06 王さまは大変で
なんということでしょう。
あのおじいさんは王さまだったのです。そうとも知らずポン吉は、おじいさんの姿に変身してしまったので、まわりのみんなは勘違い。
ポン吉を王さまの部屋にとおして、「王さま」「王さま」といろんな話を持ってきます。けれども、たぬきのポン吉にはちんぷんかんぷん。
「かんがい? きんゆうせいさく? でふれ?」
何が何やらさっぱりです。おいしいのでしょうか。でふれは何だか、スフレみたいでやわらかそうだ。そんなポン吉の様子を見て大臣は、
「王さまはお疲れのようだ」
そう言って、家来たちを追いやります。ポン吉はふう、とため息。
「そうだ、大臣のおじさん」
「おじさん?」
「ああ、いやちがった。これ大臣」
なるべく偉そうにしてポン吉は言います。
「エルフの森のことなのだが」
「森? ああ、東の森ですな。分かっております。すぐにでも工事に取りかかります」
「ええ!? それはだめだよ!」
「だめ?」
「ご、ごほん。それはいかん。工事はやめなさい」
「なぜですか?」
「あそこにはエルフや動物たちがくらしているんだ。工事をしたら、住むところがなくなってしまうではないか」
大臣はううむ、と頭をひねって、
「しかし王さま。あそこに道を作らなければ、国民は飢えてしまいます」
「うえる?」
「お腹が空いてしまいます」
それは大変だ。ポン吉は目を丸くします。
「先ほども内務大臣が申しましたとおり、いまこの国の経済は冷え切っているのです。昔はトウモロコシを作っていればそれだけで良かったのですが……」
ああ、焼きもろこしが食べたいなあ。ポン吉はじゅるりとよだれを拭きます。
「今はそうはいきません。他国などは交通網を整備して、より多くの商売を行っています。しかし、我が国の主要街道は、細くて険しい道ばかりで、商人も寄りつきません。積み荷も多くは運べません。それに嵐が来たときには、どこへも逃げることができないのです。また土木工事は新規の雇用も生み出し、一時的とはいえ貧困にあえぐ国民を助けることにもなります。故に、新しい街道を開発することこそが急務でして、B/Cの観点からも――」
「もうすこし分かりやすく言いたまえ」
「道ができると、たくさんご飯が食べられます」
「なるほど」
ポン吉はうなずきます。そうです。エルフたちが森で暮らしているように、人間たちはこの国で暮らしているのです。おなかいっぱいご飯を食べて、スヤスヤしあわせに眠るためには、あそこに道が必要なのです。
「ううん、でもなあ……」
ポン吉は困ってしまいます。どっちの言うことが正しいんだろう。エルフの王さまかな、大臣かな――
「おや」
するとそこへ、あのおじいさんがやって来ました。
「きみは誰だね?」
はげた頭のうえに文字があらわれます。
『ピコーン』
【種 族】人間
【性 別】男
【クラス】国王
【魔 法】
・火 Level 10
・水 Level 21
・風 Level 41
・土 Level 34
・光 Level 55
・闇 Level 1
・毒 Level 3
・変身 Level ―
・飛行 Level ―
【固有魔法】
・橙香の豊穣
「まずい!」
ぼわん! 驚いた拍子に、ポン吉はもとの姿に戻ってしまいました。
「こいつはニセモノか!?」
大臣がさけびます。
「兵士たち! このニセモノをつかまえろ!」
ドカドカと兵士たちが部屋に入ってきます。これは大変だ。ポン吉は全速力で走り出しますが、
「これこれ、あわてるでない」
本物の王さまが、やさしい声で言いました。
「大臣よ、そこの彼は私を助けてくれたんだ」
「しかし王さま、こやつはエルフのスパイかもしれません」
「エルフの?」
王さまはすこし考えてから、ポン吉に言います。
「なにか事情がおありかな」
◇
ポン吉は、エルフの王さまや、アンリから聞いた話を伝えました。
「だから、森がなくなったらこまるんです」
「事情はわかった。しかしな、ポン吉くん。わしらだって、皆を追い出したくて道を作るわけではないのだよ。仕方のないことなんだ」
「王さまは、エルフの王さまとお話したの?」
「ん? いや、それは使いの者に任せておるが……」
「だめだよ!」
ポン吉はぽこんとおなかを叩きます。
「ケンカになったら、ちゃんと話し合わなきゃいけないんだよ。ぼくだって、キツネの女の子とケンカしたときには、ごめんなさいをして、そしてパンを半分こするんだよ」
横で聞いていた大臣が、
「そういう問題ではないのだ」
怒り出します。けれど王さまは、
「ふむ。ポン吉くんの言うことももっともじゃ。……よし、エルフの王さまと、一度話してみようじゃないか」
「本当!?」
「ああ、本当だとも。ポン吉くん、エルフの王さまにも、話がしたいと伝えてくれないだろうか。いま、人間があの森に入ったら警戒されてしまうからの」
「わかりました!」
ポン吉は元気よくお城を飛びだしていきました。