俺を信じてくれ。何があっても俺が君を守る。俺は君の事を心から愛しているんだ…」そう語る神崎の顔は何かに苦しんでいるかのようだった。

「神崎さん…私もあなたの事が好きです。でも、私は不安なの、今色々な事に本当に不安なの…」そう言ってアヤカの目からは耐えられなくなった涙がとめどなく流れた。

「アヤカちゃん!!俺を信じてくれ!必ず君を守る。君は一人じゃない!君には俺がいる。

アヤカ…アヤカ…」

そう言いながら神埼はアヤカを力のかぎり抱きしめた。


神埼はアヤカを部屋の前まで送ると言って一緒に車から降りて来た。

「アヤカちゃん、何かあったらすぐに俺に連絡するんだ!わかったね!?」神埼は少しきつい口調でアヤカにそう言った後、

「何なら今夜君の所に止まっても良いけど?いっそのこと一緒に住んじゃおうよ!?」とふざけた口調で神埼はアヤカの肩を抱いた。

「神崎さん!!ふざけないで!!」

「ははは、ごめん!冗談だって!」

アヤカは分かっていた。神埼はわざとアヤカの気持ちを和ませようとしているのだ。

神埼は本当にアヤカ事心配してくれている。アヤカはなぜだか分からないが、心から神埼を信じられる気がした。神埼といると不思議と心が安らぐのだ。何だか懐かしい気持ちにさせられる。

「神崎さん、あのね…話したい事があるの…」

そうアヤカが口を開いた時、

「キィィィィー!!!」

という音と共に一台の車がアヤカと神埼めがけて突っ込んできたのだ!!!

「危ない!!!」神埼がアヤカをかばう形で二人は道の端へと転がった。

そしてその車はそのまま走り去ってしまった。

「大丈夫か!?」「ええ…大丈夫みたい…」

神埼はアヤカの安全を確認すると車が走り去った暗闇へと激しく視線を送っていた…

「ちっ!動き出したか…」


アヤカの事を心配した神埼が、今日は別の所へ泊まった方がいいと言ったが、アヤカはどこにも行く気にはなれなかった。何かあればすぐに連絡すると言い聞かせ、それでも渋る神埼を半ば強引に帰したのだ。

アヤカは一人になりたかった…

『あの車、わざと私達に向かって来たわ…なぜなの…私達?いいえ、私に向かって来たわ!

彼がいなかったら今頃……』アヤカは震えていた。

そして、アヤカは聞き逃さなかった。

『ちっ!動き出したか…』そう呟いた神埼の言葉を…

アヤカは目に見えぬ恐怖に怯えていた…


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