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ノムスメ。  作者: そらのさかな
1/2

転校生の名は「峰 紅玉」

新しくはじめました。よろしくお願いいたします。

その学校は都内でも有名なお嬢様学校である。


入学金、授業料は都内でも3本の指にはいり入学には家の格の審査まである。

(まあ、時代的におおぴらには言っていなけれども)


そんな学校に転校生がやってきた。


学校の創立120年の歴史の中でも転校することはあっても転校してくることはほとんどない。


「よろしくお願いいたします」


教壇の前で挨拶した声は消えるように小さく、

顔を隠すように前髪が長く、

肩下まである黒髪はサラサラとしていた。


「峰さんはお父様の仕事の都合でフランスでの生活が長く、日本に慣れていないということなので、みんな色々と教えてあげてください」


担任の三枝先生(担当国語)がそういって教室を見渡す。


「はーい」


今どきの女の子たちだが、そこは良家の子女。

先生の言う事には良い返事で返す。

短いHRが終わり、先生が教室から去ると

年頃の女の子たちらしい姦しさが出て来る。


「峰さん、フランスって、どこら辺にいらっしゃったの?」

「私もパリは何度か言った事があるんです。素敵な街よね」

「お仕事のご都合ってことはお父様もお母様も日本の方なの?」


当たり前の日常に退屈していたお嬢様方には絶好の話題提供の転校生。

輪に囲まれながら、質問に答えている。


「パリはとても素敵な街ですよね。私は7区に住んでました。父がフランスとのクオーターなので、ひいおじい様がフランスの方なんです」


日本人のような見た目だが、1/8はフランスの血が入っているのだという。


転校生を囲んでパリの話に花が咲いていたところで

大きく椅子を動かす音がして、おしゃべりの声が止まった。


「ゆ、ゆかりさん」

学年でもトップクラスの家柄である鷲宮ゆかりが

こちらを面白くなさそうに見ていた。


「みなさん、次の授業は皐先生ですから、移動しなくてはいけませんよ」


転校生の話はもう終わり、とでもいうように

クラスのみんなに言うと、教科書を手にとり

「さ、いきましょう、みなさん」

と、まるでクラスを代表して私が歩きますというように颯爽と廊下へと歩いていく。

「そ、そうですわね」

「皐先生の授業は特別教室で行われるので、まいりましょう」

転校生もみんなとともに教室を移動する。


ゴールデンウィークが終わり、夏休みまでのカウントダウンが始まるにはまだ少し時間がある5月末。転校生が来たのはそんな時期だった。

高校二年生という学校には慣れたが大学受験までにはまだ時間があるこの時期、女の子たちは日々の刺激に些か飢えていた。

そんな中に珍しい転校生が来れば必然と注目の的になる。

しかも海外からの帰国子女といえば女の子の中でも憧れの目線で見られることもある。


それが面白くない、そんな女の子もいる。


「紅玉さんのお家は何をしていらっしゃるの?」


アメリカのドラマでいうところの金髪チアガールのようなスクールカーストの頂点にいそうな彼女は

廊下を歩くあちこちで

「ごきげんよう」

と声をかけられるたびに優雅に挨拶を交わしていた。

学校の生徒の視線の先には常に自分があるべきだと思っている、そういうタイプだ。

立花京香という名の彼女は日本でも有名なグループ企業の会長を祖父に持ち、有名なIT企業の社長を父に持つ。しかも母は元華族の家柄でありこの学校の中では家柄でも資産でもトップだ。


「父は…フリーランスでいろいろなことをしていて…」

「まあ、クリエイターやアーティストでいらっしゃるの?」

「そんなようなものですね…」


京香は紅玉の父が自分の祖父や父などとは肩を並べるべくもないものだと思ったのか、少し小馬鹿にしたような頷きをし、すぐに興味が薄れたように取り巻きの生徒たちと談笑を始める。


紅玉は少し戸惑ったような表情を浮かべ、そのあと、ほんのかすかに、うっすらと口の端に笑みを浮かべた。


お昼は学食というにはおしゃれすぎるカフェテリアでのコース料理か、家からの仕出し弁当であちこちで行われる会食、それを横目でみながら中庭で紅玉は持たされた「お弁当」を広げる。


フランス育ちの紅玉は日本の「お弁当」のそれがトラディショナルだと思っていたが、重箱のそれは周囲の注目を浴びる豪華さだった。


「紅玉さんのお弁当・・・すごいわね」

「盛り付けも綺麗だし、どこの料亭で作られたの?」

「料亭・・・いえ、私の執j…いえ世話係が作ってくれたので…」

「まあ、世話係さんがいらっしゃるのね」

「その方はプロの料理人ではいらっしゃらないの?」


魚の焼き物、野菜の揚げ物、煮物、季節の野菜と魚と肉が彩り良く重箱に詰まっていて、手が込んでいることがある程度美食を嗜むお嬢様学校の子女にも一目瞭然だった。


「私の世話係は手先が器用でなんでもできてしまうので…」

「素晴らしいわ」

「というかお世話係がいらっしゃるのね?」


人に囲まれて昼食をとる紅玉を恨めしそうな目で見ていたのは


「ちょっと目新しいからちやほやされているだけよね」

「そうですわ」

「京香様のほうが昼食は豪華ですもの」

「わざわざシェフを用意させての昼食は京香様くらいですわ」


件の京香とその取り巻きたちであった。




放課後。

校門を出て、しばらく歩いた紅玉は、一本細い路地に入ると、そこに停まっていた車に乗り込む。

「おかえりなさいませ」

「ただいま。柘榴」

「どうでした、初日は」

「んー、マウンティングの戦いみたいな? あ、お弁当は良い仕事したわよ」

その口調はおとなしいお嬢様学校の生徒ではなく、人を従える風格をも纏っていた。

「そのうち向こうから張り合ってくると思うから準備よろしくね?」

「かしこまりました」


柘榴、と呼ばれた彼は優雅に返事をすると、車をゆっくりと走らせたのだった。

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