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Lamia?  作者: mo56
第1章 放浪にて
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80話 二人きり⑤

 ラヒムは3人の刺客を相手に、短剣を忙しなく平等に向けていた。

 3人のうちの一人に気を取られてはいけない。

 最も警戒すべきは長剣を片手で構え、怒りを顕にしているニグではなく、彼の少し後ろに立って武器を構えている二人だろう。

 だが、ニグと比べれば遥かに戦闘経験に乏しいらしく、二人共顔に脂汗をたっぷりと浮かべ間合いを伺っているが、ニグより後ろにいる時点で十分な間合いを取れているとは言えなかった。


 「得物を抜いたって事はロストしても構わないということですよね。」


 ラヒムは腰を低くした調子で3人に話しかける。

 今ここでもし得物を収めてくれれば、それでこの戦闘は終わる。

 そうなれば、ユエを担いで酒場をあとにするだけで済む。

 無益な殺生を好まないというよりは、3対1であるという点がラヒムには痛く、勝てるかどうかと聞かれればそれなりの出血を覚悟しなければならないのだが、多分勝てるだろう。

 戦闘経験があるのは前方で太ももを抑えて立っているニグのみで、その彼も既に足に怪我を負わせたのだから、そこまで注意する必要はない。

 だからこれは経験者からの忠告を兼ねて、ラヒムは3人に呼びかけているのだ。


 「今ならこちらも引き下がりますよ。剣を収めてくだされば、彼女を連れて酒場を出ます。それで不服でしたらそんな多くではありませんが、金も払います。ですのでどうか剣を収めてはくれませんか?」


 腰を低くして短剣をゆっくりと下げながら誠意を示す。

 彼らとしてみれば悪い事ではないはずだ。

 戦闘経験が3人のうちで最も秀でている一人が既に足を抑え、片手で剣を握っている時点でラヒムには敵わないと判断して剣を収めるべきだ。

 それにこちらからも慰謝料といえばいいのかわからないが、金を出すとも申し出たのだから、ここは勘弁してもらいたい。


 「五月蝿い!今更引き下がれるかっ」


 若い青年が一歩前に出た。

 勢いだけはあるらしい、傭兵組合の新参者はそんな連中でいっぱいだ。

 だが、半年経てばその新人連中は3分の1も残らない、大体途中でこのゲームのあざとさを知り、嫌になってやめていくのだ。

 

 「まぁそんなこと言わずに。お願いしますよ。私だってロストしたくないのです。」


 そう言ってラヒムは銀貨の詰まった袋を彼らに差し出した。

 短剣は既に鞘に収めたのだが、若い青年は一歩踏み込んできたものの、それ以上進むことはできなかった。

 『臆病者!』ラヒムは心の内で若い青年を罵る。

 勢いに身を任せ切り込んでくれば、返り討ちにするのは容易いのだが、臆病風に吹かれたらしい。

 傭兵組合で長生きするにはそんな臆病風も大事だが、それはいざという時の決定打を大いに欠けさせるのだ。

 

 「頼みますよ。この通り。」


 そう言ってラヒムは彼らに頭を下げ詫びた。

 ここが酒場で無ければ、ラヒムはここまで腰を低くすることはない。

 もし人気のない山道や街道ならば、この程度の奴等簡単に血祭りに上げることができる。

 だが、残念ながらここは酒場である、給仕や店主の目もあり、他の客の目もある。

そんな場合はできる限り、荒事は避けたい。


 「黙れ、悪党めが」


 そう怒鳴って切り込んできたのは太腿を抑えていたニグであった。

 片手で剣を振り上げ、全身を使ってラヒムに突っ込んでくる。

 きっと相当頭にきているのだろう、だが、それまでだ。

 斬りかかってくるなら頭を下げる必要はないだろう、彼らには血反吐を吐いて床に突っ伏してもらうしかない。


 ニグの攻撃動作は傷のせいもあり、ラヒムの目にはあまりにも遅く見えていた。

 一応長いこと血みどろの戦闘を繰り返してきたラヒムにとっては侮辱にも等しい攻撃だ。その上段から振り下ろされる間にニグの側面に素早く回り込み、彼の懐へ素早く抜いた短剣を突き刺した。

 ラヒムがまた視界から姿を消したのでニグは一瞬戸惑ったが、次にラヒムの姿を視界に入れるときには既に床にうずくまっていた。

 そして、うずくまるニグを飛び越え、ラヒムは剣を構えた青年の前に躍り出た。

 ラヒムの姿を見るなり、青年は狂ったような声を上げ、両手に握った長剣を中段にてラヒムに突き刺そうとしたが、ラヒムはニグの血に染まった短剣を素早く振り上げた。

己へ向けられた青年の長剣の切っ先を跳ね上げ、刀身を短剣で弾き押し上げて、青年の懐へと飛び込んだ。

 狂気じみた笑顔を貼り付け、懐へと押し進んでくるラヒムを間近で見て、青年は悲鳴を上げて、剣を再び振り上げ、ラヒムを斬りつけようとするが、その前に青年の胸にラヒムの短剣が深々と突き刺さる。

 どうやら急所といえばいいのか、即座にロストを促す部位に命中したらしい。

 青年は再び悲鳴を上げると、ラヒムにもたれかかって動かなくなった。


 「ノリス?・・・ねぇ大丈夫・・・。」


 青年の後ろにいた女が声をかけた。

 声は震えていて、短剣を握るか細い手は恐怖に震えている。

 ノリスと呼ばれた青年が動かないのはきっと、前に突き出した長剣が上手く小鬼のような悪漢を突き刺し、それに対してまだ純粋な彼がきっとひどくショックを受けているのだろうと、彼女は勝手な希望的観測を持っていた。

 だが、それはノリスの肩から飛び出したラヒムの顔によって打ち消された。


 ラヒムが後ろの下がりながら短剣を青年の胸から引き抜くと、青年の体は力なく床に突っ伏した。

 これで二つの死体があっという間にでき、戦闘後のファンファーレの様に女の悲鳴が鳴り響く。

 これを聞くと達成感というものがあるとラヒムはしみじみと思ったが、しかし、まだ獲物は残っていると、ラヒムは思い直し、短剣を静かに女へと向けた。

 ラヒムの短剣には血糊が大量に付着し、多分切れ味には期待できそうにない。

 だが、女の柔らかいローブを切り裂くのに、そこまで鋭利な刃物は必要ないだろう。

 女は悲鳴を上げるのみで短剣は振り回すこともしない。

 何か攻撃でもしてくればまだ色々と楽しめるのだが、とラヒムは残念そうに短剣を前に突き出し、一気に女の懐へと踏み込んだ。

 

 

 三つの死体を前にラヒムは短剣を鞘に収めた。

 既に店主や給仕は恐れをなして逃げ出したらしい。

 酒場には返り血に染まりながらも、意地汚い追い剥ぎ根性をさらけ出し、早速死体の身ぐるみを剥いでいるラヒムと、横でまだ酔ったまま寝ているユエだけが残っていた。


 「・・・そんな大した物持ってねぇな。」


 この時だけラヒムは、追い剥ぎ風情の汚らしい素の自分をさらけ出していた。


 「やるじゃねぇか。」


 そんなラヒムに誰かが声をかけた。

 慌てて周囲を見回すと、てっきり逃げ出したと思っていた、カウンターにいた客が、こちらを見つめ拍手していた。


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