94話 バストロク炎上④
ラヒム等5人がバストロク市内に乗り込んだ際、彼らを待ち受けている光景はまさに地獄絵図と言えた。
そんな光景の間を5人は歩いているが、流石に場馴れしたユエでも恐ろしかったらしい。
先程からラヒムとギレットの後ろに隠れている。
ラヒムとしてはギレットに顔がバレるかもしれないと思うと恐ろしかったが、変にユエから離れてうっかり彼女から名前でも呼ばれたらオシマイだと思い、先程から彼女の傍にいる。
だが、彼の心配は余所にギレットと言う男は荒っぽい外見の割には中々親切な男で、街路を歩く際ユエを庇うように槍を常に真っ直ぐに構え、先導をしてくれる。
そんな風に歩いていると、彼の目に映る景色に血みどろの路上は異様に映った。
ラヒムはバストロクの様な都市に滅多に訪れることはなかったが、それでも数少ない記憶の中に、賑やかな路上の風景がある。
だが、今はそれとは真逆の光景が、眼前に広がっている。
複数の得物に突き刺さられ、豪華な甲冑を血で濡らし、路上に突っ伏す騎士の死体がチラホラと見え、その間に傭兵共の死体が転がっている。
若干傭兵の死体の方が多いように見え、市街戦はどうやら傭兵組合の劣勢だということが見て分かる。
死体はあちらこちらに転がっているが中々消滅していない。
すぐに転生することも可能だが、多方転生する地点をバストロクの市内にしてあるのだろう。
運が悪ければ転生地点にて敵と鉢合わせだ。
きっと大半の傭兵連中は、ロストしても転生するのを躊躇っているに違いない。それは騎士連中も一緒だろうが、この騒動を起こしたからには負けるわけにも行かず、転生に躊躇いなど無いのだろう。
5人の先頭はギレットとバックスだった。
既にここは戦闘区であり、5人とも得物を手に握りしめている。
いつ何処からでも襲われてもいいように、左方にはニッキが立ち、右方にラヒムが立っている。
その中央にユエが小さな二本の腕で、鎌を握りしめている。
「きっと嬢ちゃんの姉さんは、宿場街にいるはずだ。あそこは旅人が多いからよ・・・。他には商業区だがぁ・・あそこの連中は全滅だ。」
「市内で暴れている連中は手強いのですか?」
「あぁ、出来れば関わりあいになりたくないね。数も多いし、よく統率が取れてる。それで装備も良いからな。」
「騎士ですからね。我々とは違うでしょう。」
そうギレットの傍らでバックスは少し自嘲気味に言った。
以前は番犬騎士団に所属していたこともあり、騎士の装備がどの様な物かもよく知っていた。
傭兵連中とは比べ物にならない。
剣一つ取ってみてもそうだ。
まず騎士連中の剣と言えば、それこそ専属の鍛冶組合に報酬を払い、一本一本特注で制作してもらう。
切れ味などの他に、騎士は剣の造形にも気を遣う。
番犬騎士の頃は腰に地獄の番犬であるケルベロスを模した彫刻を施していたが、現在のバックスの腰に差してある長剣は酷く素っ気無かった。
この様な長剣でも、まだ傭兵連中と比べればまだマシだ。
連中が装備している得物はどれもこれも大量生産のガラクタの集まりだ。
今横に歩いているギレットの槍もその例に漏れず、近くで見ればわかるが、槍の穂先には所々刃こぼれが見え、錆も確認できる。
彼の場合は得物に頼らず、己の実力でなんとかするのだろうが、装備も良く腕も良い騎士と殺りあう事になったら厄介だろう。
だがそれは今の貧相な装備の自分も同じだと、バックスの自嘲は少々不安げなものだった。
「バストロクってのは商業区と移住区にしっかり分かれてんだよ・・連中が暴れだしたのは、4時間ほど前だけどな。商業区でどうやって集まってきたかは知らねぇが魔法だな・・ありゃぁ。」
「騎士に魔導関係に卓越した者が?」
「あぁ。でねぇとあんな大量に都市に送り込めるはずがねぇ。門は衛兵共がしっかり守ってるからよ・・。まぁ門守るしか能の無い野郎共だったがぁ・・」
「じゃあ・・門の衛兵はどうしたんです?」
「皆ロストしたよ。おっかなくて戻ってこねぇ」
槍を構え、先頭を歩くギレットは吐き捨てるように言うが、おかげで俺らが儲かると最後は笑いながら付け足した。
「騎士一人ロストさせれば結構金が入るように、上から連絡があったからよ・・・皆躍起になって中に入って行ったんだがぁ、こうして見てみりゃぁ上の方は騎士とグルかもしれねぇよなぁ。」
「そうなんですか?」
「だってよぉ・・・つい昨日に上から連絡が入ったんだぜぇ。」
「それはまた・・・」
先頭の二人は会話に夢中なのか、路上に転がっている傭兵や騎士の死体を蹴り飛ばして進んでいく。
ギレットの話では、雑兵でも騎士であればそれなりの報酬が入るらしい。
その詳しい報酬額を聞くと、ユエの件よりは安いものの、5人程ロストさせれば軽く彼女の護衛依頼の報酬を上回る。
果たして、自分が組合に所属していた頃はそんな高額報酬を払われたことがあっただろうか。
凶悪な山賊連中を狩っても騎士一人の額には届かない。
頭相当を5人殺っても足りないだろう。
それだけギレットの言う報酬は、破格と言ってもいいぐらいだ。
「おう、この先が商業区だ。商業区はまだ騎士がうようよしているからな。だがぁ宿場街に行くには商業区抜けねぇといけねぇからよ・・・。5人もいりゃぁ騎士の2・3人程殺れるだろうがぁ今はそれどころじゃねぇな。」
ふとそうラヒムが頭の中で、ユエをほとんどそっちのけで算段していると、ギレットは商業区へと繋がる門の前で少し立ち止まった。
入るかどうかの同意を求めているらしい。
本人としてはとても入りたいのか、槍を携える手は興奮に震えている。
先ほどのユエに親切なギレットはどこに行ったのか、危険な区へ一刻も早く入りたいようだ。
本当のところは適当に理由をつけて、門から騎士連中がいる商業区に飛んで行きたかったのだろう。
傭兵にも様々な奴がいるが、彼の場合金に五月蝿いタイプなのだろうと、ラヒムは思った。
そして、今更引くわけにもいかないと、4人は頷いて門をくぐった。
『あいつの首とお前の首・・・お前の方が高いな。』
傭兵組合所属 守銭奴のギャンド




