97話 バストロク炎上⑦
傭兵とラヒム等がそう騒がしく商業地区を彷徨いているうちに、騎士共は自然と傭兵に倒されながら数を減らし、そろそろ商業地区と宿場街へ繋がる門が安全に通過できそうだとギレットが5人に告げ、集団から抜けて、5人は宿場街へ続く門へと歩みだした。
「あれを抜ければ姉さんを探すことができますぜ。」
そうギレットがユエに話しかけ、彼女はそう彼に言われて、思い出したかのように頷いた。
先ほどまでバックスに注意されはしたものの、ラヒムとニッキと共に、傭兵達が倒した騎士の戦利品のおこぼれを漁るのに夢中になっていたのだ。
きっと本来の目的をしっかり記憶していたのはバックスだけであろう。
「商業区ではリビさんを見つけることはできませんでしたね。」
「えっ・・えぇ・・やっぱり姉さんは宿場街のほうに・・。」
そうバックスが確かめるように言ったので、その言葉でラヒムとニッキの方も本来の目的を思い出したようだった。
「おい、ニッキ。お前ちゃんと、リビさんを探したか?ずっと獲物を剥ぐのに夢中だったろ。」
「お前こそ連中の足下ウロチョロしながら、漁ってたじゃないか、今更真面目なこと言うんじゃないよ。」
我ながら情けないと、画面越しに小林は思ったが、その情けなさをニッキに擦り付けようとしたが、上手くいかなかった。
現に彼女の言うとおり、ラヒムの腰にあるポーチの中は騎士の死体から盗んだ通貨で一杯になっていた。
「二人ともやめなさい。・・全く見苦しい人達です。」
そうバックスが責任を擦り付けあう二人をみて、溜息混じりにしかると、二人は申し訳なさそうにうなだれた。
「まぁ、気持ちは分からなくはないですが、場は弁えてくださいよ。」
そう言って彼は宿場街へ繋がる門へとさっさと行くように3人を促す。
そんな光景を見ながら、ギレットはまるで遠足の際の引率の先生のようにバックスが見えたが、彼の羽織っているローブの隙間から、先ほどまで無かったはずの銀貨袋がぶら下がっているのを見て、こいつもあの3人と同類だと察した。
そして、5人が商業地区を抜けようと、傭兵の集団から幾らか離れて、門をくぐろうとしたとき、彼らの後方から、風が吹くような音が聞こえた。
先ほどまで炎上する市内をさまよっていた時は、一度も風の音など聞かなかったのに、急にどうしたのだろうと、5人が振り向いた瞬間、彼らの足下に一人の傭兵の体が転がってきた。
先ほどニッキのことを化け物だと呟いていた者だった。
ギレットが彼に何があったのか聞こうとしたが、その転がってきた傭兵はすでに事切れていた。
彼の死体は全身無惨に切り刻まれていて、装甲は薄いものの、無いよりはマシという程度に着込んでいた皮鎧は、その見る影もなくぼろ切れ同然の状態になっていた。
「・・なんだよ、これ。」
5人は先ほど抜けた傭兵の集団の方へ目を向けた。
つい数秒前まで、50人ばかりの集まりだった集団はその数を半数以下に間で減らし、何かと対峙していた。
「まだ残っていやがったか!」
そうニッキの奴が威勢をあげて、バックスの制止も聞かず、先ほどの集団の方へと駆けだした。
「おい・・・、あぁ~・・行っちゃったよ・・・・仕方ねぇなぁっ!」
そうさも仕方なさそうに叫んで、ラヒムがニッキを追って駆け出す。
バックスはそれを止めようとしたが、彼の手よりも遙かにラヒムの方が素早く、彼は一目散にその集団へ飛び込んでいく。
仕方がないのでユエだけでも、保護しようと彼女に話しかけようとしたが、その保護対象であるユエ自身はとっくにらラヒムについていってしまい、いなかった。
「・・・あいつらは一体なんなんだよ?」
「こっちが聞きたいぐらいです・・。」
そう3人の行動に呆れかえるバックスの横で、ギレットが溜息混じりに言った。
それに対して、バックスは乾いた笑いを顔に浮かべることしかできなかった。
「さっきの奴も十分イカレていたが、こいつには負けるな。」
「おかしいだろ・・一瞬で半数やられちまったぞ・・・。」
「・・・逃げよう、とてもじゃねぇが相手できねぇ・」
「駄目だ。ログアウトする前にお陀仏だ。」
何かと対峙している傭兵連中は口々に囁きあいながら、得物を構えてその何かを睨んでいた。
彼らは最初風が吹いたのを感じた。
風と言うよりは暴風と言った方が正しい音だ。
その風が吹いた瞬間、後ろにいた仲間が吹っ飛んだ。
とてもじゃないが、風で吹き飛ぶような重さの装備ではなく、騎士共から奪い取った甲冑を着込んだ仲間だった。
そして、彼らの後方から吹き飛んだその仲間は空中にて、何かに切り刻まれるようにばらばらとなって、傭兵集団の中へばらまかれた。
それを見た途端、傭兵達は狂乱したような声を出して、その風が吹いた方向へ目を凝らした。
風で吹き飛ばされた仲間の死骸の中に、一人だけ無傷の何かが立っている。
それを見て今の暴風を引き起こしたのは奴であるとすぐわかった。
そして、傭兵達が奴を敵だと認識するのにそう時間はかからなかった。
何人かが仲間を無惨にロストさせられたのに腹を立てて得物を構えて突進していったが、奴が手に携えた細身の剣で軽く宙を凪ぐと、再び周囲に暴風が発生し、突進していった傭兵達を宙に舞わせ、そして無惨に斬り裂いた。
「カマイタチだ。」
生き残った集団の中で誰かが声を張り上げた。
「魔術か?」
「馬鹿言え、詠唱が早すぎる・・・。」
そう集団の前方で奴と対峙している二人の傭兵が言い合い、そして、その二人も次の瞬間宙を舞い、切り刻まれ片方が空高く舞い上がり、ラヒム達の方へ飛んでいった。
その何かは先ほどまで炎上する建物の炎の陰でよく見えなかったが、その陰から奴が一歩前へ歩むと、炎に照らされてその姿が確認できた。
奴は細身の体に、翼の彫刻が施された甲冑を身に付けていた。
飾りの多い甲冑のせいで、奴がすぐ騎士であるとわかる。
甲は被っておらず、炎の色によく似た色をした髪をたなびかせ、大きい瞳を傭兵達へ向けている。
表情に怒りや憎しみの色はなく、ただ静かに見つめている。
「鳳凰騎士団副団長。疾風のビットズ、下郎共覚悟しろ。」
そうビットズと名乗った騎士は、傭兵達を静かに見つめながら、落ち着き払いつつ名乗りを上げた。
そして、ビットズが名乗った瞬間、挨拶代わりに前方にいた傭兵の一人が、矢をつがえて、素早く騎士に向けて矢を放ったが、矢は騎士の体に到達する手前で、風に巻き上げられた。
「やはり傭兵共に名乗りは無用か。」
そう巻き上げられた矢が虚しく、路上に落ちるのを見て、ビットズは剣を下段に構え、静かに傭兵達へと歩いてくる。
「なんなんだ。アイツは・・・。」
「やべぇよ・・騎士団連中だ。てっきり雑魚だけだと思ってたのによ・・・。」
傭兵達はほとんど浮き足だって、戦意はほぼ消え失せている。
仲間がああも無惨に一瞬で葬られたのだ。
それは無理もないことであり、撤退するには十二分な理由になる。
だが、仲間が無惨に葬り去られようとも、得物を依然ビットズへ向けて、一歩も引き下がろうとしない傭兵達がまだ数人ほどいた。
彼らの頭の中に恐れというものは露ほども無い。
あるのはあんな手強い奴を倒すことができれば、どれだけの報酬や戦利品が手にはいるかの期待や、単純に戦闘興奮を満たすのに十二分な好敵手が現れたと喜ぶ者だ。
「すげぇ、間違いなく魔法の付与された剣だぜ。」
「売ればしばらく金に困らないな。」
「誰か本部の方へ連絡しろよ。ロストさせれば報酬金上乗せだぜ。」
「こういうのを待ってたんだよぉ!俺はよぉ!!」
「胴体は駄目だな。頭だ。次は頭狙え。」
「わかった。次は外さないわ。」
そう口々に喋りあい、威勢を上げている。
これには騎士の方も面を食らった。
自分の力を見せつければ、所詮傭兵など蜘蛛の子を散らすように逃げていくと思っていたのだ。
だが、実際はどうだろう。
連中は自分の力を見せつけても、怯むどころか盛り上がっているではないか、騎士はそれを見て、狂気じみたものを連中から逆に感じた。
そして、その狂気じみた連中に新たに3人後方から駆けつけてきた。
「どけどけ。俺がぶっ殺してやる!」
「ニッキ!駄目だぞ。・・・俺にも殺らせろ。戦利品は分配だ。」
「私も欲しいですっ。」
騎士の強さよりも、その装備や報酬に目の眩んだラヒムとニッキとユエの3人だった。
ビットズはそれを見て、相手を間違えてしまったと、静かな表情をしながらも内心ひどく焦った。
「このゲームの連中は皆身勝手なんだよ。本当に困るぜ。」
追い剥ぎ組合所属 ガンヅ




