14、女王様って良いじゃない?
お楽しみください。
「お待ちください。もう少しで始まりますので」
私はそわそわしていた。
理由は腹が減っているからだ。この理由は全くお淑やかじゃないけど心の中くらい許してほしい。
でもドニーは私がそわそわしている理由をパーティーが始まるのが遅いからと勘違いしているらしい。
パーティーについてだが、今日は明日から本格的に始動する国民回帰作戦への士気を高めるためにパーティーが行われるらしい。そしてリンカの任命式も兼ねているとか。
パーティーの形式は、正式になんていうか分からないけど、立って行うやつ。ワイングラス片手にいろいろなお偉いさんと楽しくお話をするあれだ。
貴族が舞台のドラマなら一回は出てくる場面だ。
「まだ!?」
「もう少しです。お淑やかにしていましょう」
リンカは友達としてでなく補助大臣として注意してきた。
「敬語じゃなくて良いのにー」
「大きな声で言えないんだけどー、ってやっぱ後で」
リンカはカシジさんが会場に入ってくると話すのを止めた。恐らく、女王様にはお友達であろうと敬語で接してください、とか言われたのだろう。
「それでは皆様、明日に向けてのパーティーと補助大臣リンカ様の任命式を開始させていただきます」
今回の司会はカシジらしい。カシビたちはと言うと会場にはいなかった。
「それではリンカ様、こちらへ」
リンカはまず初めに私にだけ礼をし、その後全体へ礼をした。その礼は樹乃さんがするような礼とそっくりで、美しかった。
リンカは床より一段高い演説場所へ行くと、再び美しく礼をした。
私はあたかも自分の娘を見るような目でリンカのことを見た。あまりにすごかったのでドヤ顔でみんなを見た。
みんなにこう言ってやりたい。「うちの友達、すごいでしょ!?」と。
凜華は私の自慢の友達だ。
あんなにかわいいくて、あんなに礼儀を分かっている。完璧。どう育てられたらああなるのか。金持ちの家に生まれたからと言ってああはならないはずだ。
お淑やか宣言している私より、お淑やか宣言してないくせにお淑やかってどういうことですか。
「ご挨拶を」
カシジがそう言うとリンカは笑顔で頷き、いつ考えたのかさっぱり分からない挨拶を言い始めた。
「この度、菓子国の補助大臣になりましたリンカです。よろしくお願いします」
会場が拍手で包まれる。実に誇らしい。
「それでは、女王様から任命証の贈呈です」
「ん?」
急に仕事を振られたのでびっくりした。リンカに賞状でも渡せば良いのだろうか。
「女王様、任命証をお渡し願います」
私の前にヴァルがやってきてにこやかに言った。
分かったわ、と任命証を受け取ってからリンカのもとへ向かおうと歩き出した時、事件は起こった。
「うはっ!」
私の確実に踏み出したはずの右足は足首からグキッと曲がり、体は何もできずただ倒れるだけだった。
「いってぇ!」
「いや、あ・・・・・・、痛いですわ!」
いってぇ、はお淑やかさの欠片もないので急遽言い換えた。
それにしても足首が・・・・・・。
「女王様! 大丈夫ですか?」
ヴァルが焦った様子で尋ねてくる。大丈夫と言いたいところだが大丈夫ではない。確実にひねってしまったようだ。
「全く、大丈夫じゃないわ」
「お医者様を呼んで参ります!」
カシジが走りだした。するとヴァルが右手を上げた。
「そのようにする必要はありません。私、小さい頃医者を目指しておりました。ですから捻挫ほどの怪我ならば今すぐ魔法で治せます」
「ならば」
「はい。今から」
遂に魔法とご対面だ。私が人生で初めて受ける魔法は怪我を治す魔法らしい。
そしてかけてくれるのはヴァル! リンカには申し訳ないけど仕方ない。本当に怪我をしているのだから。
「女王様、どうか体に力を入れないようにお願いします。魔法が入っていきにくくなりますので」
入ってくる? どういうことだろう。少し怖くなってきたが、力を入れるな、とのことなので深呼吸で何とかしよう。
「いきますよ。『リカバリー』!」
確か「回復」とかいう意味の英語の魔法を唱えたヴァル。
ヴァルが私の足首に当てている手からは淡い光が出ていた。まるでオーロラのようで見惚れてしまう。
「終わりました」
「え? そんなに早いの?」
「ええ。魔法ですから」
ヴァルはニッコリ言った。癒される。ヴァルの顔自体が自然の魔法だと思うほど。
「立ってみてください」
ヴァルは立ち膝の状態から完全に立ち、私に手を差し伸べてくれた。
もう立ててしまうものなのかと疑問に思ったが、確かにヒリヒリ感、ジリジリ感は消えている。
「ごめんなさい」
私は謝りつつヴァルの手を借りた。その手はしっかりとしていて、私が離さない限りいつまでもつないでいられそうだった。
それにしても慣れないハイヒールでのパーティー参加は厳しそうだ。少なくともあと二回くらいは転びそうな気がする。
その度ヴァルから魔法を受ける訳にもいかないのでメイドに頼んで靴を変えてもらおう。あの時は良くスキップをして無事でいられたものだ。
「大丈夫ですか? 手を離しても良いですか?」
「待って!」
つい大きな声で言ってしまった。全く待ってなんていうつもりは無かったのに。口が、体が、心が勝手に動いてしまった。正直な体で困る。
「ごめんなさい。大丈夫よ」
「そうですか。また何かありましたら、遠慮なくお申し付けください」
「分かったわ」
ハイヒールを脱いで足首でも回したいところだったが、私の体は固まってしまっていた。ヴァルの手の感触、温かさの余韻を楽しんでいたのだ。もしかしたら虜にさせられたのかもしれない。
「女王様、任命証をお渡しください」
「ん? あっ、ああ」
マネキンのように固まっていたであろう私の顔を覗き込むようにヴァルは話しかけてくると、任命証を渡してきた。
受け取ってから演説場所へと上がる。だが任命証をリンカへと渡せなかった。
私は任命証を渡すのをためらってしまった。
それは、リンカがこの任命証を受け取ってしまうと、補助大臣のリンカへとなってしまい、今まで私といた大親友のリンカで無くなってしまうと考えたからだ。
リンカが補助大臣となってしまうと二人の距離が開いてしまうようで怖い。
リンカは仕事があると私といたがらなくなるかもしれない。
様々なマイナスな懸念が頭に溢れている。その懸念たちは今にも塊になって私に詰まってしまいそう。たぶん本当に塊になって詰まるときは、私は生きているか分からないだろう。
どうすれば良い? 補助大臣でなくしよう! ではどんな身分? 平民としてだと王宮に毎日いるのはおかしくなってしまうし、何よりリンカがこの世界で暮らしていけなくなる可能性が極めて高い。
一緒にいたいからと補助大臣でなくしてしまうと女王様と平民で身分の差が酷くなり、暮らす場所が違うくなってしまう。
補助大臣であるとすると、女王様と大臣でさほど身分の差は酷く無くなり、同じ王宮で暮らせる。だが身近にいるのに話せない、接っせない、ともどかしい思いをする。
どちらが増しだろう。みんなならどちらを選ぶだろう。生憎、この世界での生活は諦めて、元の世界に帰ろう、とは出来ない。
心の天秤にかけてみようと思ったが、かける勇気が無く、どうせかけてもどちらとも同じ重さを示すだろうと思っていた。
でもかけてみないと分からない、とほんの少しの期待を頼りに天秤にかけてみた。
左が最初の意見。右が二番目の意見。
ほぼ同時に天秤に乗せた。初めは大きかった揺れがだんだん小さくなっていく。そしてやっぱり同じ重さか、と失望しかけた瞬間、天秤が壊れそうな勢いで右に傾いた。
天秤の右の皿には二番目の意見以外にきれいなピンク色をしたリンカの手があった。
頭に軽く痛みが生じた。それによって私は心の天秤の世界から戻った。
顔を上げると、手の形からして私にチョップした直後であろうリンカが顔を顰めて立っていた。
「バカ。変なところで変に悩まないの。天秤なんて無理矢理にでも好きな方に傾ければ良いじゃない。あなたは女王様。この国で一番偉いの。いくらでも都合よくしちゃえば良いのよ。私が仕事を理由にラノンといられなくなったとしたら、私に仕事を任せないように命令しちゃえば良いじゃない。あなたはそんなことができちゃう立場なの。私もなってみたいわ」
リンカらしからぬ豪快、型破りな考えだが、私がいろいろできてしまう立場なのは事実だ。ならばいくらでも都合よくしてしまえば良い。
吹っ切れた。本当に私はリンカがいないと人間として成り立ってない気がする。だからこそ私にはリンカが必要なのだ。
「ごめんなさい。目眩がしてしまっただけよ。続けるわ」
みんなに適当に言い訳をして続けた。
「おめでとう。親友大臣のリンカ」
「女王様、補助大臣では?」
カシジが質問してきたがもっともだ。だが今、私が変えたのだ。勝手に名前を。だって女王様だもん。
「今変えたわ。こっちのほうが良いもの」
私はそう言って演説場所から降りると、カシジの持っていた万年筆を奪い、適当に汚い字で補助と言う文字に斜線を引いて、上に親友と書いた。
そして万年筆を返して、再び演説場所に上がり、リンカに渡した。
「女王様何を」
カシジは困ったように声を上げている。だが、
「ふっ。ラノンらしいな」
「女王様の考えることは、予測できませんね」
と、バオとヴァルがフォローしてくれた。
「良いと思うけど、ただわがま」
「そうですねー! 拍手! 祝いましょう!」
チピの失言を何とか掻き消そうと頑張ったステランだが、遅かった。でも親友大臣については不満はないみたい。
「自分は、女王様は昔から自由だと知っていますから。ははははっ!」
ドニーは高らかに嬉しそうに笑っていた。
キクバナはただただ笑顔で拍手していた。その笑顔から反対は感じられなかった。
「らしい、ですか。そうですね」
カシジも渋々許可してくれたようだ。
会場は拍手で包まれた。
二人で元の立ち位置に戻ると、いきなり
「ちょっとラノン、ヴァルさんの手、どうだったの?」
と、質問のよりかは尋問が始まった。
と同時にパーティーが始まった。
いかがだったでしょうか。また一つ吹っ切れたラノンですね。ラノンは妙に深く考え込む癖があるようで、リンカ必須です。
テストの関係で投稿スピードが遅くなると思われますのでご了承ください。
最後に。読んでくださった方に史上最大級の感謝を!