3、教授候補
短いですがお楽しみください。
お菓子の国に入るのは遅くなりそうです。これからいろいろとエピソードがありますので。このエピソードが無いと話が盛り上がりません。ご了承ください。
唸らざるを得ないほどのおいしい朝食をいただいてから、登校する。毎日こんなんだなんて凜歌は羨ましい限りだ。
「一日、お邪魔しました。それでは」
「ああ。良い話し合いはできたのかな?」
「ま、まあ」
「そ、そうね。もう時間なので」
凜歌は早く学校に行きたがってるようだ。私も同じ。早く学活で固まった意見を発表したいから、って思ったでしょ? もう少しでその考え、ぶち壊してあげる。
「いってらっしゃい。ふふふ」
「さようなら。そしてまたいつか。羅音様、凜歌」
大きな噴水の前で大正字家全員に見送られる。朝から茂さんは堂々としていて、香さんはにこにこしている。樹乃さんはかっこいい。そして隣の凜歌はかわいい。その中で私はだらしない。眠くて目は半開きだし、寝癖は付いたままだし。
「さあ、行こ」
「早く行かなきゃね」
ここで皆様。皆様の考えをぶち壊してあげましょう。私たち二人が早く学校に行きたがっている理由、それは意見が固まっていないから。
昨日の夜。シャーペンを持って準備完了だった私たち二人。でも急に凜歌が、やる気溢れる私の心を一気に冷やすようなことを言い放った。さらっと。
「ねえ、羅音。夕食前の意見で良くない? あれで大分固まっていると思うよ」
正直驚いた。たぶん目を見開いていたと思う。だってそっちが私の家に来てって言ってきたくせに、いざ話し合いをしようとなるともう良くない? 全く意味が分からない。これではただのお泊まり会だ。
「へ? 何て?」
「だからもう良くない? 固まってるよ」
「ちょっと」
凜歌は私の話声を完全に無視して部屋を出ていく。勝手すぎる。私は部屋を出て捕まえてきてやろう、と思った。でもその時、凜歌は笑顔で部屋に戻ってきた。手にはトランプ。
「トランプでババ抜きしようよ。一回だけ」
「ババ抜き!?」
「一回だけ。ね、お願い」
私は嫌々というか苛々でやけになって勝負を受けた。
凜歌は二枚のカードを持っている。私は一枚だけ。私がここで五十パーセントの確率でハートのエースを引けば勝ち。完全に勝利を確信していた私は適当にカードを引いた。そしたらババ。
超絶後悔した。もっと考えれば良かったと。慢心が出てしまった。ここで凜歌の番が訪れる。凜歌は待ってましたと言わんばかりに手に力を込めている。
私はたった二枚のカードをシャッフルした。目で追われてるんじゃないかと思って隠れてシャッフルしたりもした。
凜歌は手に息をかける。凜歌の綺麗で細い手はハートのエースを掴む。私は思わず笑ってしまった。何で人間ってピンチな時に笑っちゃうのだろう。もしかしたら心のどこかでそのピンチを楽しんでいるのかも。
凜歌は私の笑顔を見てババのカードへ手をかける。そして勢い良く引いた。もちろんそのカードはババ。なんとか一周戻ってきた。さあ、後悔しないようにしっかり選ぼう。
凜歌の目を見る。全く凜歌の目は動かず、ずっと私を見つめていた。さすがポーカーフェイス。表情からは読み取れ無さそうだ。じゃあもうやっぱり運に任せるしかない。
頼んだぞ、と手を強く握る。二枚のカードへと手を伸ばす。私から見て右のカードに手をかける。凜歌の表情はやっぱり変わらない。続いて左のカードに手をかける。凜歌の表情は変わらない。長めに見つめてみた。すると一瞬、ほんの一瞬だけど凜歌の頬が緩んだ気がした。たぶんこれは今私が手をかけているカードがババな証拠。結局私は右のカードを引いた。
するとカードはババ。やられた。完全に凜歌にやられた。凜歌はくすくす笑いながらガッツポーズをしている。
次は凜歌の番。ここらへんになってから一言も話していないと思う。まあ今は良い。今は必死に相手の表情、そして自分の心と運。この三つと話をしなければ。
凜歌はまた手に息をかけていた。何かのおまじないだろうか。また自分の番が来たらやってみよう。
凜歌は私がシャッフルし終わったのを確認すると、カードに手を伸ばしてくる。最初に私から見て右のカード。ババに手をかける。次は演技としてわざと笑ってみる。凜歌の表情は相変わらず変わらない。
続いて左のカード。ハートのエースだ。ここでは笑わない。凜歌は一度手を戻すと、目を瞑る。そして覚悟でも決めたのか目を光らせ、左のカードに手を伸ばす。そしてカードを引かれようとした時。
「ファイナルアンサー?」
ハートのエースカードを強く引っ張りながら私は問う。
「イエス」
リンカは私の引っ張る力より強い力でハートのエースを引いた。そして凜歌はカードがハートのエースだと分かると、カードを空中へ放って、最高に喜んだ。
「カモーン。きてます。私の勝ち」
凜歌は嫌味でしかないことを言う。私はさらにむきになってしまう。
「じゃあ、凜歌に勝つまでやる!」
「ふふふ。負けないよ」
結局このまま五回ほど続けてやったが一回も勝てなかった。そしていつの間にか寝てしまっていた。だから全く話し合ってません。
そして今朝、こんなことを思い出した。
「ねえ、色紙やダンボールとか使えるのかな? あと家庭部に許可取らなきゃ」
「やばい。どうする!?」
「早く学校に行ってやろう」
そんなこんなで今私たちは通学路を全力では走っている。カバンの中の教科書たちがガシャガシャいっているけれど気にしない。ともかく今は一秒でも早く学校に行っていろいろと許可をもらわなければ。
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「学校に行ってから何ができるというのでしょうね。まったく、困った二人です」
樹乃は呆れた様子だ。
「仕方の無いことだ。誕生日パティーやらで興奮していたのだろう。楽しめるうちに楽しませよう」
「そうですね。羨ましい二人です」
茂と香も呆れた様子だが、どこか嬉しそうだ。
「もう少しでもっと楽しくなるよ、リンカ」
「樹乃、何か言った?」
「いえ。僕もそろそろ行きます。研究がまだありますので」
樹乃は二十三歳にして教授候補に挙がっていた。大学で彼を知らない人はいない。それほど有名だ。
彼は「パラレルワールド」。つまり平行世界について研究している。今この地球がある宇宙αの他に、もう一つ宇宙βがある。それらには違う自分がいる。だが宇宙αや宇宙β以外にも宇宙がある可能性はある。
こんな難しい研究を楽しんで行っている彼は明らかに周りより格上で、教授候補も当然だ、という声が多い。
「だって楽しくないですか? 宇宙βで違う自分が何をやっているのだろうって。大工をやっているかもしれない。死にそうかもしれない。気になりますよね? そしてαの自分とβの自分が接触したらどうなるのか。これも気になります。このことを実験するにはまず宇宙αとβをくっ付ける必要があります。ですから僕は今、宇宙αとβをN極とS極だと仮定して研究を行っています」
いつだか彼は教授候補者の演説でこんなことを言った。会場はざわついた。それもそのはず。意味が分からないのだ。αとβ。N極とS極。現教授ですら顔を顰めていた。殆どの人が意味を理解していないのにも関わらず、彼の支持者は多い。ルックスが良いからでは無い。でも何か魅力を感じ、引き寄せられるのだと言う。
今日は新教授発表の日であった。教授候補は三人。その内なれるのは一人だけ。確率でいえば三分の一だが、実際はもっと小さく、狭く感じるだろう。一人は樹乃。他二人はおじいちゃんである。五十代後半。樹乃の二倍ほど年がある。
「それでは。また逢う日までお元気で」
羅音を迎えた時同様、美しく、かっこよく礼をしてみせる。
「ああ」
「ふふふ」
二人は笑顔で答える。あえて何も言わなかったのかもしれない。二人の笑顔には何かが詰まっているように思う。
「教授。絶対になって研究の最終目的まで行く。そして凜歌をあそこへ」
しっかり制服を着て、緊張を胸に大学へ向かう。その足取りは軽く、教授を確信しているようであった。一歩は大きく、興奮しているのが良く分かる。
これからは樹乃が最終目的まで達するまでのすべて。
どうでしたでしょうか。これから物語はどんどん加速していきます(一度言ってみたかった)。 ですので投稿を頑張ります。これからもよろしくお願いします。
最後に。読んでくださった方に史上最大級の感謝を!