98話 バストロク炎上⑧
「でしゃばるんじゃぁねぇ!デカ女!お前だけの手柄にはさせねぇぞ!」
「なんだとっ!?このデブ引っ込んでろ!」
「言ったな、てめぇ!」
「ニッキやめろって!」
「・・いや待て、さっき矢を放っても巻き上げられたってことは飛び道具は効かないのか?」
「そうかもね。」
「うおおっ!頭叩き割って本部に叩きつけてやるぜぇ!」
「ロノよぉ・・正面は駄目っぽいから、お前横の建物から行けや。」
「上ぇ?あぁ・・承知。」
風を扱う鳳凰騎士団のビットズを前にして、傭兵達とラヒム達は言いたい放題やっている。
どう奴を料理するかまともに話している傭兵もいたが、大半は誰が倒すのか、倒した後報酬は誰がもらうのかと口々に喚きあっている。
なんとも見苦しい光景であるが、傭兵達にとっては奇妙ながらも、これが日常のやりとりと言えた。
「・・・おい?」
「わかった!わかったから!皆で殺そうな?なっ?報酬は後で決めればいいから・・・。」
「うるせぇ!そうやって変に仲介役やる奴が俺は一番気に入らないんだっ!」
「やっぱよぉ。あれはふつうじゃねぇ。上の方から聞いたが、あれはやっぱりチートの類じゃねぇかな?」
「チート?あぁクリフが言ってた?」
「ロノよぉ・・・早く行けや、建物の2階だよ。」
「俺嫌だよ。屋内燃えてるし、危ないじゃねぇか。」
先ほどまで静かな顔で傭兵連中を見つめていたビットズは彼らが自分に向かいもせず、どうでもいい話に花を咲かせているので、なんだかいらいらしてきた。
できる限り自分は冷静なキャラだと常に思っているが、このような異様な光景に出くわしたことなどなかった。
「なぁ・・・君たち?」
「やめて!ニッキさん!ラヒムさんに乱暴しないで!」
「そうだ!誰だか知らないが、喧嘩はよくねぇよ。」
「うるせぇ!さっきこのチビ俺のことネカマって言いやがった!」
「だって本当のことだろ!!痛っ・・・やめろ!腹はやめろ!」
「あのデカ女、ネカマだったのかぁ」
「あんたもそれでしょ?」
「ロノぉ・・わかった。俺もついてくから、文句言うなよぉ」
「せっかく装備買い直したのに、またボロボロになるのは嫌だなぁ俺。」
先ほどまで下郎と罵ったのだが、ビットズはできる限り丁寧に、彼らに呼びかけた。
色々と考えて格好良く登場したつもりだったのに、こうも蚊帳の外に置かれるのは良い気分がしない。
「あのぉ・・・頼むからこっち向いて貰えますか?」
「喰らえっあと2回ロストさせてやるっ!」
「だから腹はやめろって、死んじゃう。俺本当に死んじゃう・・・。」
「ラヒムさんっ!?」
「頼むから仲間割れは良くないって、な?敵倒す前に味方ロストさせてどうするんだよっ!」
「すごいなぁ・・今のは痛いぞ。」
「ボロ雑巾みたいね。」
「ロノぉ・・どうだぁ中ぁ?」
「熱い!マジで熱いぞっ!」
やりたい放題である。
炎上する商業地区内に足を踏み入れた卵とししゃもは、倒された騎士と傭兵の死骸を踏み分けながら、ラヒム達を探していた。
先ほどまで連絡が取れたのだが、何故だか、ついさっきからこちらのチャット文に全く返信が返ってこなくなった。
何か面倒事でも起きたのかと、二人は心配しながら一刻でも早く彼らと合流しようと歩いていくが、まさかラヒム達が味方同士での喧嘩の真っ最中とは二人は露ほどにも予想できなかった。
「一体あいつら何やってんだろうな。」
「さぁ・・・。・・まさか、例のチート関係に出くわしたんじゃないのか?」
「あぁ!そういうことかっ!じゃぁ急がないとな。」
「おうっ!」
そう二人は話し合うと、騎士の死骸をはぎ取っている場合ではないと思い。
装備の音をやかましく立てながら、彼らがいるであろう場所へ急いだ。
きっとリビが宿場街にいると言うことは既に見当がついていたし、ラヒムは先ほど二人に宿場街の方へ向かうとチャットを寄越していた。
宿場街は人を待つのにとても適している場所だ。
酒場や宿が立ち並び、旅人達はそこで待ち合わせをする場合が多い。
商業地区でもできなくはないが、普段ならこの区は人だかりが多く、それどころではない。
「どんなチートを使うのかはわからないが、ラヒム達で相手しきれる訳がないよな。」
「・・・だからって俺ら二人くわわっても相手できるのかね。」
「まぁ・・なんとかなるだろ。田中がいうには俺らには巫女の加護があるらしいからな。」
「信用できるのか?あんな戯言・・・。」
「何もないよりはマシだ。」
そう話し合いながら、二人は炎上する路上を駆けていく。
卵にとってラヒムが無事かということは心底どうでも良く、問題は依頼対象であるユエである。
そして、その意識はししゃもも同様だった。
「お前等ぁっ?!いいからこっち向けよぉ!」
既にビットズは冷静さを失い。
必死にこっちの存在に気づいてもらおうと必死になっている。
だが、それでも傭兵連中はまったくこちらに意識を向けてくれない。
「あぁっ?!ラヒムさん!返事してくださいっ!」
「駄目だ・・気絶してやがる。」
「・・・ちょっとやりすぎた。」
「これはひどい。」
「あれはもう再起不能ね。」
「ロノぉやっぱ頭数が少ないからよ。もうちょっと仲間呼んでこいよ。」
「お前、建物にはいってから言うんじゃねぇよ・・・。」
ニッキに強烈な殴打を加えられたラヒムは、必死に呼びかけるユエの健闘空しく、体を痙攣させ横たわり、その横で、全く関係ないのだがラヒムを心配そうに見る、メイスを携えた傭兵が突っ立っている。
そして、その横で少し罪悪感に苛まれるニッキが立っていて、そんな光景を遠目で眺める二人組の傭兵がどうしたものかと相談している。
傭兵達の死体が大量に転がっているというのに、緊張感が彼らには全くなかった。
「おい!お前等!茶番をやめろ!」
「うるせえっ!!今この名も知らない男が危ないんだ!引っ込んでろっ!」
ビットズが声を張り上げて彼らに怒鳴るが、それに対して名も知らぬ傭兵が彼よりも強い剣幕で怒鳴り返すと、ビゼットは黙り込んでしまった。
一体自分の存在意義とは何なのかと、ビゼットは頭が痛くなってきた。
「ニッキ何をやっているんですか?!」
「あっ・・・バックス殿。こ・・これはですねぇ・・不可抗力といいますか・・。」
「お前等何がしたいんだよ・・・。」
しかも、その茶番の間に後ろからバックスとギレットの二人が加わり、茶番はより一層激しくなる。
「不可抗力?ラヒムが泡を噴くまで殴るのが、不可抗力って言うんですか?」
「あ~・・・だってこいつ、あたしの事ネカマって言うもんだから、つい・・。」
「ニッキ、ネカマだったんですか?」
「それの何が悪いって言うんですか、バックス殿。」
「まぁ確かに、女とは思えないな。」
「なんだと!てめぇ!」
今度は不用意な発言をしてしまった名も知らない傭兵が、ニッキに首根っこを掴まれた。
名も知らない傭兵は必死に彼女の手から抜け出そうと、得物を振り回すが、怪力の前には空しい足掻きだった。
「お前等ぁっ!!いい加減にしろよ!」
ここでビットズが我慢の限界となり、怒声を発し、剣を振りあげた。
「・・誰です?あれは?」
「しらねぇ・・それより今はあのデカ女を静めないと・・。」
「そうですね。怒りの矛先がこっちまで向かったら危ないですものね。」
「バックスさん助けて!ラヒムが息してない!」
ビットズはもう泣きたくなってきた。




