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満月の夜  作者: サリー
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第4話

その日の日曜日は晴れ渡ったとても気持ちの良い日だった。

アヤカは午後から由美と久しぶりにショッピングなどを楽しむ予定を立てていたので、午前中の内に洗濯や掃除らを終わらす為に忙しくしていた。

その時、アヤカの携帯電話が鳴った。由美からだった。

「アヤカ!ごめん!!今日無理になっちゃった!この埋め合わせは必ずするからごめんね〜!」

「うん。わかった。いいよ、気にしないで!」

正直アヤカはがっかりした。この間の出来事と夢のせいで気分が落ち込んでいるのだ。あれから変わった出来事は今の所ないが、やはり嫌な気分は消える事はないし、十分に用心するようになった。護身用にスタンガンも通信販売で購入済みだ。届くのは何日か先になるが。

アヤカは驚いた。スタンガンというともっと大きな物を想像していたが、思ったよりもコンパクトな物が沢山あるのだ。アヤカは手のひらにすっぽりと収まるタイプを購入した。

「さてと…今日は何をしようかな…」

家に閉じこもっているのは余りにも勿体無いほどの気持ち良い日だった。

でもアヤカは一人で出かけるのはあまり好きではない。とにかく声をかけられるからだ。ナンパはもちろんの事、タレントのスカウトや夜のお仕事のスカウト、時にはファッション雑誌のカメラマンから勝手に写真を取られたりする事もある。誰かと歩いていても同じ事だが、一人で声をかけられるより誰かが一緒の方が心強い。

『やっぱり今日は家で過ごそう』

そんな事を考えていると、突然携帯電話が鳴り出した。

「由美かな…?」

しかし表示する名前は見た事の無い番号だった。無視をするべきか悩んだが、アヤカは電話に応じる事にした。

「はい、もしもし…」

「あっ、あの、すみませんが、これは、春日さんの携帯番号で合っていますよね」

「そうですが……どちらさまですが?」

「あの、俺、神埼だけどアヤカちゃん?」

「びっくりした!神崎さん!?どうやってこの番号わかったの?」アヤカは驚いた。神崎とはもう何度も食事を共にしているが、いつも仕事帰りということで電話がかかってきた事など無かったからだ。『でも…どうやって?私、教えたかしら…』

アヤカの携帯番号は由美以外誰も知らないはずだ。

「まぁ〜、俺にはわからない事は無いんだよ〜」神埼はそう言ったが、アヤカにははぐらかした様に感じた。

「アヤカちゃん、今日、時間ある?もし良かったら映画でもいかない?」

断る理由はアヤカにはもちろんなかった。


映画の後、二人はある高級レストランの個室にいた。神崎が予約を入れていたようだが、正直アヤカは戸惑っていた。レストランでの神埼の振る舞いはまるで常連のようであり、レストランのマネージャーと言う男がわざわざ神埼に挨拶に来たのだ。そして、このレストランのメニューはどれもこれもかなりの高額だということくらいアヤカにもわかる。

デパート勤めとはいえ、おもちゃ売り場の従業員の給料ではとてもじゃないけどこんな高級レストランにそう来られるはずはない。いつもアヤカと一緒に行く所は、居酒屋とかそういったような所だ。しかし、どう見ても神埼はかなりの回数でここに通っているように見える。

「アヤカちゃん、何でも好きな物食べてよ。遠慮はしない事!」

アヤカの胸には疑問が残ったが、今は言われる通り御馳走になろう。この場の雰囲気を壊したくなかったのだ。そのような事を考えていると突然神埼が口を開いた。

「俺の給料なんかで大丈夫かって心配しているんだろ?心配なんてしなくて良いから。金ならあるんだ、親父の金だけどね。悪いけどこれ以上はもう言いたくないんだ。」

アヤカは見逃さなかった。そのように語る神崎の目は悲しみに溢れていた。

神埼はいつも明るく笑顔だ。機嫌の悪い所なんて見た事が無い。でも…本当は神埼も心は泣いているのかも知れない。人間とはそんなものだ。どんなに苦しい事があっても悲しい事があっても結局は生きて行かなければいけないのだ。

「アヤカちゃん…?」

気が付けば神埼がアヤカの事を見つめていた。アヤカは胸が高鳴るのを感じた。なぜなら神埼のアヤカを見つめるまなざしはいつもとは確実に違っていたのだ。

「アヤカちゃん、俺は、君の事が好きだ。でも、その気持ちは簡単に言葉で言えるものじゃないんだ。君は俺にとって、本当にかけがえの無い失いたくない存在なんだ。だから、君を困らせるつもりもないし、何かを望んでいる訳でもないんだ。ただ傍にいて君を守りたいんだ。」

「神埼さん…私…」

「ははは、ごめんね、突然驚いただろ?どうしても一度でいいから俺の気持ちを伝えたかった。いいんだ、今言った事は忘れてくれても。」

ちょうどその時料理が運ばれてきたのでその話はそれっきりになった。

帰りは神崎が送ってくれると言う申し出を素直に受ける事にした。

「神埼さん、今日は本当に楽しかったわ。有難う。それと…私、今は正直恋愛とかよくわからないの…でも、神崎さんの事は私もとても大切に思っているの。あの…上手く言えないんだけど、これからも仲良くしてほしいの。」

「もちろん!!アヤカちゃん…有難う。」

神埼は嬉しそうだった。それを見たアヤカもとても嬉しかった。


バスタブに浸かりながら、アヤカは神埼の事を考えていた。

『恋愛か…神埼さんなら幸せにしてくれるんだろうな…』

今までの男の人達に告白された時の気持ちとは明らかに違っていた。アヤカは今十分に幸せだった。

アヤカには10歳から以前の記憶が全く無い。自分が本当は何者で、親はどうしてアヤカを捨てたのか、《アヤカは親に捨てられたと思っている》一体自分の身に何が起こったのか何一つ分からない。

そしてこの間の奇妙な出来事、あれは何だったのか…

それと…一体神埼のお父様とはどんな人物なのだろう。分かった事は神埼が相当なお金持ちの家の息子らしい事だ。でも、それならなぜ、神埼はおもちゃ売り場なんかで働いているのだろう。分からない事だらけだ…

しかし、今のアヤカにはそんな事はどうでも良くなっていた。

今日レストランで聞いた神埼の言葉だけがアヤカの耳に優しく響いていた。


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