13話「彼の手紙」
ぼくにはずっと会いたい人がいました。
その人はぼくの恩人です。
ぼくの前世の恩人です。
ぼくはぼくになる少し前オオムラサキという一匹のチョウでした。
ある日ケガをして飛べなくなったぼくを助けてくれた女の子がいました。
たちばな、はるひ。
それがその女の子の名前です。
はるひはぼくにたくさんたくさん希望をあたえてくれました。
ぼくはありがとうという気持ちであふれました。
でもチョウだったぼくはお礼を言うことができませんでした。
ありがとうを言いたくてぼくはもう一度はるひに会いたいと願いました。
そんな時きせきがおきたのです。
神さまがぼくを人間に生まれかわらせてくれました。
人間になってぼくははるひに会いに行きました。
でも会うことはできませんでした。
はるひはもうこの世にいなかったからです。
雪の日におきた電車のじこで亡くなったそうです。
近くに住む人が教えてくれました。
はるひといっしょに住んでいたおじいちゃんもすっかり元気をなくして今は入院していると言われました。
ぼくは悲しくなりました。
ぼくは助けてもらったのに、ぼくは助けることができませんでした。
だからぼくはまた願いました。
はるひを助けてくださいと願いました。
そうしていると、またしんじられないことが起きたのです。
目がさめると、ぼくは過去にいました。
最初はしんじられなかったけど、有名なあのタワーが作りかけだったからここは過去なのだと思いました。
雪がふっていてとても寒かったけど、ぼくはあの場所をめざしました。
そんな中、ぼくは自分のきおくが少しなくなっていることに気づきました。
上の名前、たんじょう日の日にち、血えきがた、自分の家、それから声の出し方をわすれていました。
でも、はるひのことだけは全部おぼえていたからよかったと思いました。
大きくなったはるひに会えた時、ぼくはうれしくて泣いてしまいました。
話したいことがいっぱいあったけど、声が出ないからありがとうも言えませんでした。
たぶん、はるひはぼくのことをあやしい人だと思ったにちがいないです。
でも、はるひはやさしいからぼくをお家に入れてくれました。
やさしいところはずっと変わらないんだなあって思いました。
それから、はるひのおじいちゃんと会ってぼくは新しい発見をしました。
伝えたいことは紙に書けばよかったのです。
気持ちを伝える方法はいくらでもあると知りました。
おじいちゃんはとってもすごい人です。
ぼくが知らないことをいっぱい知っていました。
2人との生活はわくわくすることがたくさんあふれていていつも楽しかったです。
でも、ぼくは心から楽しめていませんでした。
あの電車のじこのことを思い出すからです。
そのことを思いきって話そうとするととっても頭がいたくなりました。
神さまにそれはしちゃいけないって言われてるみたいでした。
ぼくはどうしたらはるひがずっと笑っていられるのか考えました。
どうしたら2人がずっと幸せでいられるのか考えました。
答えはかんたんでした。
はるひがしななければ、みんな幸せになれます。
だれも悲しまないで、みんなが笑っていられます。
ぼくは2人のことが大すきです。
だから、ぼくははるひをぜったいに助けようと思いました。
はるひ、おじいちゃん、大すきな2人がこのままかわらずこの場所にいられるように。
ぼくのゆめは、2人がずっと笑顔でいられるようにすることです。