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Lamia?  作者: mo56
第1章 放浪にて
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73話 田中③

 「まぁその新しいことっていうのは、手っ取り早く言うとイベントですね。」

 「イベント?」

 「そうです。イベントですよ。」


 田中は落ち着き払った顔でそう言った。

 

 「どういうイベントだ?騎士と関係しているのなら、俺はそんなかかわり合いになりたくないぞ。」

 「関わらずにはいられませんよ。きっと。」


 思わせぶりに言う田中を、食い入るように井出は見た。

 きっと田中はそれを期待していたのだろう、とても得意げに話し始めた。


 「まぁ簡単に言えば騎士の中だけのイベントと言ったほうがいいですね。要は侵攻作戦ですよ、侵攻作戦。」

 「侵攻作戦?物騒だな、おい。」

 「まぁ騎士の方で上の連中が騒いでいましてね、4年前と比べれば勢力は落ちてはいますが、今こそ覇権を取り戻すって事で、ガキとかも何ふり構わず徴兵しているそうです。」

 

 騎士達は四年前の権力を未だに欲していると田中は語った。

 元々武装も強力で腕もあるような連中の集まりなら、4年前はたやすくゲーム内を治めることができただろう。

 だが、それも今は無理な話だ。

 傭兵組合だけではなく、薬草組合から、追い剥ぎ組合まで、ほとんどの組合がそれなりの勢力を確保しているのだ。

 危険な森の奥へ行くと言うならば当然狩りに卓越したキャラが必要であるし、追い剥ぎなどの襲撃にも備えて護衛を担うキャラも必要となってくる。

 その様な形で薬草組合は強化されていき、また鍛冶組合は組合員でなければ扱えぬ様な強力な武器を製造して強力な組織となった。

 追い剥ぎ組合はその様な組合から暴力的に物を奪うのだから、より一層技術的な面で強くなっていった。

 4年前は貧弱ではあったが、誰しも経験で強くなるもので、現在の騎士にも及ばないかもしれないが、どの組合もそこそこ強力な組織になっている。

 3・4年も経てばいい加減に、勢力の図も変わってくるのだ。


 「ガキも?騎士は一応採用試験かなんかがあったろ?」


 井出は田中の言った徴兵について疑問に思った。

 井出はテストプレイヤーであったせいもあり、そこまで大した審査や試験もなくあっさり徴収部隊に配属されたのだが、シシャモが言うにはそれなりの筋力や持久力を要しているキャラデザインをしていないと門前払いされるそうだ。

 それに対して田中は落ち着いて返す。


 「えぇ、確かに四年前はそうでしたよ。しかし、状況が変わってきたのです。個人個人の能力よりもまずは一定の数を揃えないといけないのですよ。」

 「だが、あのゲームは成長とかレベルアップするようなシステムは実装されてないじゃないか。」


 『Lamia?』はシステム上、一度決めてしまったキャラはそれ以上、能力を上げることはできなかった筈だと、井出は思い返した。

 その為、そのキャラとプレイヤーの腕に相応した戦闘スタイルを築いていかなければ、まともなキャラは出来上がらない。

 大体のプレイヤーはその成長できないというシステムに不満を覚えてゲームを辞めるのだが、それでも作ったキャラに愛着を持ってプレイしているプレイヤーが大勢プレイを続けているのだから不思議だ。


 「そうです。確かにその通りなのですが、最近は困った事になりましてね。」


 田中はそう言うと少し困ったような表情をした。


 「多分、井出さんも見たことはあると思いますが、通常のキャラデザインでは不可能な大きさの敵を最近見たことはありませんでしたか?多分、数日前に峠で見たはずかと。」


 田中の言った言葉に、井出は峠で見たあのデカ物騎士を思い出した。

 確か、奴をロストさせた後に、シシャモがチートがどうとか言っていたような気がする。


 「・・・チートか。」

 「それなんです。ぶっちゃけますと魔術師連中が使う魔術もその類に抵触するんですが、あれは夢があるってことで作成チーム一同容認しているのですが、チートばかりは・・・」


 そう言うと田中は困ったように頭を少し掻いて、また缶コーヒーを一口啜ってから続けた。


 「騎士達はどうやら、ガキとかそれこそ剣一本持てないような非力な奴でも、姿形関係無く徴兵してチートで団員達を強化しているのです。」

 「それは厄介だな。」

 「厄介ってレベルじゃありませんよ。ゲームバランスが崩れます。」


 今までちゃんとしたバランスを保ってゲームが進行していたかどうかと言われれば、井出は何度か頭をかしげたくなるのだが、作成チームの田中が困るとは厄介な問題なのだろう。

 

 「どういう類のチートかそこまではちゃんと把握できていないのですが、そのチート集団が各地方の都市へ侵攻する計画なのだそうですよ。」


 自分が操作する騎士でも詳しい計画は聞き出せなかったと、田中は残念そうに付け加えた。

 しかし、そんなこと自分に言われても困ると、井出は苦い顔をした。

 たかだか、追い剥ぎ風情の己に一体何ができるというのか、そういう類は作成チームでチートを使用している者のへのアカウント削除とか、チートへの対策としてのアップデートとか色々とあるのではないかと、井出は田中に問いただしたが、田中はそれだと面白く無いと返した。

 

 「そろそろ俺は引退した方が良さそうだ。」

 「そんなこと言わないでくださいよ。井出さんは色々と頼りにしているのですから。」


 どことなく田中が図々しいと感じた井出は溜息をついて、田中を追い返そうとすると、彼は必死に床にへばりついて追い出されまいと粘った。


 「お願いします。井出さんにはどうしてもして欲しいことがあるんです。」

 「なんでそんな巫山戯た連中と関わりあいにならなくちゃいけないんだよ。俺は嫌だぞ。」

 「ちゃんとテストプレイヤーとしての報酬に上乗せしますから」

 「・・・悪かったよ。座れよ。」


 結局のところ懐が常に寒い井出が、金の魔力に逆らえる訳もなかった。

 元々テストプレイヤーを引き受けたのはゲームに興味が湧いたというのもあったが、田中がそれなりの額を出すと言ったので喜んで引き受けることにしたのが、一番の大きな要因だった。

 仕方なく追い出そうと引っ張っていた手を離して、田中を座布団に座らせた。

 心も体も貧乏な自分が時に嫌になるものだ。


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