96話 バストロク炎上⑥
商業地区を歩くラヒム等は何度も傭兵と騎士との戦闘を目にした。
その度、ユエを守りながら傭兵側に加勢しようかと思ったが、どの戦闘も最終的には傭兵が騎士をロストさせていた。
元から傭兵連中の方が数が多いらしく、正直言って戦闘と言うよりは、リンチと言ったほうが正しいような形だった。
それに先ほど門の方で戦っていた傭兵連中は、自分が相手をしていた騎士を倒すと、すぐに他の傭兵連中の加勢に回るため、いつの間にかラヒム等の周りには二・三十人程の傭兵の集団となって一緒に動いていた。
ラヒム等が傭兵連中には自分らの増援だと思ったらしく、彼らが商業地区を歩き回っているうちに自然とついてきた。
本来は商業地区を抜けて、宿場街の方へラヒム等は向かうはずだったのだが、騎士がまだウヨウヨしているらしく、5人のみで商業地区を突破するのは少々無謀だと思い、傭兵達と共に商業地区の騎士共の殲滅に参加した。
「もう20ばかし殺ったよな。一体どんぐらいいるんだよ、連中。」
「知らねぇよそんなこと、だが、数が多ければ儲けも多いんだからよ。」
「それもそうだが、殺しても俺達の数が多すぎて、全然分け前が回ってこねぇぞ。」
「文句言うなよ。てめぇやりあってる最中ずっと後ろにいただろうがよ。」
ラヒム等の周りで傭兵達は口々に手柄話や、仕留めた騎士共の装備の話をしている。
その集団の中央あたりにいるラヒムは、いつ自分の事がばれてもおかしくないと、肝を冷やすが、傭兵連中は騎士の事で頭がいっぱいのようで、小さい身なりの彼を気にする者など、一人もいなかった。
「さっきの鎧は惜しかったな。潰すんじゃなかった。」
「あぁ、結構な価値があったぜ。」
「なんだよ。俺のせいかよ、仕方なかったろ。降伏勧めてやっても、斬りかかってきたんだからよ。」
「どっちにしてもロストさせるつもりだったくせに、よく言うぜ。」
そう集団の中で数人話すと、周りの連中が愉快そうに笑う。
それをラヒムは眺めていると、まるで戦闘をしているのではなく軽い遠足をしているような気分になった。
こんな奇妙な感覚をつい前まで味わえたのに、惜しいことをしたと少しだけ悔やんだ。
「・・・・ラヒムさん?」
「はい?・・どうしました?」
「あぁ・・いえ、何か神妙な顔をしているので、どうしたのかなって・・」
「え?あ・・あぁ。何でもないです。大丈夫ですよ」
そうラヒムの後ろから、ユエが声をかけた。
不意に声をかけられたので、少し驚いてラヒムが振り返ると、彼女は心配そうに彼を見つめていた。
本来ならユエの方が、この集団において狼狽えるはずなのだが、彼女はこの数日のあいだに粗野なキャラに慣れきってしまったようだ。
いや、元から旅芸人なのだから、以前から慣れているのかもしれない。
しかし、どちらにしろ己と同じ身の丈の彼女が、至って平然としている様子を見ると、自分もしっかりしなくてはいけない気にさせられた。
「早くこの場を切り抜けて、リビさんを探しましょう。」
「はいっ!」
そうできる限り、ラヒムが強く言うと、彼女はそれに強く応えた。
しかし、それを傍らで見ていたニッキは顔を下衆な笑顔で歪ませて、仲が良いねと茶化してくる。
それを聞くと、先程まで平静だったユエの表情が少し赤くなった。
中々思わせぶりな仕草をすると、ラヒムは冷静に思った。
こういう様なあからさまな仕草をされると、ユエのプレイヤーが意図的にラヒムの反応を見て面白がっている様な気もするが、いちいち疑っても仕方ないとラヒムは思い直した。
「死体ばっかだな。全然消えねぇぞ、こいつら。」
「多すぎて処理が追いつかないんだろ。」
「そのおかげで死んだふりのやつに何人出くわしたよ。」
「そうさなぁ・・さっきので4人目じゃないか?」
商業区に入った卵とシシャモは、騎士と少なからずある傭兵の死骸が、転がる路上を歩いていた。
傭兵の死体は、比較的装備を着込んだままの手付かずの状態で放置されていたのだが、騎士の方は装備を全て奪われ、酷い場合は下着まで奪われていた。
風紀的に酷い光景ではあるが、このゲームにその言葉が適用されることは滅多に無いと言える。
周りの建物は火に包まれ、近づくのは危険なのだが、今更そんなこと気にする二人でもなく、呑気に並んで歩いていた。
「多すぎるよなぁ・・別に装備がある奴ならまだマシだが、さっきは全裸に近いやつが襲ってきたのはビクったよな。」
「不用意に卵が近づくからだろ。何で鎧も着込んでない様な奴の死体に近づいたんだよ。」
「面白い顔してたんだよ。」
「だからって近づくなよ。」
そうシシャモが半ば呆れながら、槍を構えながら歩く。
卵はその横で先ほど撃ったばかりのクロスボウに矢を装填しながら歩いていると、剥ぎ取った装備品が体中から音を立てる。
初めに奪った装飾の施された鞘と、これもまた派手な装飾の盾が卵の背中と腰に光り、異様な輝きを放っている。
あとは甲冑の胴と甲で、これは紐で縛り付けて背中に背負ってある。
「しかし、追い剥ぎってのは皆そうなのか?」
「何がだ?」
「ガチャガチャ音立てやがって・・・鬱陶しくて仕方ねぇ。」
「いいじゃねぇか。売れたら分け前やるからよ。」
至って呑気に卵は呟き、それに対してシシャモはこれ以上、コイツに何を言っても無駄だと思った。
一体どこで彼がその戦利品を売却するのか、見当もつかなかった。
炎上する市街を50人程に膨れ上がってしまった集団が歩いている。
歴戦の傭兵達なのであろう、彼等の体には腕利きの印でもあるかのように、屠られた騎士達の装備が身につけられている。
騎士から奪った篭手をまるで首でも討ち取ったかのように、槍の穂先に吊り下げている者や、複数の甲を腰に巻きつけている者までいる。
その中において一人だけ特に集団の中において、目立つ者がいた。
そいつは騎士の篭手や具足などを腰中に巻きつけ、とても満足そうに集団の中央に立っている。
「・・すげぇな。もう何人殺ったんだ、アイツ。」
「わからねぇ・・一人で5・6人は片付けたんじゃねぇのか?さっきお零れ貰おうと思って、加勢しようとしたら殴られた。」
「化物だな。ありゃぁ・・・」
「あぁ・・さっき殴られて腕の骨が折れた。」
その特に集団の中で目立つ者を遠巻きで眺めながら、傭兵たちは囁きあっている。
先ほど傭兵集団に騎士が20人ほどまとまって掛かってきたのだが、その4分の1をその目立つ者があっという間に片付けてしまったのだ。
しかも、襲い来る騎士を素手で仕留めたのだ。
このゲームにおいてそのような芸当など、中々できるものではなく、その者は傭兵たちに畏怖の眼差しを向けられている。
「・・・なぁ。何でお前そんなにぶら下げてるんだ?」
「なんかいいじゃん。強そうでさ、皆やってるじゃないか。」
「いやぁ確かにそうだが・・、多すぎないか?」
「そんなことないよ。」
ラヒムは少し不安そうな声音で、ニッキに言った。
彼女はまるで戦場で名を挙げたような、武士のような状態になっている。
しかし、ラヒムとしてはニッキに傭兵達の目が行くことで、近くにいる自分の存在がバレるのではないかと、また不安になってきた。
『戦利品はできる限り身近に置け、置けなかったら肌身離さず持っておけよ。』
~追い剥ぎ組合所属 ブラシッド




