2種
「さて、受け取ってしまったがこれはどうしようか・・・。お前はどうして欲しい?」
『ぶうぅ・・・』
「うん、返事できる訳無いよね」
言葉が違うどころか種族も違う相手からの返答はひどく味気ないと思いながら、赤ん坊を向かい合うように持ち上げてみても、答えはふってこないし浮かんでも来ない。
疲れたのか飽きたのか、私を呼んだ大音量の雄叫びを上げる事も無く、赤ん坊はその小さな目をキョロキョロ動かして、興味津々と出も言いたげに私の頭の先から足先までを凝視していた。大方、母親らしいあの死体と体のつくりが違うのが気になるのだろう
「・・・・・そういえば、人間をマジマジと見る事とか始めてかも」
『あぶ?』
「へぇ、こうなってんだ」
なんとなく見られたから見返してみると、人間と私の体はいくつか共通点があるのがわかった
まず頭。基本鼻も口も形も似てる、目の数は人間は2個しかないみたい。私より6個も少ない
近くの池に顔を映して見る。まずは大きな目が2個、コレだけなら人間と同じだけど。私の目はその2個に沿うように3個ずつ小さな目がある。色だって人間みたいに白と青とか2色じゃなくて綺麗な緑一色だ
「・・・んあ?お前の目の真ん中の色、私の目の色に似てるね」
『だぁ?』
手の中に居る赤ん坊の目の色も緑色、私の目の色より少し薄いみたいだけど、なんだか親近感が沸いてきた
「うん?うんん?」
『だ、だぅ・・・?』
「え、人間って牙が無いの!?」
『あがぇ!?』
少し高めに持ち上げてみて、驚いたように口を開けた赤ん坊の口の中にあるはずの牙が無くてこっちが驚く。急いで口に指を突っ込んで口を広げても、そこにあったのは申し訳程度の尖っていない牙が3本、適当な位置に生えているだけだった
「・・・・・いー」
赤ん坊の口から指を抜いて、池に顔を向けて歯を剥き出しにしてみる。見えるのは生え揃った牙だ
『いー?』
「んあ?ははっ、それ私の真似?」
『っきゃっきゃ』
どこか楽しげに手を伸ばす赤ん坊。その手もやっぱり私と違う。
赤ん坊の手はすべてが柔らかそうでプニプニしている。短い指も肘も、それに比べて私の腕はそれとは逆で、肘から先が肥大硬質化していて間接部位が虫のそれとなっている。綺麗な赤ん坊の指と違って指先の腹にも手の平にも"糸"を出す為の穴が開いている。
『うっきゃー!』
「うわっ!?何々!?ちょっ暴れないでよっ」
何故かテンションMAXになって手足をバタバタさせる赤ん坊に、慌ててしっかりと持ち直す
「にしても・・・人間ってのは不便そうな体してるね。脚が"2本"しかないなんて」
『にっぽ』
「んぁ?今2本って言った?」
苦笑いになりながら自分の下腹部から下の"蜘蛛の体"にある、8本の足と赤ん坊の小さな足を比べる
比べるといってもその必要が無いほどその2つは別物なのだが・・・
蜘蛛の下半身に人間に酷似した上半身を持つ種『アラクネ』
半人半虫の種族のはぐれ者と、人間の赤ん坊の物語がとある森の小さな池の辺で、今始まった。
プロローグ的な何か