93話 バストロク炎上③
ここで己の顔を知られて一悶着起きてしまったら不味いと、ラヒムはニッキの後ろに隠れながら、ギレットの様子を見た。
どうやらこちらの存在には気づいてないらしく、彼の目にはニッキとバックスの二名しか写っていないらしい。
保護対象であるユエはラヒムの後ろに隠れていた。
「そんなこと言わずにお願いしますよ。」
そう二人を睨みつけるギレットに、バックスがゆっくりと歩み寄る。
彼が近づいた途端、直様ギレットの槍が彼の喉元に宛てがわれたが、バックスは至って涼しい顔で何かを彼に差し出した。
「これで・・どうにかなりませんか?」
「・・・もう少し寄越せ。」
「えぇいいですとも。」
「すまねぇな・・・・入りな。地獄でも見て来い。」
彼がギレットと二言三言言葉を交わすと、彼はあっさり槍を下ろし、4人を中に入れてくれた。
ラヒムにはよく見えなかったが、どうやらバックスの奴は賄賂でも渡したらしい。歴戦の傭兵でも金には勝てない。
勿論自分もだとラヒムは少し自嘲気味に、ニッキの後ろに隠れながら、門を潜ろうとした。
「・・・おい。」
潜ろうとした瞬間、急にギレットが4人を呼び止めた。
ラヒムはギョッとして立ち止まる。
ニッキの影に隠れていたはずだが、彼に自分の存在がバレてしまったのだろうか。
「そこのデカイ奴の後ろの・・・お前。」
槍を携え、ギレットがこちらに近づいてくる。
彼が近づくにつれラヒムの心臓の鼓動が激しく鳴る。
もし、自分のことがバレてしまえば門にてあの槍の使い手であるギレットと戦う羽目になるかもしれない。
そう思うとラヒムの手は自然と短剣に伸びた。
果たしてリーチの長い槍に対して、如何に短剣で立ち向かうかどうかなどラヒムの頭に思いつかない。
そんな脂汗を滾らせるラヒムの耳に聞こえたのは、意外と明るいギレットの声だった。
「あぁ!やっぱりそうだ!旅芸人の!」
「ふぇ?」
「いやぁ。覚えてねぇのも無理はねぇ。なんせアンタがここに来たのは半年近く前だからなぁ。」
ギレットが声をかけたのは、ラヒムの後ろにいたユエであった。
彼女はきょとんとして、ギレットを眺めるが、彼はさも嬉しそうに彼女に近づき、軽く会釈をした。
「あの時のアンタの軽業は今でも覚えてるぜ!・・・あぁするってぇと都市内にいるってのはあんたの芸人仲間かい?」
「え?・・えぇ。姉が中に・・」
「そりゃぁいけねぇ!アンタの芸は仲間内でも評判が良かったんだ。・・・よし!俺にも手伝わせてくれねぇか!?え?」
いやに調子よくギレットは槍を引っさげ4人に同行すると言い出した。
自分の事がバレてないと分かり、ラヒムは安堵したが、妙な奴がまた急に増えてしまったと内心複雑だった。
彼のような槍の使い手が戦力になるのはとても心強い。
きっと都市内では多くの騎士共がいるだろう。
しかも、場合によっては傭兵連中とも刃を交えることにもなる。
とりあえず自分の事がバレないようにと、ラヒムはまた胸に不安で満たしながら、今度はバックスの影に隠れて、できる限りギレットの視界の外にいることに務めることにした。
「えぇ構いませんが・・一人でも多い方が助かります。」
「ありがてぇ。しかし・・この娘は芸人だって分かるがぁあんた等は一体何だい?」
「あぁ彼女に雇われた護衛の者です。」
「そうかい。・・・あぁなんか知ってる顔に似てる奴居たもんでよぉ。」
そう言ってギレットは頭を恥ずかしそうに掻いて、てっきり騎士の回し者だと思ってしまい申し訳ないと詫びた。
ラヒムの頭は始終、彼の存在にその晩、悩ませられることになる。
卵が姿を現したのは馬車の中だった。
とっくにラヒム等はバストロクの方へ飛び出して行ってしまっていたので、一瞬何故目の前に炎上するバストロクがあるのか、疑問に思ったが、すぐに昼間に話していた騎士の動向についてを思いだし、あぁこの事かと卵は納得した。
そう納得すると、次に卵は専用チャットをラヒム飛ばし、今どこにいるのかを確認する。
全体チャットや周囲チャットの欄は、阿鼻叫喚の渦に飲み込まれていたが、そんな混乱の中でも専用チャットは確実にラヒムの元へ届いたらしく、発信してから数分後に返信が返ってきた。
しかし、ラヒムのチャット文を見て、卵は顔をしかめた。
彼の文はとても簡潔で分かりやすかったが、その内容を見るに、どうやらまた連れが一人増えたらしい。
「・・・何でまた一人増えてるんだよ。」
「その場の成り行きと言うか・・・なんというか・・・。」
「俺はこれ以上報酬を分割するのは嫌だぞ。」
「あぁそこは大丈夫です。彼はボランティアの様なものですから、報酬などはいらないそうで・・・」
そうラヒムは返してきたが、卵はイマイチ状況が飲み込めない。
先ほどの彼の文から、リビがバストロク内にログインしていて、危ない状況なので救出に向かうのだということまではちゃんと理解できたが、何故そこでもう一人連れが増えるのか。
しかも、文を読むに傭兵だと書いてあるではないか。
あれほど傭兵と関わると面倒事が起こるラヒムに、何故傭兵がついてくるのか。
卵は何度か頭を悩ましたが、これは彼等の所へ行って、直接見に行ったほうが早いと、腰にピックを挿し直し、手には先日の村にて購入したクロスボウを携え、馬車から下りようとした。
「待てよ。おい。」
しかし、そう卵が場車を下りようとした時、少しくぐもった声が聞こえ、肩を後ろから誰かに掴まれた。一体誰だろうかと振り向くと、荷台の置くにシシャモが立っていた。
槍を携えている点は先日と変わらないが、ほかの点は全て違っていた。
思わず卵が息を飲んで、シシャモの姿を見やる。
まず先日まで彼は薄い緑色をした革鎧を着込んでいたはずだが、その革鎧の変わりに、何やら鱗の様な小札を全身に身に付けた甲冑を着込んでいた。
馬車の荷台は本来幌に覆われていて、少々暗く見えにくいのだが、今はバストロクから燃える炎が彼の姿を照らしている。
その灯りに照らされ、彼が奇妙な甲を被っているのもわかった。
それは魚人の頭部を模したような、酷く醜いものであったが、卵にはそれがとても懐かしく感じられ、その鎧兜に魅せられ棒立ちとなった。
「お前。それ何処から・・・?」
「巫女から貰ったのさ」
彼はそう軽く返すと、甲冑を着込んでいるというのに、卵の脇を素早くすり抜けて、馬車から飛び降りた。
卵も慌てて彼に続いて、場車を下りる。
異様な甲冑を着込んだ二人を、燃え上がるバストロクがまるで歓迎するかのように照らしている。
『旅は道連れ世は情け・・・・情緒あふれるゲームだよ。これは本当に・・』
~案内組合員 リファ




