99話 バストロク炎上⑨
本来ならこの鳳凰騎士団副団長であるビットズこそが、この場の主役になっている筈だった。
暴風を巻き起こし、その風にて敵を切り裂くといった、漫画などでよくありそうな技で汚らしい傭兵どもを皆殺しにできるはずだった。
だが、実際はどうだろうか。
確かに数人ほど空中に巻き上げ、切り裂いてやったが、残りの連中は自分に対して恐れを抱くどころか、どうでもいい狸の皮算用を始め、挙げ句の果てには全く関係の無い茶番を始めているではないか。
「貴様らぁぁぁぁっ!!」
ビットズは怒りに身を任せ、剣を振り上げた。
その瞬間、剣の先端が煌めいた瞬間、その部分にだけ小さな竜巻が発生しているのが確認できる。
「おい、アイツ怒ってないか?」
「そんなことはどうでもいいのっ!今はラヒムさんの方が先っ!」
「全く・・・責任逃れですかニッキ。貴女っていう人は・・。」
「い・・いえ!私は決してそういう意味じゃなくてですね?!」
しかし、ビットズの激しい憤りに気づいてくれたのはニッキのみであり、その彼女もユエとバックスに諭されると、ビットズの方を見なくなった。
だが、彼をしっかりと彼自身の視界外から見ている者がいた。
「ロノよぉ・・結局一緒に入っちまったなぁ。」
「あぁ・・・そうだな。正面が駄目なら上からだ。」
ビットズのすぐ脇には商業区の建物が立ち並んでいるが、ビットズのすぐ傍らにある建物の2階から、二人の傭兵が窓から密かに顔を出して、彼の様子を伺っている。
ロノと呼ばれた傭兵はラヒムと同じほど身の丈が小さく、その体格には少々不釣合いな長剣を背中に背負っていた。
顔には鉄と皮で出来たマスクをしていて、口と目の部分に穴を開け、その穴から、薄汚れた口と獲物を求める貪欲な目を覗かせている。
そのロノの傍らにいる仲間は、ロノと同じようような身の丈で、手には彼の体格に見合った手頃な大きさの斧が握られている。
ロノの方は最低限の装甲ではあるが、一応革鎧で身を固めているが、この男にはちょっとした胸当て以外、装甲と称せる物は何一つ身に着けていなかった。
「隙を見て、上から田楽刺しだぜ。」
「下の方に弓使う奴がいただろ。あいつらにチャット飛ばして、あの騎士の注意を向けさせることができればいいな。」
「やめろよ。俺たちだけでぶっ殺そうぜ。戦利品と報酬が減っちまう。」
「そうかぁ?念には念を入れたほうが良いと思うんだがなぁ・・・。」
そう男がぼやくが、ロノはそんなことお構いなしに、いつでも飛び出せるように窓辺に足を乗せた。
「だけど・・あんな奴に矢が効くのかしら?」
「大丈夫だって、お前の腕なら簡単に殺れる。」
ラヒム等とは別に、二人組の傭兵がビゼットに対して、弓を構えていた。
痩身の女と、それとは対照的な太った男の二人組で、弓兵が好む動きやすい軽装の装備を着込んでいる。
二人組は傭兵組合の中で、それなりに名の知れた弓の使い手であるが、今晩は白兵戦が多く、己の最も得意とする得物である弓が使えず、面白くなかったのだが、ここに来て自分らの出番だと興奮してきたのだ。
「俺が見る限り、奴はあの変なカマイタチにそんな慣れてねぇ。慣れてるなら最初から俺たちを血祭りにあげる筈だ。」
「なるほどね。」
きっと矢を放つ間隔を空ければ、2本とも防ぐことはできないと二人組は推測した。
「どうやったら気絶状態から復帰できますかね?」
「やっぱり強く殴るのが一番ですよ!バックス殿。」
「やめてください・・。貴女に殴られたらラヒムさん本当にロストしちゃう・・。」
「これは参りましたねぇ。」
しかし、騎士へと注意の向いた傭兵達とは別に、彼らはラヒムがどうすれば気絶状態から復帰できるか悩んでいた。
やはり気付けに何か衝撃を与えるのがちょうどいいのかもしれないが、そう言うのに向いていそうなステータスの者が、彼らにいなかったのだ。
ニッキはどう見ても腕力が強すぎて、ヘタをすればラヒムをロストしかねないし、バックスとユエでは力が弱すぎる。
なら一番ちょうど良さそうなのはギレットということになり、仕方なく彼にお願いして、ラヒムに気付けの一発をしてもらう運びとなった。
もう一人の名も知らぬ傭兵でも良かったのだが、彼は先ほどニッキに首を掴まれて、ラヒムと同じく失神していた。
「ということで、お願いします。」
「何で・・そうなるんだよぉ。つーかこっちの奴は誰だよ?」
「私達が知るわけないでしょう?傭兵のようですし、貴方の知り合いじゃないんですか?」
「いや、傭兵つったって知らない顔だっているさ・・・。」
そうギレットは何でつい先ほど知り合った奴に、気付けをしてやなければならないんだと拒んだが、バックスではなくユエが頼み込むと、手のひらを返して快諾した。
どうやら相当彼女の芸に惚れ込んでいると、バックスはギレットが自分とユエではだいぶ違う、彼の対応を見て思ったが、とりあえず彼がラヒムともう一人名も知らない傭兵の気付けをやってくれるのだから、その点については気にしないことにした。
「それじゃいきますぜ!」
そう言って彼は携えていた槍を傍において、ラヒムの顔を叩いてみた。
だが、どうも力が弱すぎたらしく、彼は気絶状態から回復しない。
仕方ないので、次は少し強めに叩いてみたが、今度は強すぎたのか彼の顔に酷い痣が出来てしまった。
「中々しぶとい奴だ。」
そう彼は憎々しげに呟いて、もう一度ラヒムの顔を叩いた。
だが、その一撃はラヒムを目覚めさせるどころか、トドメの一撃になってしまったらしい。
一瞬ラヒムの体が大きく跳ね上がったと思うと、徐々に体が透けていくではないか。
これは代表的なロストの発生であり、それを見た途端、ユエの顔が真っ青になる。
「・・・・あのぉ?ラヒムさんの体が・・・。」
「気のせいですよ。」
「いえ、でもぉなんか体が・・・。」
「気のせいですって。」
そう慌てるユエにギレットは笑顔で答えるが、どう見たってラヒムにギレットがトドメを刺してしまったようにしか見えない。
そして、ラヒムの体が完全に消え去ると、放心状態になってしまったユエを放っておいて、彼はラヒムの消えた場所に敬礼をしていた。
それを見てニッキが彼を真似して、敬礼をする。
「惜しい人をロストさせてしまったな。」
「あぁ・・・悲しいな。」
きっとラヒムをロストさせてしまった直接的な原因を作ったニッキと、最終的な原因であるギレットは、瞬時のうちに奇妙な仲間意識を抱いたのだろう。
「あなた達がラヒムさんをっ・・・」
「諦めてください!彼はもう死んでしまったんだ!」
「そうだっ!幾ら後悔してもあいつは帰ってこないんだぞ!」
放心状態から覚めたユエが、二人に抗議するが、ニッキとギレットは彼女の抗議を必死にはぐらかしている。
「それよりも今は、この危機的な状況を脱しなくてはいけないんだっ!」
「そうですとも!今は奴を倒さなくては彼の様に私たちもロストしてしまう!」
そう言ってニッキは今まで全然気にしていなかった、騎士の方を指差した。
バックスはその彼等の酷い茶番を見て、上手くはぐらかしたと関心するほどだった。
『薬草組合治療手順』
我々は回復効能のある薬草を扱うため、いざ負傷した仲間に施せる治療法を知っておく必要があります。
その為、この紙は常に携えておいてください。
① まず、負傷したキャラクターの傷口を確認し、出血しているならばそれを止血するように・・・・(中略)
⑩もし、負傷した仲間を回復させることができず、ロストしてしまうような場合。
⑤で記述したように、事前に頼んだ追い剥ぎ組合(汚れ仕事をしてくれる親切な友人でも可)を呼んで、患者にトドメを刺してもらいましょう。
そして、話を上手くはぐらかして、決して組合の責任にならないようにしてください。




