63話 夢中③
「それはないですぜ、今行こうとしている村の徴収はもっと先じゃないですか。」
軽装の男が隊長格の騎士に食い下がる。
意外とチンピラ地味た外見の割には、真面目なやつだった。
だが、隊長格はそんな軽装の男の言うことなど聞かず、馬車を急がせる。
「・・・どうやら、入用のようだな。」
「入用?」
卵の横にいた男が、小声で彼に話しかけてきた。
重い首を動かし、そちらを向くと、
男の顔が少々ニヤついているのがわかった。
「あぁ、期日以外の日なら村の連中も警戒しないだろ。」
横の男が満足げに言うのを見て、
我々がこれから何をしようとしているか、卵ははっきり思い出した。
税を徴収する日は。月に何回か決まっている。
徴収を拒む連中はその期日に村に赴いても、
勿論、警戒している。戦闘経験の無い連中を始末するのは、
卵等には簡単なことではあるが。
相手がそれなりに警戒して待ち構えているともなると、
多少手こずる場合も多々あるのだ。
それならわざわざ、徴収部隊の様な荒くれ者どもを、
いちいち期日通りに送り込む必要はないのだろうが、
そこは規律に厳しい騎士であるから、
何故だかそこだけはしっかりと上の連中は、
卵等の様な連中を決められた日に、
決められた村に送り出すのである。
だが、それをいちいち大真面目に守る必要はないだろうと、
隊長格の騎士は考えたらしい。
まぁ無理もないことだ。わざわざ警戒している村に乗り込んで、
少なからず血を流すような戦闘をするよりは、
徴収の期日がまだ大分先の、警戒が緩いであろう村に行った方が賢明だ。
上の連中には、その警戒が薄いであろう村から徴収できる税を、
規定通り収めるが、実際は警戒も薄い村を揺すれば、
規定の税より多く徴収することができるだろう。
余った分は己らの懐に入れる。
別にこれが初めてと言うわけでもない。
月に何度か、隊長格の騎士の入用が増えてくると、
時々こうやって、無理矢理に進路を変えてくる。
「・・・いい加減、警戒するんじゃないのか?」
今度は卵の横の横にいる男が、面倒くさそうに言った。
重装で戦斧を握った男とは対照的に、短剣と長剣を左右交互に差し、
軽装でこちらは顔の露出が、比較的多い兜を被っている。
「大丈夫だ。そんな頭も腕もいい連中じゃないさ。」
それに対して、戦斧を握った男が気さくに答える。
頭が良いのか悪いのかは置いておくとして、
戦闘経験については、お世辞にも高いと言える連中ではない。
薬草取りや、行商で身を立てているキャラが、
主に大半を占めて構成される村が、3・4年前は多く存在していた。
現在ではそのあまりにも無謀な村は滅多に拝めないが、
当時はこのゲームを、単純なのんびりとしたゲームだと、
勘違いして始めるプレイヤーが多かったのである。
そして、それが間違いであったと気づく頃には、
既に卵等のような連中にロストさせられ、転生をし終えた時だろう。
「・・・だと、いいんだがな。」
少し軽装の男は溜息をつくと、それ以上は何も言わなかった。
どうやら少々心配性な奴らしいと、当時の卵はそう思っていたが、
今となってみれば、彼ほどの慎重さが、
昔は悪い意味でも良い意味でも、足りなかったと現在は思っている。
しばらくすると、馬車は本来徴収すべきでない村の前に到着した。
馬車が停まった途端に、入口から怒声や奇声を発しながら、
徴収部隊の仲間達が躍り出る。
大人しい色をした騎士の連中は、まず話し合いから始めるが、
徴収部隊にそこまで理性的な行動は求められない。
重要なのは税が集められるか、集められないかという問題で、
実際のところ、上の連中はこのような徴収部隊の暴虐に近いような行為を、
把握しておきながら、常に黙認しているのだ。
そして、ほぼ戦闘経験の無い、
無防備な村人から得た税に、彼らは満足する。
今回もその筈だったのだ。
だが、躍り出た仲間らを待ち受けていたのは、矢の雨だった。
馬車が停まった村の正面から、屋根伝いから家の影から、
様々な場所から矢が浴びせられた。
まず、第一射をモロにくらったのは御者台に座っていた、
隊長格の重騎士であった。全身に矢を浴び、
悲鳴を上げる暇もないまま、御者台から地面に転がり落ちた。
次にやられたのはその重騎士の隣で、先程からしきりに、
元来た道へ戻ろうと言っていた軽装の男であった。
重騎士の男が呆気なく地面に転がったのだ。
軽装の彼が、その矢の雨に対応できるはずもなく、
彼も重騎士と同じ運命をたどった。
卵は普段は甲冑の重みもあり、鈍重でまだ馬車の中にいたのだが、
前にいた二人が盾になってくれたので、やり過ごすことができた。
周りにいた仲間も、馬車の前にいた他の仲間が射殺されるのを見て、
素早く身を翻し、馬車の後部に身を寄せ、
盾にするものあれば、近くの草むらへ素早く身を隠す者など、
第一射から少しだけ間を置いて放たれた第二射は、
不意を打たれてやられた者以外は、やり過ごすことができた。
第3射目までは統一性がある矢が、一斉に飛んできたが、
それ以降は不規則に乱れた多数の矢が、こちらに向かって飛んでくる。
だが、既に仲間たちは皆身を隠し、もしくは、仲間の死体を盾として扱っていたため、
第一射の時ほどの効果はなかった。
村の連中は隠れながら矢を放ってくるだけで、
売って出てくるような真似はしないみたいだった。
だが、かといってこちらの徴収部隊は、
飛び道具を持っている者が卵しかいない為、
おおっぴらな応戦もできない。
そして、その肝心な卵は、今的になる馬車から抜け出し、
近くの草むらに身を潜め、クロスボウを構え、応戦しようとしたが。
どうにも村の連中は隠れるのが上手いらしく。
薄暗く視界の悪い兜の中からでは、どこにいるのか判別できない。
そんな状況が数分間続いたが、
矢の雨は勢いを弱めることなく、適当に降り注いでいる。
先程の気さくな戦斧を握っていた重騎士が、いい加減に業を煮やしたのか。伏せていた草むらから立ち上がり、
無謀にも村に向かって突進していったが、
村になんとか、矢に体に突き刺されながらも、たどり着くと、
狂ったように怒声を上げ、戦斧を振り回したが、
それは虚しく空を裂いて、何一つ敵に刃が触れることはなかったが、
代わりに村人達は彼をハリネズミにしてあげた。
「なっ、言ったろ。」
急に卵の横から声がしたので、彼は伏せたまま、
声のする方に振り向くと、残念そうとも、
したり顔ともとれるような顔をした。
先程の軽装姿の仲間が近くに伏せていた。
気づけば、毎度毎度流血沙汰の戦闘しかないね。




