77話 二人きり②
村へは入ろうとすると、一旦革鎧に身を包んだ門番に止められたが、馬車に大人数乗っていないことと、貧相なラヒムの体を見て危険はないだろうと察し、通してくれた。
昨日の村と同じように内部は宿場町の形をしているようで、両側に宿屋などが数件広がっていて、その隙間に雑貨屋や酒場が目に入った。
賑わっているようで路上にはキャラが数人歩いているのが見える。
旅人風のキャラから、見るからにロクでもないようなラヒムと同じ雰囲気を漂わせる者から千差万別だ。
だが、ラヒムの目が行くのは行き交う人々の身につけた武器等であった。
何かしら物騒であるゲーム仕様の為に、武器を携行していることは別段不思議なことではなく、寧ろ当たり前のことなのだが、村の中においても皆、武器を携行しそれを隠そうともしないということは、この村の治安が大分低いと言うことを示している。
逆に大きい街ともなってくると、武器の携帯を街内では封じる場所も少なくはない。
その場合は所持している武器を衛兵に預け、街を出る際に返してもらう決まりで、今後の目的地である都市バストロクも例に漏れずそのような街であった。
しかし、外見は違えども皆同じように、馬車が通ると煙たそうな顔をしてそれを避けるのだった。
適当に馬車を停められる場所を探していると、運良く酒場の横にあった空き地に停めることができた。
宿に泊まりログアウトするにはまだ早すぎると思い、少し酒場で時間を潰そうとラヒムは考えた。
幸いに先日起きた騒動のお陰で懐にはそれなりの金があり、飲み代にするにはちょうど良かった。
それに、何か酒場にて情報も得られるかもしれない。
ここのところずっと村や街などにいなかったので、全体の情報には疎くなっている。
もう少しちゃんとした情報を入手していれば、昨日の村だって立ち寄ることはなかっただろう。
それにバストロクの場所についても聞いておきたい。
到着まであとどのぐらいの距離か知る必要がある。
もしかしたら近道を聞くこともできるかもしれないと、ラヒムは楽観的に考えた。
そして馬車を停めて、意気揚々と御者代を下りようとすると、それを止める声が後ろから掛けられた。
「待ってください。私も」
着地してからラヒムは、精一杯背伸びして声のした荷台を覗くと、奥からユエが飛び出してきた。
どうやらラヒムが御者台から下りたので、慌てて追いかけようとしたらしい。
ユエの慌てた足が、顔を出したラヒムの顔を強く蹴った。
力具合は少女であるのでそれほど痛くはないが、今の一撃がもし、ニッキであったらと思うとゾッとする。
蹴ったことに対し謝るユエに、ラヒムは冷静に村に着けたので、ログアウトしてもらっても構わないと告げたが、彼女はまだログアウトするつもりはないらしく、首を横に振った。
そうなると保護対象でもあるし、馬車に一人放って置くわけにも行かないと仕方なくラヒムは彼女の手を引いて、共に馬車を降りた。
少女の手を引くラヒムの姿は、きっと傍から見れば拐かしに見えるだろう。
果たしてまだあどけなさを色濃く残している彼女を、汚らしい酒場に入れるのは考えものだが、この村には他に清潔そうな場所も無いようだった。
酒場の中はお世辞にも盛況しているとは言えなかったが、壁際の席やカウンターの方に数人の客が見える。
カウンターに男一人と、壁際のテーブルを囲んで3人の旅人風の男女が談笑している。
その内のカウンターに座っていた男が一人、入ってきたラヒム等を見たが、すぐに視線を己の目の前に置かれた杯に戻し、ラヒム等に背を向けた。
男の肩は小さいがラヒムよりは一回りほど大きい体つきをして、腰に長剣を差している。
一目で同業者特有の胡散臭さをラヒムは感じ取り、出来る限りその男と関わりあいにならないよう、談笑している3人の近くのテーブルに腰掛けた。
しばらくすると、給仕が注文を取りにこちらにきた。
安い酒と何か適当な食べ物を注文しようとしたが、ここの地方に寄るのは初めてのせいもあり、先日までいた集落とは大分食べている物が違うみたいだった。
どうもどれを頼んだものかと少し悩んでいると、ユエが悩むラヒムを見かねて、彼女から給仕に何か注文してくれた。
ユエはここの地方は回った経験があるらしく、ユエはそれなりに地方の名産などを心得ているのだと彼女は言うと、自慢げに胸を張るのだった。薄っぺらいのだが。
「すごいんだね」
とラヒムは自慢げにしている彼女を褒めながら、すぐに運ばれてきた安酒をコップに注いだ。彼女の口に合うかどうかラヒムは知らないが、ここら辺の酒も大体飲んだことがあると彼女は豪語しているし、きっと大丈夫であろう。
「姉さんとは大分遠くまで行ったのよ。」
注いだコップを彼女に渡すと、彼女は一息にそれを飲み干した。
そして、すぐにその赤毛と同じように顔に朱が差し、よく喋るようになってきた。
どうやら酒にはとても弱いらしく、小さなコップ一杯でもう駄目らしい。
「バストロクだって、何度も立ち寄って芸をしたの。その時はもっと大勢仲間がいたのだけどね。あなたにも見せてあげたかったわ、とても賑やかで楽しいのよ。」
ユエは以前に回った街や村などであった話を、面白おかしく話しだした。
北方での寒い地方にそれとは逆の南方地方での話など、ユエは姉のリビ程手先は器用ではないと本人も言っていたが、一方喋り出せば姉よりも遥かに口が上手いらしく、先ほどの淑女ぶった馬車での態度が嘘のようだ。
だが、別に酒で酔っ払うというのもプレイヤーのロールプレイであるし、深く考えると薄ら寒いものも感じるが、ゲーム内にてそんなこと考えるのは野暮というものだろう。
「こうね、人が口から火を吹いたりするのよ。魔術とかそういう類いじゃないのよ。本当に口に火を入れてそれを吹くの、けど成功したのは一度だけ、二度目でその人ロストしちゃったわ。」
「へぇ・・。」
ラヒムは酒を少しずつ飲みながら、ユエの地方を回った話から、昔の仲間等の話に変わった語りに頷いていたが、改めて思えばユエがしているような芸を街中で見たためしがない。
今まで血なまぐさいことばかりやってきたせいなのだが、今更になってそういうのもあるのだと最近知ったばかりだ。
現にリビの投げナイフの腕は峠などで活躍したそうだが、ユエは何かそういう彼女しかできない芸を持っているのだろうか。
「そういえばユエさんは一体どの様な芸ができるんですか?」
試しに聞いてみると、彼女は待っていましたとばかりに顔に笑みを浮かべ
「軽業師よ。身軽に飛び回るのっ!」
そう高らかに言うと、いきなりテーブルの上に素早く飛び乗った。
コップが吹っ飛び、酒が飛び散り、不幸中の幸いにまだ料理は運ばれていなかった。
どうやら相当酔っているらしく、顔は真っ赤で徐々に呂律も回らなくなってきている。
急にユエが大声をあげ、テーブルに立ち上がったので、周りの客は驚いて、彼女を見たが、ユエはそれを自分が良い意味で注目されていると、酒のせいで誤解したのであった。
大分長いあいだリビが出ていなかったので、彼女の名前を忘れていました。




