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10、謁見場

お楽しみください。

 「くわーっ、疲れた」

 疲れたと言ってもただ馬車に揺られていただけである。でもこの馬車がオンボロ! 尻が痛くて仕方ない。

 そしていろいろありまして歯も痛い。いろいろの内容は思い出したくもない。屈辱的だからね。

 「私は頭が疲れたわ」

 凜歌も私と一緒に馬車を下りて伸びをしている。

 「行きましょう。説明することがてんこ盛りですから」

 リーダーカシビが言ってくる。今はかわいいのに。ギガンティックとやらを使ったらああなるのだろうか。

 「行こ」

 「うん」

 住宅が並ぶ大きな道を直進するとあるのがここ、王宮だ。

 クッキーで出来ていそう出来ていない高い外壁に囲まれ、唯一王宮内に入れる門は、常にギガンティック状態のカシビが二人立っている。

 さすがに門まではお菓子のような見た目で出来てはいなかった。王宮もそうである。しっかり作るところは作るようである。メリハリとでも言おうか。

 門から入ると、凜歌の家のとは比べ者にならないほど大きな噴水があった。凜歌の家のも十分すごいけどね。

 また心を読まれてると困るので失礼なことは言わないようにしなければ。あ、今こう思ってるのも読まれてる?

 「何?」

 「え? 何でもないよ」

 焦ったー。これで気づいてたらすごいよね。鋭いのにもほどがあるわ!

 「ごめんなさいね!」

 「もしかして・・・・・・」

 「ダダ漏れよ」

 まじかー。すごい。その鋭さ、尊敬します。

 噴水から先に進むと、大きな扉があった。そしてギガンティック状態のカシビ二人。この扉は常に開いているようだ。

 「ラノン! お前のお友達とやらは!?」

 「凜歌のこと? 心配は要らない。もう大丈夫」

 「そうか。騒がせやがって。また外壁でも壊されたらたまったもんじゃないからな」

 急にタメ口で若者が話しかけてきた。私も若者ですけどね。

 服装は貴族って感じ。元の世界では見たことが無い。

 顔はイケメンで、第一印象はチャラい。

 手首には数珠のようなのを着けてるし、男のくせしてカチューシャもような物まで着けている。いったい誰だ? 王様だったりしないよね? かっこいいけど、好きなタイプじゃない。

 「どなた?」

 女王様かつお淑やかになる、なので丁寧に問うてみた。

 「は!? 菓子国の資金大臣ですけど!」

 資金大臣? 一応お偉いさんか。大臣と言う役をこんな若者に任せて良いのだろうか。それを言えば私もだが。

 「資金大臣かー。忘れてました」

 「おいおい」

 「女王様、まずは謁見場へ行きましょう」

 謁見場。なんとも堅苦しい言い方だ。堅苦しい言葉は大抵難しいので止めてほしい。

 「お菓子は?」

 そうだ。お菓子が食べたい。

 私は期待しているのだ。だって国名が菓子国って言うくらいなんだからおいしくなきゃね。

 「ラノン、またお菓子か? 昨日まで痩せます! とか言って控えてたくせに。太るぞ」

 「きゃっ!」

 急すぎるボディータッチ! なぜ触った!? 変態か、資金大臣は!

 資金大臣は私のお腹を人差し指でつんつんしてきやがった。

 「全然だな。痩せてねー」

 「何を急に!」

 私はもちろん、当然のごとく驚く。そして思わず資金大臣をビンタしてしまった。

 「あっ、ごめんなさい」

 「ぐえっ。強烈ー」

 「女王様! お父様であられるバオ様になんてことを!」

 お父様!? このボディータッチ野郎が!? 

 「どなた?」

 「執事のカシジでありますが・・・・・・」

 「あなたがカシジ!」

 予想した通りおじいさんだった。

 長い白髭を生やした細身のおじいさん。

 目は細いがその分優しさが詰まっているように見える。いろいろ細いね。

 「カシジがあなたで、バカがあなたね」

 私は一人ずつ指を差していきながら名前を覚える。

 「いや俺はカシジじゃない。あとバカでもない!」

 「わたくしはバオ様ではありません。わたくしは執事のカシジです」

 「え? じゃあ、あなたがバカで執事。それであなたがカシビで資金大臣」

 「いやだから俺はバカじゃないし執事でもないって!」

 「わたくしはバオ様ではありません。執事のカシジです。また資金大臣はカシビではありません。カシビは女王様の家来です」

 ん? 全然わからない。私の頭の神経が知恵の輪のように絡まってる気がする。ああ、シャットダウンしそう。

 「羅音!? 大丈夫!?」

 私は大きな扉の前で倒れた。

                                 #

 私は起動、否、起きた。ふっかふかのベットから。部屋には凜歌とチャラそうな男性がいた。

 「凜歌。私はなんで寝ているの?」

 「倒れたじゃない。大きな扉の前で。シャットダウンします、とか言って。体調は? 良いなら謁見場に行くよ」

 「うん」

 「お騒がせ野郎め」

 「あなたは?」 

 「バオです!」

 やっと覚えました。あなたがバオさんね。で、執事だっけ?

                                 #

 謁見場。思った以上に広い。

 床にはお菓子が描かれている絨毯が敷かれてある。天井には定番のシャンデリア。今にも落ちてきそうだ。それほど細かく作られている。

 謁見場には座り心地抜群の椅子が円形に置かれていて、それぞれ人が座っている。

 「今日皆さんにお集まりいただいたのは女王様がおかしいからです」

 おい、リーダーカシビ。そんな冷静に言うことじゃないだろう。雰囲気が明らかに変だろうが!

 「おかしいって?」

 バオさんが問う。

 「記憶が一部無いんですよ。自分が女王様であることであったりは分かるようですが。例えば僕たちカシビを知らなかったり、カシジ様、バオ様を知らなかったり」

 「どう対策する?」

 「ですので、今回は皆さんにその対策内容を考えてもらうと同時に、自己紹介をしていただきます。今ここにいる方々は全員、女王様に覚えてもらわないと困る存在ですから」

 「それでは、僕から」

 「僕たちはカシビと言います。女王様の家来です。もっと言えば護衛でしょうか。失礼なことが多いかもしれませんが末永くよろしくお願いします」

 多いですよ!

 こういう時に限って仮面被りやがって。でもかわいいからって許しちゃうのが罠だよねー。

 「わたくしは執事のカシジです。細身で頼りないかもしれませんが、遠慮なく頼ってください。女王様のご要望に応えられるよう努力いたします。よろしくお願いします」

 こちらこそだ。カシジさんは柔らかい印象で良いなー。どっかの誰かさんと違って裏表無さそうだし。

 「うるせえな」

 かっ! 読まれたか。なかなか手強いな、リーダーカシビよ。

 「俺は資金大臣のバオだ。良いかラノン、覚えろよ! ラノンのパパでもあるんだからな! えー、資金省では資金の管理や、月に一回募金をやってる」

 バオさん改めバオは資金大臣でもあり私のパパである。覚えた。

 それにしても明るい感じの人で良かった。話しやすそうだし。

 ところで、バオは王様ではないのだろうか。

 「ちょっと待って、バオは王様ではないの?」

 「ああ。さすがに二つ同時は無理だからな。アイツが代理王様だ」

 ここまで時計周りに来たが、急に飛んで、私より年下そうな一人の少年に順番が回る。

 少年は立った。

 「はい。只今バオ様からご紹介いただきました、代理王様ロンです。見ての通り未熟者ですがよろしくお願いします」

 自ら未熟者と言っているが、その通りで、見た目は私よりも未熟で幼い。だが、こんなにも大人に囲まれている中、しっかりとした言葉で堂々と自己紹介をしてみせた彼は、明らかに中身が大人だ。

 「よろしく。すごいわね、そんなに堂々と話せるなんて」

 「すいません。全く威張ったつもりは無かったのですが・・・・・・」

 俯くロン。泣くんじゃね? と思ったのでしっかりフォローしてあげる。

 「ああ、ごめん。堂々ってのは良い意味よ。モジモジしてないねー、ってこと。私の言い方が悪かったね」

 ロンは目を袖で拭うと、太陽のような明るい表情を見せた。

 「こちらこそです。変な捉え方をしてしまい申し訳ありません」

 「頭を上げて。お互い様だもの。改めて、よろしく」

 「はいっ!」

 うん。良い子だ。

 「精神年齢の差が酷いな」

 バオがぼそっと言う。

 「うるさい」

 「おお、すまんすまん」

 バオ、お前もまさかとは思うがカシビと同じ感じじゃないだろうな? もしそうなら、外壁壊しまくるぞ!

 「裏!」

 リーダーカシビ! 黙っとれ!

 「それでは、どんどん参りましょう」

 カシビが言う。

 「私は環境大臣のヴァルです。女王様が外壁を壊されますと、いろいろと面倒ですのでお止めください。環境省では住宅の修理などを行っています。よろしくお願いします」

 ヴァルさんは足をクロスさせると、右手を胸に当てて美しく礼をした。

 白髪でザ・イケメンと言った感じだ。目つきが少し鋭いがそれがまた良い。

 ああ、その鋭い目で私の心を射抜いてー。・・・・・・、すいません。妄想がダダ漏れで。

 「ああっと、言い忘れだが資金省では菓子国の資金の管理や、国民からの募金をやっている。資金は全部俺が管理してるから、ヴァルが修理代が欲しい、とか言っても俺が嫌と言ったら資金は出ない。まあ、俺はしっかりしてるから資金持ち逃げとか無いね。やばくなったらするかもだがな! はははっ!」

 はははっ! じゃねーよ! お前のほうが精神年齢低すぎて酷いよ! 本当にバオが資金大臣で良いのだろうか。心配でならない。

 「ええっと、良いかしら? わたくしは、教育大臣の、ステランでございます。教育省では、菓子国の教育方針を決めています。教育方針は毎年異なります。去年は道徳中心。今年は国語中心です。女王様の記憶が定かでないのなら、教育省から教師を派遣しましょう。基本的なことを教えさせましょう」

 「良いわね。よろしく頼むわ」

 だんだん、~わ、~ね、の女王様らしい口調のほうが話しやすくなってきた。

 覚えることが山盛りな予感だが、この異世界を楽しむためには必要なことだし、覚えるのも楽しみと化すだろう。

 「分かりました。明日から女王様に派遣いたします。よろしくお願いします」

 色で表すならば薄ピンクになるほど優しそうで、ふわふわしている人だ。

 だが一つ、やたらと来ている服がピチピチなのが気になる。明らかにサイズが合ってないように思える。

 「自分は防衛大臣のドニーであります。防衛省では国民や国に危険なことが起きるとき、また起きそうなときに軍を派遣し、対処をするのが仕事であります。日々訓練を行っているので実力についてはご安心くださいであります」

 軍にでも入ってたからか口調が特徴的だ。

 さすが防衛大臣なだけあって体がすごい。

 プロレスラーのようだ。

 鎧の所々から見える筋肉には驚かされた。

 石のように固そうで、血管が浮き出ている。

 思わず興奮してしまう。

 「次どうぞ」

 私がドニーの筋肉を見て興奮していると、リーダーカシビが小さな女の子に説明を急かす。

 「はっ、ははははい」

 震えた声を出す女の子。

 「わっ、私は食料大臣のキクバナです。あまり人前に出て話すのが得意ではありません。よ・・・・・・」

 言っている通り人前に出て話すのが不得意、つまり人見知りなようだ。早く話し終わりたかったのか最後までしっかり言わずに座ってしまった。

 「キクバナ、声が小さすぎだ。あと食料省の仕事内容は? もう一回言うんだな」

 「はっ、すいません!」

 キクバナはそうでしたか!、といった感じですぐに立ち上がってバオに謝った。

 私はその光景を見て引っかかることがあった。それはちょっとした怒りに変わり、口から出ていた。

 「ちょっとバオ。今の言い方はおかしいんじゃない? 聞こえなかったからもう一回言ってもらうのは良いよ。でもさ、そんな偉そうに命令みたいに言う必要はないよね? もう一回、しっかり頼んでね」

 「お、おう。すまんキクバナ、もう一回大きな声で食料省の仕事も含め言ってくれないか?」

 「わ、分かりました」

 キクバナはゆっくり席から立つと、小さな口を開いた。

 「改めて、私は食料省のキクバナです。食料省では貧しい家庭へ食料を配布したり、税金の管理をしています。ちなみに今、消費税率は六十パーセントです」

 「六十!?」

 「それはっ! 高すぎ・・・・・・」

 私と凜歌は顔を見合って驚いた。

 それもそのはず。

 日本では消費税率は十パーセントを超えていない。なのに、菓子国ではその六倍の六十パーセント! 高すぎる。

 国民は不満に思わないのだろうか。

 私はふと市街地の風景を思い出した。

 そして、あの時市街地に誰もいなかったのは、税金に不満で国民が逃げ出したのではないだろうか。という疑問と言うか推測が浮かんだ。

 「ちょっとごめん。市街地に人一人いなかったのって、税金が関係してる?」

 「そうなんです! 食料大臣の私がいけないんです! 税金を高くし過ぎたから・・・・・・」

 「いえいえ、キクバナ様、あなたのせいではございません。王宮に仕えるもの全員のせいです」

 キクバナとカシジの発言から私の推測は当たりだと分かった。

 ちょっとこの国の現状が理解できた。

 ちょっと待った。国民が逃げ出した、ってやばいことなんじゃないの!?

 「やややや! やばい! 国民が国にいないってやばいよね?」

 「国にはいますよ。今カシビたちが国中を回って、見つけ次第国民を市街地に戻しています。菓子国は国民の全てが市街地に住んでいますから。残りの土地は菓子の木畑や花畑、お菓子工場に旧王宮です。先程入った情報ですが、国民の殆どが旧王宮に立て籠もっているようです」

 リーダーカシビが冷静に言う。

 良かった。でも国はどれくらいの広さなのだろうか。

 まずこの異世界の地図を見てないので形も位置も分からない。

 「ねえカシビ、世界地図見せて」

 「・・・・・・」

 沈黙が私を襲う。

 あっ、この世界に無い言葉だった? 

 「良いですよ」

 焦ったー。でも先程の沈黙は何だったのだろうか。

 すると私の耳に誰かが泣く声が届いた。鼻水を何度もすすっている。大人の泣き方ではない。明らかに幼い。

 謁見場を見回すと、泣いているのがキクバナだと分かった。

 キクバナは頬を真っ赤にし、溢れ出る涙を幾度となく拭っていた。おかげでキクバナの服の袖はびしょびしょだ。

 「カシビ、地図は後にして」

 私は何を思ったのかリーダーカシビからの地図を断る。

 そしてキクバナのもとへ歩いて行った。気付けば私はキクバナを抱きしめていた。

 「カシジが言っていた通り、あなたも悪いけど私も悪い。他の大臣も悪い。国民のことをもっと考えれなかったんだから。だから、自分のせいだと抱え込まないで。みんなで話し合いましょう。カシビ、自己紹介は良いから会議でも始めましょう。税金が変わらぬままだと国民は戻ってきたところでまた逃げ出すわ」

 私らしくない。単純にそう思った。私のどこからこんなにも包容力のある言葉が出てきたのか分からない。

 でも一人でこの問題を抱え込んでいるキクバナを放っておけなかったのは確かだ。

 私は異世界で女王様をやっている、また、やっていく以上、この問題に首を突っ込まないわけにはいかない。

 この国のトップとして、国民からの了承を得て解決しなければ。そう思ったのかもしれない。私は。

 そしてこの問題をキクバナの物だけでなくみんなのものとしたかったのだ。きっとそう。

 「分かりました。それでは軽く僕から説明を。あちらが外交大臣のチピ様です。それでは、十分ほど休憩を挟みまして、会議といたします」

 それぞれ立ち上がってどこかに行く。

 そんな中、私はキクバナを開放し、顔を見てから笑ってあげた。するとキクバナは最後の一回、と涙を拭って、菊のような華やかな笑顔で返してくれた。

 「それではまた、会議で」

 「はい」

 キクバナは謁見場から出て行った。

 「おい、なぜ俺様の自己紹介を飛ばした?」

 「ごめんなさい。では今、していただけるかしら」

 「俺様は外交大臣のチピだ。外交省ではいろいろ他国と良い関係を築くために対策をを練ってるよ。よろしく」

 「よろしく」

 タメ口で来たので一瞬女王様であることを忘れ、友達とでも接するかのようになってしまった。

 「俺様・・・・・・。チピ・・・・・・。はははははっ!」

 「何が面白い! 人の名前で笑うな! これで五回目だぞ!」

 かわいいー! 

 小さな身長に黒髪。イケメンと言うよりはかわいいだ。

 「ごめんなさい。つい」

 「ついって。あー、もう慣れちまったよ」

 さっき言ってた。もう五回目だって。

 どうやら本当の女王様も笑っていたようだ。

 「ふふふ」

 「羅音、ちょっと」

 「はい。それではチピ、また会議で」

 「おーう」

 チピはだらしない返事をした。まるで授業のあいさつの時の男子のように。

 「凜歌何?」

 「馴染み過ぎじゃない? 正直驚いてるんだけど」

 「そうかな? でも女王様だからね。ところで分かってきたよね、菓子国について」

 「そうね」

 凜歌は顔を顰めながら頷く。

 私には分かる。凜歌がこの表情をするということは、あまり分かってないという証拠だ。

 なんだかんだ言って凜歌もダダ漏れである。

 「本当に?」 

 「何? 分かってないとでも? 羅音よりは理解力あるつもりよ」

 おおう、地味に傷つく。しかも事実だからもっと傷つく。

 「それでね。今私の身分って決まってないでしょ?」

 「国民でしょ?」

 「そうだけど、女王様である羅音の協力さえあれば私の身分は変幻自在よ」

 ものすごく凜歌の裏というかズル賢さを感じる。顔が歪んでるし。

 つまり凜歌のしたいことはこうだ。

 女王様である私に凜歌を補助大臣にします! とか言わせて、自分を良い感じの身分にしたい。

 実に欲に塗れている考えだ。

 でも私としても凜歌とは一緒にいたいから、良い考えだと思う。

 私はこの異世界での生活を楽しみたいのだ。

 せっかくお菓子好きな私にぴったりな「菓子国」に来たのだから。

 「はいはい。じゃあこれからの会議で言ってみるよ」

 「よろしくー。はっ、あれは環境大臣のヴァルさん!」

 凜歌にしては珍しい。男性を見て興奮気味だなんて。遂に男性嫌いが治ったのだろうか。

 「ねえ、ヴァルさんって樹乃お兄様に似てない? あの落ち着いた雰囲気と言うかさー」

 言われてみればだ。

 眼鏡はかけていないものの、あの鋭い目つき。でもどこか優しい。樹乃さんを彷彿とさせる要素はある。

 「まあね。だから?」

 「いや、何でもない」

 何か怪しい。もしかして本当に男性嫌いが治ってきたのではないか。もしそうなのだとしたら大親友として嬉しい。一段階上に進んだ証拠となるだろう。

 それにしても菓子国に仕える人たちには美男美女が多すぎる。その中に私と凜歌。

 凜歌は美女なので馴染めているというか違和感は全くないが、私はどうだろうか。

 もしかしたら女王様だからと気を使ってるだけで、本当はブスだ、とか思っているのではないだろうか。

 考えるだけで心が締め付けられる。自分で締め付けているようなものだが、だからと言ってそんなことは思ってない、と思い込むのも辛い。

 ではかわいくなろう。

 自分の体を見てみる。

 今更だが制服姿であった。

 続いて凜歌を見てみる。

 同じ制服姿なのに天と地の差である。

 悲しい。私は何かしらのスペックをもって生まれていないのだろうか。

 「羅音、着替えましょう? 制服姿、王宮内では確実にダサい」

 「そうだね。女王様らしい服を着よう!」

 もともと駄目ならば服などで誤魔化すのみだ。何なら化粧でもしてやろうか? もっとかわいくなってやろうか!?

 私がやけになって謁見場を出ようとした時、カシビが私を止めた。

 「もう会議、始まります」

 「え? ああ、ごめんなさい。凜歌、言ってよ」

 「ごめん」

 凜歌が小さな声で謝ってくる。

 そんなことよりだ。

 「では、これから」

 「ちょっと!」

 「はい?」

 「話したいことがあるの」

 私は凜歌を見る。すると無言で頷いてきたので私も無言で頷き返す。

 「えー、凜歌を、補助大臣として受け入れたい」

 「ん?」

 バオが顔を顰める。

 「これは、決してカシビたちやカシジたちが仕事してないとかそういうことじゃないの。何て言うかー、補助がうまいのよ。頭が良いから、記憶が一部欠けてて困ってると、すぐ教えてくれるの。王宮に仕えてる人たちや仕事は全部把握してる。残念ながら両親はお亡くなりになられてて、帰る家は無い」

 頭が良いこと以外全部嘘だが中々な作り話だと思う。我ながら良くやった。

 「良いと思うけどなー。どうだ、みんな?」

 バオが聞く。

 バオナイス!

 資金大臣兼王様がどうだ? と聞いてきたら相当なことじゃない限り賛成の意を示すだろう。

 「良いと思います」

 ステランが言う。

 「賛成です」

 「お二方が言うならばわたくしは賛成です」

 「良い案ですね」

 続いてリーダーカシビ、カシジ、ヴァルが賛成のようだ。当然と言えば当然の結果だが。

 「自分は、大賛成です!」

 明らかに言わされてる感があるダニーだが、賛成は賛成だ。しっかりとした一票となる。

 「私は賛成です。両親がいないなんて、放っておけない」

 人思いであるキクバナらしい考えだ。

 「代理王様としてですが、良いと思います。女王様の助けとなるならば」

 相変わらず大人な意見をお持ちのロンも賛成のようだ。

 後は、人一倍空気の読め無さそうなチピだけだ。

 「俺様はー、賛成だけどー、ただ女王様が一緒にいたいだ」

 「全員賛成ですねー! 拍手でーーーす!」

 カシビが余計なことを言っているチピの声を掻き消すかのように大声で拍手を急かす。

 みなさん、気を使ってくれているのは嬉しいですが、ばれ過ぎです。もう少し工夫してほしかった。でないと権力でねじ伏せたみたいで気持ちが悪い。

 「それでは、自己紹介でもしてもらいましょう」

 私は凜歌を見る。凜歌は最初から言うつもりだったのか、全く動揺せずに話し出した。

 「はい。私は今日から菓子国の王宮で補助大臣として仕えさせていただく、凜歌と申します。補助大臣と言うことで、補助が仕事となります。ですから日々勉強をし、皆さんの役に少しでも立てたら嬉しく思います。まだカシビさんたちやカシジさんには及びませんが、何卒よろしくお願いいたします」

 拍手が起きた。

 感動した。そして驚いた。

 立派過ぎる。どうしたらそんなことを当たり前のように言えるのだろうか。スペック? それとも勉強での賜物? 

 「それでは、会議を始めます」

 リーダーカシビがそう言った瞬間、空気がきりっと入れ替わった。

 私と凜歌は顔を見合わせて驚くと、自ら気持ちを切り替えたのだった。

いかがだったでしょうか。

今回はたくさんの異世界の人物が出てきました。護衛に執事、大臣、省。少し難しいかもしれませんが、覚えてもらったほうが良いかと思います。

どんどん馴染んでいく羅音に、確実に足場を固めていく凜歌。ここから二人の性格の違いが見て取れると思います。

これからは菓子国以外の国も出てきます。もちろんそれに疑問を持っていただいても良いですし、お菓子工場や旧王宮に対してでも良いと思います。

私は皆さんのそのような疑問をお話の中で解決していきたいと思います。

長くなりましたが最後に。読んでくださった方に史上最高級の感謝を!

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