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11、言葉の罠

お楽しみください。

 会議はかなり盛り上がっている。

 「ではどうしろと!?」

 「それは・・・・・・」

 バオの問いに黙ってしまうチピ。

 ここまでの会議の様子を説明しよう。

 まず会議が始まった。

 議題は国民を戻すにはどうするか。そしてもう二度と逃げ出さないようにするにはどうすれば良いか。

 先程リーダーカシビが言っていたが、国民の殆どは旧王宮に引き籠っているらしい。

 旧王宮と言うのは三百年前の菓子国の王宮で、火事で半壊してしまったそうだ。同時に森林が焼け焦げ、住める場所ではなくなったそうだ。

 それにより、王宮はここに再建された。

 旧王宮は全壊はしておらず、引き籠るには十分すぎる場所だという。

 旧王宮に引き籠っているだけなら良いのだが、ここからが問題なのだ。

 旧王宮は菓子国の南部らしいのだが、国民が隣接している武器国という武器生産が盛んな国に逃げ込もうとしているらしい。

 武器国の王様のガッハさんは気性が激しいことで有名らしく、何かあればすぐ戦争沙汰にするなど厄介なのだそう。だから関わりたくないし、逃げ込んでほしくないなー、と言う話をしていたらだ。

 こんな内容に手紙が私とバオあてに届いた。

 『バオ王にラノン女王、いかがお過ごしかな? 早速だが本題に入ろう。そちらの国民が私の国、武器国に逃げ込もうとしているらしいね。お利口に入ってくるならまだしも、無理矢理門を通ったり、食いもんがまずいだとかで、いろいろ迷惑しててね。ぜひ、今週中に解決していただきたい。そちらの国民は門で捕まえてあるぞ』

 手紙からも伝わってくる怖さ。

 門とは菓子国と武器国を隔てるものだろう。つまり国境だ。

 私はこれはやばいと直感した。

 理由は二つ。

 一つは他国の迷惑になっているから。

 二つはガッハさん直筆であろう手紙の裏に小さく漢字で「戦争」と書いていたからだ。

 ぞっとする。かつて手紙および紙切れでこんなにも人を圧倒する人がいただろうか。さすが気性が激しいで有名なガッハさんだ。手紙にも気性が出てる。

 ところで、今更だが、この世界は元の世界と同じように一秒、一分などがあり、月もある。

 元の世界とは何も変わらない。

 一分は六十秒で、六十秒で一時間。そして二十四時間で一日。月によって若干変わるが約三十日で一か月。月は一月から十二月までで、これら三百六十五日で一年。

 文字は同じところもあれば違うところもある。

 漢字は世界共通で使われていて、カタカナもある。つまり、この世界には漢字とカタカナの二語のみ。

 ここでカシビたちが使ってた「ギガンティック」や「リターン」は完全英語でしょ? と疑問を唱える人もいると思うが、この世界ではそれらはカタカナとして含まれている。なので正式に言えばカタカナでなく、カタカナ語なのだ。

 カタカナ語は必ず名前に使われる。

 この世界では人名は全てカタカナ語で書き、漢字は使わない。私の場合だと、羅音、ではなくラノン、となる。

 だからこれからはラノンとリンカだ。

 漢字はそれ以外の漢字にできる言葉に使うと言ったところだ。

 なので人名には漢字で書け無さそうな名前が多い。

 身近でいえばヴァルとか、バオとか。

 ちゃっかり私の名前も音、と書いてノン、と読むので本当は感じでは書けない。音はオト、かオン、としか読まないからね。

 ヴァルは絶対に無理そうだがバオならいけそうだ。暴走族の「夜露死苦」や「仏恥義理」のようになりそうだが・・・・・・。

 「女王様! 何かご意見は!?」

 ヴァルが問うてくる。顔を真っ赤にして興奮しているのは何だか似合わないし、らしく無く感じる。

 「頭が混乱してる。一回誰か、ここまでの内容を整理して」

 「では僕が」

 カシビが名乗り出る。

 実を言えばただ聞いていなかっただけだ。

 「僕たちは残念なことに国民に嫌われていると言えるでしょう。原因は税率が高いから。それで逃げられてしまった。では戻ってきてもらおう。ということで今私の部下たちが探しています。ではどうでしょう、このまま国民を戻してまた逃げ出さない保証はありますか? こうなって税率を下げようと話し合っています」

 なるほど。では下げれば良い。

 「では下げましょう。そうねー、十パーセントくらいまで」

 謁見場が凍りつく。それはみんなの冷たい視線によってだった。

 「何よ」

 「そんな簡単に下げられるなら下げとるわー!」

 バオが怒鳴る。

 「税ってのはな、消費税、所得税、住民税、法人税、酒税、関税があるの! ステラン、今からでも教師を呼んで来てくれ。話にならん」

 こればっかりはどうしようもない。

 私の頭が悪いのだから。

 消費税くらいしか知らかった。どうしよう。

 あっ! 今こそ凜歌に助けてもらおう。

 「リンカーっ」

 小声でリンカを呼んだ。

 リンカは一瞬立つのをためらったようだが、私が早く! と口パクすると小走りで私の席まで来た。

 「何よ!」

 少し怒り気味のようだ。

 「税について詳しい?」

 「そこそこは知ってる」

 良かった。リンカのおかげで話にはなりそうだ。

 「大丈夫よ、優秀な補助大臣がいますから」

 「なら良い」

 理解してくれたようだ。

 「消費税は下げると・・・・・・。凜歌!」

 「えっ!?」

 「う、うん。消費税を下げたいのですよね? 消費税を下げると税収は減ってしまいますが・・・・・・」

 リンカは言う。

 「それが問題。菓子国は税収を上げるために消費税を上げたんだよ。そしたらこうだろ? どうしようもないぜ」

 バオはお手上げ、と言った感じで項垂れる。

 少ししか内容が分からない。

 「低い税率のものは無いのですか?」

 リンカは私に説明をするのを忘れてしまったのか、どんどん話を進める。

 完全に置いて行かれてしまった。

 「住民税と法人税低くないっけ?」

 チピが言う。

 チピは意外と頭が良い。だらしない感じだったので心配だったのだが、私の方が心配をされる立場だった。

 「そうだな。どちらも二パーセントだ」

 「二パー!? それは低いですね。両方十五パーセントにしましょう。そして消費税を十パーセントでなく二十パーセントにしましょう。これである程度税率の調整はできたんじゃないでしょうか」

 「おおう」

 バオは驚いていた。

 さすが、我が補助大臣よ。あっぱれだ。

 「決まったの?」

 「はい。決まりましたよ」

 私が確認すると、リンカが敬語で答える。

 まあ、一応身分としては私の方が上なので当然だが、何か申し訳ない。誰が見ても感じてもリンカの方が優秀なのに。

 「すごいわねラノン。日本ではこんな簡単に決まらないよ」

 そう言って凜歌は席へ戻っていった。

 「では、後は国民にこれを説明するだけですね。カシビたちは国民を集めるのを今週中にお願いします。そしてカシビたち以外は広告作りなどをして国民にそれを伝える準備をしましょう」

 この世界にはテレビが無いであろうから広告などを作って伝えるしかない。

 一番は異世界の醍醐味である魔法があることだ。

 あるか聞いてみよう。

 「魔法はある?」

 「あるさ。確かカシジが『テレパシー』を使えたはずだ」

 「はい、使えますとも。ですが効果範囲は狭いです。どこかに国民を集めていただかないと」

 カシジがテレパシーとか言う精神を介して思考を伝えるであろう魔法を使えるらしい。

 私も使ってみたい。そう思ったので後で聞いてみよう。

 「どこか集められる場所は?」

 私は記憶が欠けてる設定なので、難なく言える。もしこの設定が無かったら散々疑われていただろう。

 「中庭はどうだ? 演説台もあるだろう」

 「すいません、今演説台は訓練で使っていまして・・・・・・。ですが明日までは返せます」

 バオの提案にダニーが言う。 

 演説台は大体想像がつくが、訓練に使えるようなものだろうか。

 だがそこは特に首を突っ込まないでおこう。

 「集める場所は中庭ね。そこでカシジに『テレパシー』を使ってもらう。後は広告だけど、誰に製造を任せようかしら」

 私が顎に手を当てて悩んでいると、ヴァルが立って任せてください、と前のように足をクロスさせ、手を胸に当て礼をした。

 やっぱり樹乃さんに似ていると思う。二人ともかっこいい。

 「では環境省に任せるわ。これくらいかしら」

 「そうですね。仕切っていただきありがとうございました。私が変わります」

 そう笑顔でリーダーカシビが言うと、会議おの閉めの言葉へと続けた。

 「それでは、今回の会議では税率の調整、広告作成、国民探しについて話し合いました。毎度活発な議論ありがとうございます。今はもう八時でございます。お食事の時間が近くなっておりますので、食事会場へとお移りください。これにて会議を終わらせていただきます」

 リーダーカシビはもヴァルには及ばないものの、美しい礼をしてみせる。

 もう八時ということは異世界に来てからに時間が経っていた。

 窓の向こうは真っ暗だ。

 「静かですねー」

 ヴァルが話しかけてくる。

 窓を眺めている間に食事会場への移動が始まっていたみたいだ。

 「いつもこんなに暗いの?」

 「いえいえ、いつもはもっと明るいです。八時になると市街地では屋台が並び、毎夜賑やかです。本来ならば酒で酔った男たちの声が聞こえるでしょう」

 そうなのか。一度私も行ってみたい。

 屋台で焼き鳥でも食べながらゲラゲラ話をする。とんだ楽しいことだろう。

 「それより女王様」

 そう言ってヴァルは私に顔を近づける。

 口を少しとんがらせればキスできそうなほどだ。

 近すぎる。

 イケメンフェイスをまじかで堪能できるのは良いが、それにしても近すぎる。

 一見細目で鋭い目つき。でもどこか優しさが滲み出ている。

 首のあたりからは香水の良い匂いが漂ってくる。幸せだ。

 と、ここでリンカの視線を感じたので、急いでヴァルの肩を少し押してやり、顔の距離を丁度良い感じにした。

 「何か?」

 「あっ、すいません。いやあのー、服装を変えていただこうかなーと思いまして」

 「あ、そう。ではリンカもお願い」

 「お任せください。ではリンカ様もこちらへ」

 ヴァルはリンカの方を見る。

 リンカは目が合って緊張でもしたのか目を逸らしてしまった。

 「時間がありませんから早く」

 ヴァルは私の右手とリンカの左手を持つと、引っ張るかのようにぐいぐいある扉へ向かう。

 リンカは顔だけを後ろに下げて、私に何か話したそうにしていたので、私も顔を後ろに下げてヴァルの背中の後ろで話せるようにした。

 「何?」

 ヴァルに気付かれないように小さな声で言う。

 それにしても歩くのが早い。そんなに急ぐ必要はないと思うが・・・・・・。

 「ヴァルさんかっこいい!」

 リンカが満面の笑みで言うからには本当なのだろう。

 遂に男性嫌い克服か!? 実に期待したいところだ。

 「まさかの?」

 「昔からかっこいい男の人は大丈夫よ。今まで当てはまる人が樹乃お兄様しかいなかっただけ」

 なんと都合の良い嫌い方だ。かっこいい人がいなかっただけどか贅沢だ。

 かわいい人ほどかっこいい人を求めるのかな? 

 リンカならば誰の心でも射貫けそうだが。

 生憎、私は射貫く矢すら持っていない。リンカから五本くらい奪いたいものだ。

 「さあ、衣裳部屋に着きましたよ。女王様は制服からドレスへ、リンカ様は王宮指定の制服へ着替えましょう。メイドさん方、お願いします。それでは、食事会場で」

 ヴァルは体を反るようにして立っていた私たちに美しい礼をして去っていった。

 「お入りください」

 「こちら、補助大臣のリンカよ。今日から王宮で仕えるから仲良くして」

 「リンカです。よろしくお願いします」

 「いやいや、敬語は止めてください」

 どうやら敬語は嫌らしい。

 上の人から敬語で話されたら心苦しいのも分からなくはない。きっと謙虚なのだろう。

 「では改めて、よろしく」

 「はい、こちらこそよろしくお願いします」

 そのメイドだけ制服の色が青でなく赤であった。何か特別な身分なのだろうか。

 「ねえ、何であなただけ服の色が違うの?」

 メイド達にまで私の記憶問題は知らされてないみたいだ。案の定、顔を顰めている。

 「すみません! 申し忘れていましたか! わたくしメイド長のラックと申します。言ったはずだけどなー」

 何かとても申し訳ないことをさせてしまった気がする。

 私の記憶問題は王宮に仕える者全員に伝えるべきだろう。でないとこうなる。

 「リンカ、説明」

 「うん」

 リンカは最初からするつもりだったのか、メイド長に事情を伝えていた。

 私は近くのメイドに入ってよいかと聞くと、はい、と返ってきたので遠慮なく入る。

 そこは床も壁もレッドカーペットが敷かれていた。

 非常に歩きやすい。少しフカフカしている感じが病み付きだ。

 五メートルほど何もない廊下が続き、先にあった大きな扉を開けた。

 扉を開けると、一人メイドが立っていた。

 「ようこそ、衣裳部屋へ。要件はヴァル様から聞いています。こちらへ」

 立派な扉を開けると、その部屋も床も壁もレッドカーッペットが敷かれていた。

 たくさんの服が天井に吊るされている。天井に直接ハンガーのようなものがついている。

 吊るされている衣裳は見てるだけで面白かった。心が躍った。

 私は一人で、やっぱりこういうところはしっかり女子だよね、と思ったのだった。

 これで衣裳にも興味が湧かなかったら自分の性別を疑うことだろう。

 ハロウィンにぴったりそうなオレンジが主な衣裳。胸元が大胆に開いている露出の多い衣裳。茶色が主で和な雰囲気の袴のような衣裳。

 端っこの方には水着も見られた。私には到底着れそうにないようなものだったが。

 「あちらの衣裳にお着換えください。着替え部屋1が空いていますので」

 着替え部屋と言っても日本にあったような人一人入るので精一杯な簡単なものではない。しっかりとした部屋だ。

 住もうと思えば住めそうだ。

 扉が閉まる。一人で着替えろとのことらしい。

 私は部屋奥にあった衣裳の入っているかごへと向かう。

 衣裳を取り出して、天井に付いているハンガーに掛けた私は声を出して驚いた。

 「きゃあっ! ろろろろ」

 「どうされましたか!」

 先程のメイドが何事か、と着替え部屋に入ってきた。その顔からは焦りしか感じられなかった。

 「露出が多い!」

 「いつもと変わらないですが・・・・・・。お気に召しませんか?」

 「うーん。そういうわけではないけど、もうちょっと露出の少ない健全な衣装をお願いできる?」

 「それでは、女王様が直接選んでいただいて結構です」

 少しいらつきが窺えたが女王様なので気を使う必要もないだろう。

 「どうぞあちらへ」

 メイドが着替え部屋の扉の前で奥の方を指差した。

 「比較的清楚な衣裳が揃っております。不謹慎かもしれませんがお葬式に使われることがあります」

 「そう」

 私は上機嫌に言った。語尾が上がってしまった。

 期待が膨らむ。露出の多い衣裳は通り過ぎて行き、だんだん清楚な衣裳が目に多く映るようになってくる、はずだった。

 「こちらです」

 メイドはやはり苛々しているのか顔が引きつっていた。

 「ん? これが清楚?」

 私は疑問に思った。

 そこに吊るされていた衣裳は全く清楚ではなく、先程のとあまり変わっていないのだ。

 胸元が開いた衣裳に太もも全開の衣裳。着たら背中のアピール信じられないほどすごいであろう衣裳。これをこの国この世界では葬式で着ると言うのか?

 日本ならば会場に入った途端、遺族に機嫌な顔で睨まれるだろう。

 「はい。比較的、清楚です」

 「あーっ!」

 私はメイドを指差して大声を上げた。謎が解けたのだ。

 私は完全に言葉の罠にはまっていた。

 メイドが言った言葉をもう一度言ってみると分かるだろう。

 『比較的、清楚です』

 気付いただろうか。

 「比較的」だ。

 あくまでメイドが言う「清楚」とは先程までの超絶露出の多い衣裳と比べてだ。決して誰が見ても完璧な清楚さだ、とは言っていないのだ。

 なので超絶露出の多い衣裳と比べれば清楚だが、普通に他の衣装と比べずに見ると露出が多いのだ。

 言葉ってのは難しいものね。

 「そういうことね」

 「分かっていただきましたか? お時間が無いので先程の衣裳でー・・・・・・?」

 メイドが表情を伺いながら問うてくる。終いにはニッコリ笑ってきた。

 そんな感じで来られたら、

 「じゃああれで良いわ! もう!」

 って、言うしかないでしょう! 

 「ありがとうございます!」

 ほんとよー。

 私は悔しくも妥協したのだった。

 このメイド、なかなかうまいね!

 でもそれ以上に良い発見があった。

 それは女王様って立場が楽しいこと。

 良くも悪くもこんなに呆れたり疲れたりする生活のは今までに無かった。

 新しい刺激だ。

 そんな刺激を味わえる女王様と言う立場。

 最初は責任どうこうとか大変そうで面倒臭いイメージだったけど、すごく楽しい。

 リア充だ。私はリア充なんだ。

 本当に、女王様って良いじゃない?

 

 

いかがだったでしょうか。

少しずつですが王宮の内装がイメージできるようになってきたのではないでしょうか。そうであれば嬉しいのですが・・・・・・。

さて、今回は「武器国」との関係が分かったと思います。戦争にまで発展するのか、期待していてください。

そして遂に異世界の醍醐味、決して外すことのできない存在、「魔法」が出てまいりました。こちらもご期待ください。

最後に。読んでくださった方に史上最大級の感謝を!

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