82話 二人きり⑦
「まぁなんだ・・。仲介屋だよ。」
しばらくすると、男の方が折れて話し出してくれた。
『仲介屋』というのはこのゲームにおいて様々な役割を持つ連中を指す言葉であり、ゴロツキ共に良い依頼話を仲介して持ってくる奴らのことである。
時には暗殺依頼などの仲介をする場合は目標の現在地を正確に刺客達に教え、その情報分の金を受け取ったりする。
ラヒムが以前所属していた傭兵組合でも、彼ら無しでは維持ができないほど、依頼の仲介などは彼らに依存している関係にあり、彼らはこの広大なゲームにおいて様々な情報を握っていることもあって、『情報屋』とも呼ばれる場合があった。
だが、ラヒムとユエは食事に夢中になってきたため、彼の話に耳を貸さない。
それでも男は己の身の上を話したくてたまらなかったのか、二人の返事を待たずに話し始めた。どうやら自己主張が激しい奴らしい。
「あんたの首にかかった賞金が狙いで、ずっと刺客を送り込んでたんだ。別に今まで送ったやつ全員ではないからな、他にもあんたを狙ってる仲介屋はたくさんいるんだ。詳しくは言えないが、少なくとも5・6人はいるからな。」
彼は語りだすと中々止まらない性格らしい。
こちらは全く聞いていないのだが、それでも構わないみたいだった。
「・・しかし、あんた近頃どこにいたんだ?どこの街や村探してもいないもんで困ってたんだ。追い剥ぎ連中の筋に聞いても見つからねぇしよ。だから今晩あんたを偶然見つけて本当に助かったが・・・。しかし結局、無駄になっちまったな。畜生。」
ラヒムをロストさせようとしていたくせに図々しいと思うが、今更この仲介屋と名乗る男を切り捨てても何も特にならないだろうと、ラヒムは黙々と酒と食事を口に運んだ。
「あの3人に任せたのがそもそもの間違いだ。一人は元傭兵組合に所属してたらしくてよ。あんたの顔と弱みを知っているって言ったから頼りにしてたんだが、あんたあの年寄りと知り合いか?」
そう言って仲介屋はもう既に消えかかっているニグの死体を指差した。
それに対してラヒムは首を横に振り、再び視線を料理に戻した。
傭兵組合の中でラヒムのことを知っている奴は大勢いるだろうが、ラヒム自身の知り合いというのはごく僅かであり、ましてや弱みとは一体何のことだろうか。
きっと大した腕もなかったせいで刺客になれず、適当な嘘をついて、信用を買ったのだろう。時にはハッタリも立派な武器になるが、どうやらニグはハッタリの使い方を間違えたらしい。
「だよな。最初から疑うべきだったんだよ。腕利きや俺のお気に入りの連中が大体返り討ちになるか、逃がしちまったって言ってるようなあんたを、どこぞの老いぼれと素人が殺せるわけないよな。俺も焼きが回ったよ。」
そう言って仲介屋は溜息をついてもう一杯酒を注いで、一気に飲み干した。
「本当なら、ここまで来たら俺も真剣にあんたをぶっ殺そうと思って、ガチな連中を呼びたかったんだが、生憎皆別口の依頼に流れちまってな。最近はあの3人みてぇな素人とハッタリ屋しかいねぇ。使えないよ全く。」
「別口?」
ここでラヒムは初めて仲介屋の話に耳を傾けた。
自分の暗殺より破格な依頼なんて中々ないとラヒムは自負していた。
たかだか小男一人を殺せば、傭兵組合に依頼される通常の報酬より数倍の額が手に入るのだ。
その手軽さもあってラヒムのことをよく知らない傭兵組合の連中やそこらのゴロツキ共は、よってたかって依頼に集まってくるせいで、今まで何度も襲われたのだが、そんな連中が今ではパタリと依頼を受注するのをやめて、その別口に流れたというのは意外な話である。
ラヒムの強さがやっと連中に認知されて、手を出しにくくなったのだと、ラヒムは思いたかったが、生憎、傭兵組合にしても追い剥ぎ組合にしても、またゴロツキ共にしても連中はさほど学習能力があるとは個人的に思えない。
それにあくまでゲームなのだから、ロストしても何度か転生してラヒムに挑んでくる刺客は多くいた。
そこまでして自分に襲いかかってきた刺客達の質が下がったと聞いて、ラヒムは何処か肩透かしを食らったような気がした。
「その別口ってのはなんです?」
そこでラヒムはその別口について聞いてみたが、それを聞いた途端仲介屋は今までずっとベラベラ話していた口を急に重くした。
「ん?あぁ。これは仕事の話だからな。詳しくはいえねぇ。」
「さっきまで色々話していたじゃないですか。」
「それとこれとは別だ。」
仲介屋は先程まで不抜けた顔をしていたが、急に真剣な面持ちになって、ラヒムを見た。
手に剣を携えているわけではないのに、まるで今にもこちらの出方によっては斬ってやるような雰囲気がある。
「お願いですから教えてくださいよ。」
「駄目だ。俺のルールに反する。」
急に訳のわからない事を言う奴だとラヒムは睨むが、仲介屋はそれ以上口を開かない。
無理に聞き出すのは無理だろう、現実じみたゲームとはいえ、脅迫はきっと通じないだろうし、ここでロストさせると脅してもきっと仲介屋は喋らない。
仮にロストして地位などを失うことになろうとも、こういう手合いは何かしら事前に対策をしているものなのだ。
聞き出すことを諦めたラヒムは仕方なく仲介屋とユエを囲んで、また食事を再開した。
全くもって奇妙な光景であるが、ラヒムの頭の中にはそんなことよりも『別口』の話しが気になって仕方なかった。
そして、しばらく3人は黙々と食事を続け、テーブルの料理がそろそろ終わリそうになった時に、ふと仲介屋が思い出したように言った。
「そうだ。忘れていた。」
「なんですか?別口の話ですか?」
「違う。それじゃない。・・・今思い出したんだが、さっきあんたが殺した連中にまだ仲間がいたのを思い出した。」
思わずラヒムはどきっとして椅子から立ち上がったが、それとは対照的に仲介屋は呑気にテーブルの隅にあった清潔な布切れで口元を拭いている。
「まだいるんですか?」
「あぁだが、そんな大した腕じゃない。一人だけだ。だが、仲間が殺されて怒り狂ってやがる。」
「どこにいるんです?」
「あぁすぐ近くだ。酒場の前にいるってよ。」
酷く呑気に仲介屋は言ってのけるが、ラヒムには大事なことである。
すぐに短剣を引き抜いて、酒場の扉へと身構えるが、そんなラヒムを尻目にユエはひたすらに食事を貪っている。
『嘘でも何でもいい、自分をでっかいヤツだと相手に思わせろ。』
~傭兵組合所属 隻眼のジェニー




