75話 下校
田中は結局そのあとそれといったことも話さず、昼前には帰っていった。
当初は幻想的とも少々頭のおかしい話ばかりで、ろくに井出は彼の話を聞いていなかったが、部屋を出る際に前金と称して何枚か札を貰ったので、気分良く見送ってやった。
バイトまで、まだ時間があるので、彼を見送った井出は少し休んでからバイトに向かうことにした。
それからバイトを終え、帰宅するまで特に変わったことは起きなかったが、バイトをしている最中井出の頭の中では、巫女攫いの団員達への連絡をどうしようかと悩んでいた。
シシャモ以外の団員とは半年以上連絡をとっていなかったし、田中の言うようにそうすぐに集められるものでもないだろう。
そもそも現在彼らが、ゲームにログインしているのかも怪しい。
連中だって個人個人、仕事や用事があるわけだし、今更ゲームに興味をもっているかもわからないのだ。
一応携帯に彼らの電話番号やメールアドレスは登録されているが、全員に当たるのは中々骨の折れる作業だ。
場合によっては一晩中かかるかもしれないが、田中から少し前金も貰ってしまったので今更辞める訳にもいかない。
井出は仕方ないと頭を掻きながら帰路につくのだった。
高校生だとか中学生の友情っていうものは、とても安っぽいものだと小林は思う。
昨日まで全く話したこともなかった奴が、何か些細なきっかけ一つで、今日にはこうも仲良くつるんで下校しているのだから、とても不思議に思える。
大人になってもそうなのかはわからないが、人間関係というものは勢いで大体が構成されてしまうのではないかと、小林は長谷川と米山の3人で並んで下校する際にふと思った。
「なぁ今晩もするのか?」
そんな事をぼんやりと考えていた井出に米山が声をかけた。
突然に聞かれたので、小林は上手く聞き取れなかった。
仕方なく申し訳なさそうにもう一度何を言ったのか聞きなおすと、米山は少し不満げな顔になりながらも答えてくれた。
「今晩もあのゲームするのかって話だよ。」
「え?あぁするよ。米山はしないのかい?」
「悪い。用事がある。」
そう米山はバツが悪そうに答えた。
見るからに不良の彼のことだ。
きっとなんかこうそういう類のグループの集まりや、抗争とか色々あるのだろう。
形は他人様から見ても、社会的に見ても歪んでいるのかもしれないが、彼らには彼らの理屈があるわけで、それが彼らの青春なのだから、教師でも被害を受けた被害者でもない自分が何か文句を言えることではないと小林は思った。
「えーと、じゃあ、他のメンバーにはよろしく頼むわ」
そう言うと足早に小林と長谷川の二人を置いて、米山はどこかへ走っていってしまった。
取り残された二人はそのままそれぞれの自宅へと、下校の歩を進めるが、途中長谷川が口を開いた。
「あのさ、小林?」
「なんだい。」
「俺・・思うんだけど、あの米山って正直言ってヤバくないか?」
「どこがヤバイんだ?」
小林が事も無げに返したことに、長谷川は意外そうな顔になって続けた。
「何って・・それは、どう見たってなんかこうチャラいっていうか・・・とにかく俺はああいう奴苦手だよ。」
「そうは言っても、米山は長谷川のこと気に入ったみたいだよ。」
「俺はやだよ・・・今朝だって凄く嫌だったんだからな。」
長谷川はそう吐き捨てるように言った。
少し辛そうな顔をしているのがわかる、確かに長谷川は米山の様なタイプは苦手だろうなと小林は思った。
「けどさ、長谷川。」
「なんだよ。」
「俺的には嬉しいんだけどな、なんか友達が増えたみたいで、いや、長谷川は嫌だろうけど俺にはね。」
長谷川は黙って小林の横を歩いている。
「俺、前の件があってからロクに人が寄り付かなくなってたからさ、いや長谷川は別だよ。ゲームの話とかもできるし、けど米山みたいなタイプは初めてなんだよな。・・・そういえばアイツがどんなキャラでゲームしてるか、長谷川知ってるか?」
「知るわけないだろ、馬鹿。」
「まぁ今さっきの感じとそこまで変わらないけど良い奴だよ。
まぁまだそんな一緒にプレイしたわけじゃないけど。」
「何が言いたいんだよ、小林。」
長谷川が小林を歩きながら見た。
不快な色が顔に少々現れている、だが、それに構うことなく小林は続けた。
「人ってさ、ネットだと本性ってやつが出てくるもんだとか言うけど、別にそうでもないよな。
言いたい放題言う奴もいるけど、逆に現実では短気な癖に、ネットとかだと落ち着いたように振舞う奴とかさ、あのゲームってうちの高校でも結構やっている奴多いからたまに思うんだよね。」
「まぁ確かにな。」
「でさ、米山ってのはつまり悪い意味でも良い意味でも裏表がないやつだと思うんだよね、俺。
まぁ高校にいるときより格段に阿呆なことしか言わない気もするけど、そこまで変わらないっていうかね、でも寧ろ俺はそういう裏表ない奴と一緒の方が落ち着くよ。」
「・・・。」
相変わらず長谷川は口数少なく、顔を渋くしているが、小林の横から離れて、さっさと帰らないということは若干小林の話を聞く気があるのだろう。
「俺、あの件から少し人間不信なのかもしれないよ。」
「小林、まだ引きずってるのか?」
少し心配した顔になって長谷川が小林を見た。
あの一件以来、周りの小林を見る目が変わったのは事実だった。
親や担任、長谷川などには事の真相をもちろん告げたが、それでも別の教師やあの件を噂などでしか知らない生徒連中には小林の事を、化物の様に思っている者もいる事は確かだ。
だが、あの空手部で講師を打ちのめした様に理解されたしまった事には真相がある。
別に小林は講師に恨みなど持っていたわけでもないし、尊敬だってしていた。
しかし、その講師自身の評判がよろしくなかったせいで、小林はある意味あの件以来、英雄のように事情を知らない生徒からすれば受け入れられたが、だが一方で怒らせたら何をするかわからないという恐怖の方が優先され、長谷川や一部の生徒以外、彼に話しかけなくなった。
「引きずるよ、俺だって思春期だよ。」
「それは中学生までだよ。」
明るい声音で小林は言ったが、長谷川には小林の声が若干震えていることに気づいた。
普段、長谷川の目には小林の姿がとても大きく見えていたが、今はどうにも寂しそうに小さく見えた。
「・・・わかったよ、米山とはうまくやってやるよ。」
「嫌だったら言ってくれよ。」
「そうするよ、うちのクラスの龍と虎が争ったらどうなるか、見ものだもんな。」
そう二人は冗談を言い合って慰め合い、家に帰るのだった。
明日は日曜日だ。
嫌なことなど忘れて何か楽しいことをしたいと、小林はぼんやり思ったが、そうなると『Lamia?』の事しか思いつかなかったので、自分も結構オタッキーな奴だなと、小林は心の中で苦笑した。
大体高校生の頃は内容の無い話しばかりしていた気がします。




