67話 夢中⑦
騎士団本部の上層牢獄がある中央塔の回廊を、奇妙な二人組が歩いていた。
片方は全身を漆黒の甲冑に身を包み、目を赤く光らせ、
歩く姿はまさに暗黒騎士とも言うべきか、堂々としている。
だが、その隣にいる男は、この暗黒騎士とは何から何まで対照的だ。
以前は白かったのだが、長い牢獄生活で甲冑は錆び付き、
甲からの覗く目は少々不安そうに辺りを見回している。
「まぁ歩きながら続きを話そう。」
と先程牢獄内で、騎士がそう卵に持ちかけた。
卵としては牢獄から出れるのなら、断る理由もなく、
鉄格子に頭をぶつける作業から解放され、
回廊の大きな窓から差し込む光を浴びた。
「まぁそれでだ。典礼部隊兼、懲罰部隊な訳だが、一応その典礼部隊の仕事というのも勿論ある。」
「なんなんだ、それは?」
「・・・『巫女』の護衛だ。お前が所属する典礼部隊に、正式名称は無い。『守人』と簡単に呼ばれるそうだ。」
「巫女?巫女ってなんだよ?」
卵には当時どれも聞き慣れない単語ばかりを、騎士は言っていた。
牢獄に長くいたせいもあるが、基本的に世事に疎い卵のせいでもある。
だが、今騎士が並べる単語はどれもこれも、
今後卵がゲームで深く携わるものばかりだった。
「ある意味、上の連中よりも遥かに偉くて強力な存在だ。」
騎士の口調に、どことなく憎々しげな色があるのは気のせいか。
「んなこといっても、作成チームのお前には敵わんだろ。」
「馬鹿。滅多なこと言うんじゃない。みんなにバレたら白けるだろうが。」
何をどうしたら、ゲーム内で偉くなれるかは知らないが、
幾ら地位が高くとも、簡単にキャラ削除を行える田中に叶うやつなどいないだろう。
本人としては、騎士内で気分良く騎士をロールプレイングしたいみたいだが、
その気になれば、彼がもっとも騎士で地位の高い者になるのではないのかと、
いつも卵は思う。だが、彼には昇進意欲というのが卵と同じく全くない。
彼は立場上の地位が嫌いであり、卵は業務的な意味で地位が嫌いだ。
「とにかく、偉く神聖な存在らしい。俺でも会ったことがないんだ。」
「さすがの田中さんでもないのか?」
「だから、茶化すなよ。あぁそうだ一目も見たことがない。この中央塔の最上階に篭もりっきりだ。」
そう言って騎士はふと立ち止まり、窓から身を少しだけ乗り出して、
最上階の方を指差した。だが、卵が身を乗り出せば、
窓から転落することは目に見えていたので、視点移動で最上階を拝んだ。
さっきまで自分のいた牢獄が、回廊のグラフィックを貫通して見えた。
悲しくなるぐらいに汚いのがわかる。
そして、その牢獄のグラフィックを映らないように移動させると、
最上階の窓が見えた。別に何か凝った飾りがついているわけでもない。
どこにでもあると言えば変な話ではあるが、本当に何も変哲もない。
「一体何をしてるんだかは、俺も知らないがな。」
「ふぅん」
そう事も無げに騎士は言うと、また最上階に向かって歩きだした。
一体最上階まで、どのぐらい時間がかかるのかわからない。
「これから、最上階に行って、お前を巫女さんに会わせたら俺は帰るぞ。」
「待てよ。他の団員はどうなる?」
「あとから連れてきてやる。」
そう言われると、なんだか卵は少し不安になってきた。
色々と上に顔が利く田中でさえ、見たことがないという巫女はどんな者なのだろう。
いや、それよりもなんで、そんな偉いのだろう。
そのあたりが気になった卵は騎士に聞いてみたが、
それもやはり、よくわからないと返ってきた。
ただ、長い階段を上りきり、やっと最上階の扉の前へ着いた際に騎士は
「お前ならきっとなんとかやれる。」
とあまりにもありがちな台詞を吐いて、扉を開いた。
最上階の部屋は広い円形になっており、真ん中にこれまた円形の部屋があって、
その周りを円形の通路が覆っている形だった。
通路には窓がいくつもあり、最上階ということもあって眺めもいいのだろう。
だが、不思議なことにそれぞれの窓の近くには、
形がそれぞれ異なる椅子と小さいテーブルが対に置かれていて、
そのテーブルの上に、何か冊子が置かれているのが見えた。
「ここが守人の仕事場だ。」
「毎日、窓から変わらない景色を眺められるのか、最高だな。」
と皮肉そうに騎士に卵が笑いかけるが、騎士の声は至って真剣だった。
「まぁ休憩所は下の階だ。」
「先にそっちを教えろよ。」
「お前そしたら、絶対そこでログアウトするつもりだったろ。」
「畜生。」
騎士は何もかも、お見通しのようだ。
しばらく二人は円形の通路を曲がり、丁度一周するあたりで、
中央の円形の部屋の前まで来た。
扉は一つしかなく、この扉も特に凝った飾りがついているわけでもない。
そして、その扉の前にも椅子とテーブルがある。
これも特に何も特徴のないような、木製の椅子とテーブルだ。
「この中に巫女がいる。後、そこの席がお前の分担だ。」
「席とか決められてるのかよ。やだな。」
「席替えはするなよ。一応、意味はある。」
二人は扉の前で立ち止まり、騎士は卵の席だと言った席を指差し、
「お前、十二支って全部言えるか?」
「どうしたんだよ。急に、言えねぇよ。」
「・・・まぁいい。ここの窓は全てで12ある。それぞれの方角にキチンと分担された窓がな。」
そう言うと、騎士はまた円形の通路を歩き始めたので、卵はその後を追う。
どうせ説明するなら、今さっき通路を一周しようとした時に、
説明すればよかったのではないかと思ったが、
田中さんはインテリではあるが、そこまで要領が良くなかった事を、
彼の後ろを追いながら、卵は思い出した。
「お前は西の担当だ。十二支で言うと酉だな。」
「・・・・甲冑の形のせいか?」
思わず卵は、少し不快そうに聞いた。
確かに卵のような形状ではあるが、この形状にもそこそこ意味がある。
卵のような球状型は矢などの飛び道具に対し、傾斜装甲は有効なのである。
とは言っても、その有効性が示されたことは、今まで一度もないのだが。
「それも無いことはないが・・、お前の徴収部隊を務めていた方角などが関係するな。」
卵には一体騎士が何を言いたいのかよくわからなかったのだが、
それを兜から覗く目の動きで汲み取った彼は、
親切に無知な卵にまた説明しだすのであった。
なんかこう・・白虎とか玄武とか・・そういう類の連中が守ってるのをなんて言ったか思い出せない・・。




