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9,マカロン食べたら異世界に!

読みやすさを取って、原稿用紙二十枚ほどに抑えました。

ですがかなりおもしろおかしく書いたつもりなので、お楽しみいただければ幸いです。

 頭が痛い。肩が痛い。背中が痛い。腰が痛い。全身が痛い!

 なぜかって? 教室の床から落ちたからですよ!

教室の床の下に花畑があったなんて、驚きです。とでも納めたいところですが、そんな簡単に飲み込める現実ではない。というか現実なのか?

 「ここは!?」

 「花畑」

 私は慌てて問うたはずなのだが、凜歌は冷静に、そして当然のように言った。

 花畑と言っても小さな花が咲いているだけで、歩く場所もない、とか座る場所もない、とかでは無い。現に私たちは寝たり座ったりできている。

 っていうかもっと慌ててよ! 私が落ち着きないみたいになるじゃん! 皆さま、誤解なさらないようお願いします。凜歌が落ち着き過ぎなのです。

 「冷静過ぎでしょ!」

 「こういう時こそよ。ほんとは私だって慌ててるし、焦ってる。でもそれを羅音みたいに表に全開にしたら、良いことは無いの。落ち着こう」

 ものすごく私が悪いみたいになっているが、ここでまたおいっ! とかやると落ち着きが無いとか言われるので我慢だ。ひとまず深呼吸。

 「じゃあ落ち着くためにも状況を整理しようよ。まず、私たちは教室の床にできた穴に落ちてここ、花畑に来たと」

 「そう。って羅音、口の中に手を入れるなんて汚いよ」

 「分かってる。でも、何か紙みたいなのが」

 私は口から小さな紙切れを出した。別にマカロンのカスがたくさんついてるわけではないので。女子としてそこら辺は意識しますよ。羅音って奴=汚いとかもちろん嫌ですから。

 「その宇宙で仁雄という友達探しをしろ。見つけたらオレンジ色のマカロンを三人で食べて戻ってこい。余裕があったら遊んできても良いが、その代り、しっかり戻ってこい。何これ?」

 私は紙切れに書いてあったきれいな文字を読み上げる。

 「メッセージね。仁雄ってあの樹乃組の?」

 「仁雄? 誰?」

 「お兄様の研究メンバーの一人。数回会ったことがあるけれど、優しい方。このメッセージからすると仁雄さんはこっちの宇宙、にいるのかな?」

 「まあ。ああ」

 最高曖昧な返事しかできなかった。宇宙とか何? 宇宙って一つじゃないの? こっちの宇宙ってどんな宇宙? 今私はどの宇宙にいるの? たくさんの疑問符が頭の中で絡みに絡まってしまった。

 「この字はお兄様? 仁雄さんを知っているし、私にこのマカロンを渡したのもお兄様だし」

 「じゃあ、樹乃さんは私たちにこの宇宙? で仁雄さんを探してほしいということなの?」

 「そうなるね。オレンジ色のマカロンを食べて戻る、か。なるほど。羅音、オレンジ色のマカロンは?」

 「うわああー!」

 私はゴブリンに手を切られた。とかではありません。この声は絶望の声。

 「やっちまったー!」

 「何が!?」

 食べてしまった。オレンジ色のマカロンを。

 じゃあ私たちはもうあっちの宇宙には戻れないの? ってかあっちの宇宙ってなんだよ! どうしよう。どうしよう。どうしようどうしようどうしよう・・・・・・。まじでやばいっ!

 「言いたくねー!」

 私は頭を抱えて花畑をごろごろ転がる。何メートルか進んでみては戻って、を繰り返す。でも何回もやっていると目が回ってくるもので、気付くと花が特に咲いている部分まで転がってきていた。

 背中がちょっと冷たいというか濡れてる感じがしたので起き上がってみると、花が潰れていた。

 「いらっしゃったぞー!」

 「いらっしゃっただと!? 保護しろ」

 すぐ近くから高めの声が聞こえたので見回してみると、目の前には正方形に手と足がついたようななんともかわいらしい人(?)が五人いた。そして大きく立派な馬車。

 身長五十センチメートル、手足二十センチメートルほどで、手足は全員白い。正方形の顔や胴(?)の部分は人それぞれ。白い人もいれば黒めの人もいる。黄色めの人も。

 目は大きくきらきらしている。耳と鼻も目と比べれば小さいがしっかりとある。それぞれ王冠のようなものを被っているので髪の有無は確認できない。

 服装は白いスーツを着ていて、ギャップというか違和感がすごい。

 「女王様、良くご無事で。さあ、王宮へ参りましょう」

 かわいーーー!!! 声は幼稚園児的なちょい高め。それなのにこの礼儀と手を差し伸べてくれる優しさ。

 というか私は女王様らしい。王宮とかかっこいい。ということはこのチビちゃんたちは私の家来?

 「あなたたちは家来なの?」

 「もちろんでございます。女王様、頭でも打たれましたか? いつものしっかり者の女王様とは程遠いですが」

 「しっかり者かな? でも頭は大丈夫。行きましょう、えーと」

 何と呼べばよいのだろう。迷っていると、察しの良いチビちゃんは自分から言ってきてくれた。

 「カシビです。私たちの種族は全員カシビと呼ばれています。それぞれに名前はありません。これもすでに説明したはずなのですが・・・・・・」

 カシビが苦笑いを浮かべる。

 カシビの手を握ろうと思ったが、身長が合わなくて握っても一緒に歩けない。常に空気椅子状態で歩かなければいけないので無駄に疲れる。でもその分手の感触が良い。

 例えるならば赤ちゃん。ムニムニしてて柔らかいのだ。一応骨はあるらしく、少し硬い部分もあった。

 「ごめんなさい。それよりカシビ、あの女性も一緒に王宮へ」

 と言って私は凜歌を指差した。凜歌は口をぽっかり開けていて、珍しく間抜けな顔をしていた。

 指でおいで、とやると凜歌はゆっくり近づいてきた。何をそんなに恐れているのだろうか。カシビなんて怖いどころかかわいいのに。

 「カシビたち、先に馬車へ。私があの女性を連れて行く」

 「分かりました」

 カシビはニッコリ笑うと馬車へとステステ歩いて行った。歩いただけでかわいい。

 「凜歌、早く」

 「何あれ? 化け物じゃないでしょうね」

 「違うよ。カシビって言って、私の家来なんだって」

 凜歌は顔を歪めた。目は何言ってんのお前? と言っているようだった。軽蔑しているのだろうか。私は事実を言っただけなんですけどね。

 まあ、仕方ないと言えば仕方ない。何もかもが急すぎるからね。さすがの凜歌でも理解が追い付かないようだ。それとも逆に私が早すぎなのかな?

 「家来!?」

 「後で説明するから、まずは馬車に乗ろう」

 「危険ではないの?」

 「全く」

 「ふーん」

 凜歌は私の全く、を疑っているようだ。もっと説明すれば分かってくれるだろうか。そんな不安を抱きながら二人で馬車に乗った。

 「行きます」

 ほら、声が高くてかわいい。分かってくれないかなー。

                                 #

 「だから私は女王様なの。分かってくれた?」

 「なるほどね。急過ぎ、何もかもが」

 「ほんとね。なんで私が女王様なのかね」

 「勘違いでもしてるんでしょ。顔が似てるとか」

 そうなのだろうか。なら本物の女王様が見つかったら私はどうなるのだろう。嘘をついてたから牢屋行き、とか嫌なんですけど。

 こんな風に二人で今の状況に文句でも言っていると、馬車が急に止まる。何か異常でもあったのだろうか。私は気になって馬車から顔を出す。

 「何かあったの?」

 「昨日いろいろとありましたよね? もしかして昨日のことまで忘れてしまわれたのですか? 重症ですねー」

 昨日のことなど知るわけがない。さっき、三十分ほど前に来たばかりなのだから。しかも不本意にだ。ところでカシビの言ういろいろとは何だろうか。

 「いろいろって?」

 「今説明しますと長くなるので、王宮に行ってからにしましょう。とりあえず、この門を開けろ!」

 先程花畑で私に手を差し伸べてくれたカシビが他のカシビたちに命令をする。カシビたちの中のリーダーなのだろう。

 「女王様、再出発しますのでしっかりと席にお付きください」

 私が席に着くと再び馬車が進む。

 馬車は思っていたよりもゆっくりで、安定感覚が無い。石一つ踏んだくらいで体が大きく上下するくらいだ。女王様用でこんななのだから、一般の人々のは使い捨てレベルでぼろいのだろう。それとも、女王様であろうと一般と同じ馬車を使うのだろうか。ずっと乗っているとお尻が痛くて仕方がないのだが。

 「ここは?」

 私はしっかりと席に付けと言われたばかりなのにも関わらず、顔を出してカシビたちに問う。

 「市街地ですが・・・・・・」

 リーダーカシビはあまり言いたく無さそうであった。

 それにしても本当に市街地!? と疑わざるを得ないほど人がいない。一人も、だ。門を通ると大きな道が王宮であろう立派な建物まで伸びていた。その大きな道の側には住宅が並んでいてた。

 「すごいね、住宅がお菓子みたい」

 「みたいじゃなくて本当に食べれるんじゃない?」

 「なわけー」

 「食べれますよ!」

 リーダーカシビが馬車を止めて元気良く答えた。私の否定の声が掻き消されるほどだ。って食べれる!? 意味が分からない。お菓子でしょう? 住宅を見る限り板チョコやクッキー、キャンディで出来ているように思える。この住宅が食べられるってどんなすごいお菓子ですか! 乾燥、温度、湿度に耐え、かつ食べられるほど常に衛生的。

 こりゃ、お菓子好きの私としては放ってはおけない大大大スクープだ。興奮のあまり鼻穴、広がってるかも。

 「食べれるの!? 汚くないの? 食べて良い? ってかどうやって住宅としての形を保ってるの? 本当にお菓子なんだよね? すげーな! 本当だよね? 嘘なら今のうちに言ったほう良いよ」

 「どんだけ聞くのよ! あのねー、小声でしか言えないけど、カシビたちは羅音が女王様だと勘違いしているのよ。女王様に冗談でも嘘つけると思う? 本当に食べられるのよ」

 凜歌が途中から小声で言ってくる。

 本当なんだ! それならいただこう。私は馬車を下りた。そして誰もいない市街地を思いっきり駆け、住宅へ向い、クッキーで出来ているであろう外壁にかぶりついた。

 「食べれませんよー」

 リーダーカシビの声が聞こえる。へー、食べれないんだー。って、はあー!? もうかぶりついちゃったんですけど! 

 「はははっ、本当に食べようとしたんですか? 僕の予想通り頭を打たれたようですね。外壁なんて食べれませんよ。常識です。毎日の日照りや雨、風、雪になんて耐えられるはずないじゃないですか。はははっ、笑ったー」

 笑ったー、じゃねーよ! こっちはもうかぶりついちゃったんです! やたら硬いクッキーだなー、と思ったらウソですか! 出来ればもう少し早く行ってほしかったなー! 

 こんな冗談に気付けず真面に信じてしまった私。なんて馬鹿なんでしょう。心が痛いー。あと歯が痛いー。

 「おせーよ! 女王様をからかうな!」

 「すいません。ってあれ? もっと怒らないんですか?」

 はい、リーダーカシビがおかしくなりました。もっと怒らないんですかってどういうこと? 僕Ⅿなんでアピール? 否、まだそう決めつけるのは早いか。まずこの宇宙にSⅯの概念があるのかもわからないのだから。

 「はい!?」

 私は間抜けな声を出してしまう。

 いやー、それにしても歯が痛い。しかも口の中が少し渋いっていうか苦い。まあ、誰かさんのせいで住宅の外壁にかぶりついてしまいましたからね!

 「いつもの女王様ならもっと怒るのになー、と思いまして。王宮の外壁なんて何度環境大臣と資金大臣に頼み込んで直してもらったことか。十五回くらいだよね?」

 「そうやなー。大変だったの覚えとるわ」

 「今の女王様のほうがええなー。外壁壊さなそうやし」

 いやいや、私と勘違いしてる本当の女王様、なんて暴力的なんだ。私と勘違いするくらいなのだから体は細いというかスリムなはずだ。そんな体で外壁を壊す。恐ろしい。

 それより! 気付いてませんか皆さん! リーダーカシビの問いに変な話し方で答えているカシビたちに!

 関西弁でしたよ。この宇宙、あーなんか宇宙とか難しいな! 異世界とでも言おう。

 この異世界でも関西弁はあるらしい。なら京都の舞子さんみたいにどすー、とか東北のほうみたいにだべな、とか話すカシビもいるということだろうか。王宮に行ったらカシビ全員に話しかけてみよう。

 「ああ。その件はごめんね。でも私はもう少しお淑やかになることに決めたの。だから少し雰囲気とか違うかもしれないね。あと話し方とか動作とか」

 「かーっ、お嬢様がお淑やかに! 考えられませんね。まあ良いことです。カシビ一同嬉しいです。カシジ様が聞いたら気絶してしまうでしょう」

 何も知らないとさすがに疑われそうなので、その件、とか曖昧な言い方で知ったかぶりをする。

 ところでカシジ様? 誰だろうか。様付けしているあたりからカシビたちより上の人だろう。もしかして私のパパ? 女王様とつなげて言うならば王様だ。

 でもカシジって王様キャラの名前じゃないなー。アレクサンダーとかが理想かな。ジって付いてるあたりでおじいちゃん感がすごいもん。

 「カシジ? 誰?」

 「どぅえーーー!!! カシジ様までお忘れに!? 相当重症ですね」

 すげー驚き方だな。どぅえー、とか漫画の効果音でもあまり見ない。それに顔。驚き過ぎで目が落ちそうですよ。

 「そうだよねー。どんだけ強く頭打ったのかねー。思い出せないんだよねー」

 私はまだ十分に痛む歯を軽く触りながら言った。

 勝手に頭打った設定にしてくれているのは助かる。カシビたちから本当に女王様? と言われなくて済むからだ。こっちから説明する手間も省けるし。

 「もしかして菓子国の政治状況までも?」

 「もちろんよ。何のことやら」

 「ぐげーーー!!! それもやばい!」

 だからぐげー、って何よ。驚きの声がおかしいって。

 その時、カシビたちの視線が私に集まるのを感じた。その視線は明らかに疑いを含んでいた。ってか疑いしか無い。

 「本当に女王様ですよね?」

 リーダーカシビが今までに無く真剣な表情で問うてきた。私は必死に目が泳ぎそうになるのを抑えて、大きく首を縦に振った。

 「そうですよねっ。失礼しました! さっ、行きますよ、女王様。王宮で本当に食べられるお菓子、用意しますから」

 私はリーダーカシビのその言葉を聞くと、歯の痛みなんてどうでもよくなってしまい、馬車に駆け乗る。

 「いきまーす」

 中では凜歌が寝ていた。そういえば学校祭終わりだもんね。そりゃあ眠くなりますわ。私はやっぱりどうでもよくなんてなかった歯の痛みと、王宮のお菓子に対する期待で眠気なんて一パーセントも無いが。

 「布団とかはー、あった」

 赤い毛布のようなものがあったので凜歌にかけてあげよう。そう思い立ち上がると、小石でも踏んだのか馬車が大きく揺れる。私はバランスを崩し凜歌に倒れ掛かってしまう。その時私はあることに気付いた。息をしていない!

 「え!? 凜歌!? ねえ凜歌ってばー!」

 「どうかしましたか女王様?」

 こんな時はやたらと頼りなく聞こえるカシビの声だ。

 「凜歌が息をしてないのー! 助けて!」

 「本当ですか!? おい、誰か二人、馬を馬車から放して王宮へ急げ。防衛大臣にお伝えしろ。女王様の大事なお友達様が死にそうだと。急げ! 二人は心臓マッサージを! 私は女王様からお友達様の持病を聞きましょう。女王様、まずは馬車から出しましょう。狭いですし」

「うん」

 リーダーカシビは馬車を止めていろいろ命令をする。

「「「ギガンティック!」」」

 カシビたちが厨二臭いことを言う。まあ、声が子供なので戦隊ごっこかなー、とあまり違和感は感じない。

 するとカシビたちの体が大きくなっていき、普通の人間の体格になっていた。

 身長はそこそこで筋肉感がある。いわば痩せマッチョだ。顔はイケメン。リーダーカシビも黒めのも黄色めのも。肌や髪の色は変わっていない。

 都合の良いことにスーツもそのまま大きくなるらしい。全裸です、とかは勘弁ですので。

 「よし、心臓マッサージを開始しろ。女王様、お友達様の持病についてお教えください」

 「凜歌で良いよ。持病は無い。でもなんでこうなったか予想はつく」

 お互いに認め合うほどの大親友である。知らないことなど限られている。原因は一つしか考えられなかった。

 「過呼吸って知ってる?」

 「はい」

 「凜歌はね、笑い過ぎると直ぐ過呼吸になっちゃうの。たぶん今回もそう。私が騙されて住宅の外壁にかぶりついたでしょ? それが面白くて凜歌、すごく笑ってたのよ。それで過呼吸になって・・・・・・」

 私は地面に座り込んでしまう。ショックと凜歌を守り切れなかった劣等感で押しつぶされそうなのだ。

 目から涙が止まらない。滝のようにどんどん出てくる。止まるのか心配になるくらい。制服の色が変わっていく。

 「僕が女王様を面白半分で騙さなければ良かったのですよね。僕のせいです。責任をもって凜歌様を助けます」

 リーダーカシビは凜歌のもとへ向かおうとする。そんなリーダーカシビを私は止めた。

 「女王様、足をお放しくだ」

 「違うの!」

 「何が、ですか?」

 「凜歌がこうなったのはカシビのせいじゃない。私のせいでもない。凜歌のせいでもない。誰も悪くないの」

 カシビは凜歌のことなんて全くをもって知らなかったのだから悪くはない。それなのに僕のせいです、なんて言われ、ちょっと心苦しかったのだ。

 「どうだ?」

 「変わらんわ。でも続ける。女王様のお友達やし」

 こんな時に関西弁とかやたらと緊張感無いけど仕方ないか。

 そんなことより、私に何かできることは無いだろうか。友達が苦しんでいるというのに何もできないなんてみっともなさすぎる。

 「私は口から息を送る。友達が苦しんでるんだから黙ってるわけにはいかない!」

 私はちょっと前にやった救急教室のことを思い出しながら口から空気を送り続けた。

 苦しくて顔が真っ赤な気がするけど今は外見なんてどうでも良い。今は凜歌を救わなきゃ。

 「女王様、変わります。見てて覚えましたから」

 リーダーカシビが変わってくれるらしい。私はさすがに疲れたのでその言葉に甘えた。

 もう十分くらい経ったのでは無いだろうか。凜歌には何の変化も無い。ただただ心臓マッサージで体が揺れているだけ。目を開けたわけでもない。

 私は思わず悟ってしまった。凜歌の死を。

 ずるい。全然知らない異世界で私一人にする気? まだ一緒にいてよ。女王様とかになってるけど、これからどうすれば良いかなんて分からないよ。私、凜歌みたいに頭冴えないから。死なないでよ。何で起きないの? あとどれだけ心臓マッサージをすれば良いの? 大親友である私を異世界に置き去りにしていく気? ずるい、ずるい、ずるい・・・・・・。

 「ずるいよっ!」

 私は俯きながら叫んだ。奇声と思しき声で。カシビたちはもちろん驚いて心臓マッサージや空気を送り込むのを止めていた。ごめんなさい、と言おうとしたその時、私の耳に聞き慣れた女神のような声が入ってきた。 

 「ずるくはない、わ。生きてるっ、しっか、りね」

 私が顔を上げると目をぱっちりと開けた凜歌がそこにいた。まだ荒いが呼吸をしている。

 「凜歌あーっ!」

 感動のあまりうるさいだけの声を出してしまった。

 「うるせー。僕らのおかげでしょ」

 リーダーカシビは女王様である私に対して何のためらいもなく言った。

 私分かりました! なぜ私と勘違いしてる本当の女王様は何度も外壁を壊したのか。

 本当の女王様が乱暴とかそういうのじゃない。こいつらカシビが失礼過ぎるのだ。今の光景、元の世界で例えてみたらどんなものだったかわかるかも。

 天皇様の大好物であるキャビアが夕食に出ました。それで天皇様がおいしそうですねー! と嬉しそうに言いました。ここでメイドさんがうるせー、キャビアとか昨日も食ってただろ、と言いました。

 この状況、メイドさんが超絶失礼だよね? 私の考え方がおかしい? 

 まず身分的におかしいよね。天皇様に対する敬意が無いし、何より失礼。

 そんなことを今カシビはやった。こんなのいくら優しい人でも少しは引っかかりますわ! 

 比較的優しいほうだと思う自分でさえもヤカン状態ですから。ピーピーいって湯気あげてますよ、頭が!

 「ごめんね、気付いてあげられなくて」

 「なんで羅音が謝ってるの? 羅音のせいなんかじゃないのよ。謝るのは私のほう。ごめんなさい、迷惑かけて。そしてカシビさんたち、ありがとうございました。命の恩人です」

 いや確かにそうなんだけど、何かさっきの言葉聞いたら感謝の意が失せるなー。でも凜歌の命の恩人であるのには変わりないので感謝はしなくてはならない。さっきお淑やかに、とか言っちゃったし。

 「私からも、ありがとう。感謝してもしきれない」

 「嘘」

 聞こえてますよー、リーダーカシビさん! なんでこんなに失礼なことしか言えないのだ。私の記憶どうこうよりそっちのほうが重症な気がする。

 「リターン!」

 「「リターン!」」

 リーダーカシビに続いて黒め黄色めのカシビも元のかわいらしい姿に戻る。やっぱりこっちのほうが良いなー。見てはいけない裏を見た気がするけど・・・・・・。

 「おっ、丁度良く来ましたね。資金大臣と防衛大臣からの許可は?」

 「取りましたよ、ちょっと時間がかかりましたけど」

 カシビが政治どうこうの時に言っていたが、私は「菓子国」と言う国の女王様らしい。なんとも私にぴったりな感じの国だ。

 菓子国と言うだけあって住宅はお菓子の見た目だった。主要産業はお菓子とかなのだろうか。たぶん他にも国があるはずだ。調べてみよう。

 なんか急に楽しくなってきた。凜歌と異世界で新しく生活とかも良いかも。いかにも明るい未来が待ってそうだし。

 「そんな明るくも無いかもよ。第一目的は仁雄さんを探すことなんだから」

 「へ!?」

 なんで凜歌は私が考えてたことをすべて知ってるの? もしかして表情に出てる?

 「出てるよ。もうダダ漏れ。まっ、新しく生活、悪くないかも。幸い、女王様だしねー」

 凜歌は人差し指を私の顔の前でくるくる回す。そして鼻先をつついてきた。私はわざと倒れてみせる。

 「そんな強くつついてないし。ほら、行こう。新しい生活に向かってさ」

 凜歌は女神のような笑顔を浮かべると、倒れている私に手を差し伸べてきた。カシビにされるのも良かったけど、やっぱり凜歌にされるのが一番良い。安心感がすごい。

 「うんっ!」

 私は笑って返事をした。そして凜歌の手を握った。

 「よいしょってな」

 途中までは良かった。倒れている体がだんだん起き上がってきて立とうとした。その時、凜歌は何を思ったか手を放した。私は無様に尻もちを着いて再び倒れたのだった。

 「はははっ!」

 「ダサッ」

 私はまたもや聞いてしまいました。リーダーカシビの失礼極まりない言葉を。

 リーダーカシビ覚えとれ!

 私はそう怒りを覚えながら、自力で立ち上がり、また過呼吸になりそうな凜歌に背中を擦った。

 そう言えば凜歌も私の手を放して、いたずらしたよね? まあ、凜歌は良いっか。病み上がりみたいなもんだし。

 でも、さっきの安心感、返せー!


どうだったでしょうか。

遂に「菓子国」、異世界に来てしまいました。かわいらしいカシビと言う家来に出会い、最後のほうでは二人の友情が垣間見えましたね。

そして私としては、カシビに注目していただきたいです。かなり色濃い脇役と言った感じですので。失礼な態度にもご注目を!

最後に。読んでくださった方に史上最大急の感謝を!

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