60話 詩人の村⑭
報酬は詩人をロストさせたら出すと言う話だったので、
卵等は一応本人の確認用に、詩人の死体からリュートを持って行った。
持ち主を亡くしたリュートには、悲惨なまでにその主人の返り血が付着していたが、
それもしばらくすると、まるで何事も無かったかのように消え去ってしまった。
ニッキとラヒムの奴らに報酬の取り分を渡すのは気が引けたが、
今更、隠し通すこともできないだろう。
仕方なく卵はその詩人が持っていたリュートを手に、
依頼をした雑貨屋の元へと向かった。
雑貨屋の前まで行き、静かにカウンター越しに立っていた店員に、
リュートを見せると、彼は静かに頭を下げた。
「・・・上手くやってくれたようですね。」
無表情とまではいかないが、
何処か平静を取り繕うとしているような顔で、礼をする店員に、
珍しく少し畏まって、シシャモが卵の脇から顔をだし
「・・・申し訳ないですが・・。よろしければ、こうも依頼が果たせた訳なのですから、何故。彼女をロストさせる必要があったのか、不躾ですが・・聞かせて頂きたい。」
と、静かに言った。
別に卵は依頼内容についてとやかく聞くことを、
組合の掟で許されていないような、傭兵組合の連中とも違う。
先程もシシャモは、何故こんな事になったのか聞いてきた。
単純な好奇心と言うよりも、何処かヒステリックである詩人の姿に対し、
恐怖と言う疑問を感じたせいだろう。
普段ならそんな積極的モノを聞きたがるようなシシャモではないが、
どうせ止めても後々面倒臭い事になると、予想できるので、
ここは聞きたいだけ聞けば納得するだろうと思い、
卵は何も言わずに、カウンター越しに少し身を乗り出した彼を見守った。
店員はそのシシャモの質問に、一瞬下げていた頭を彼の顔を見るために上げたが、
静かにシシャモの真剣な表情を見やると、少し俯き加減に話し始めた。
「・・・話せば、長くなります。」
「なら、止めろ。」
「ブス。茶化すな。」
切り出そうとした店員のチャットをニッキの奴が面白半分に、切ろうしたが。
シシャモが彼女をじっと睨みつけるので、彼女は思わず怯んで大人しくなった。
妙なやり取りを見て、少し店員は話すことに萎縮したが、
しかし、一度開いた口を閉じることは彼も嫌だったのか、話を続けた。
「先ほども・・・そこの鎧を着込みました方には言いましたが、彼女はこの村に残る唯一の詩人です。しかし、それもあくまで今日までです。」
「ロストさせたって、転生すれば帰ってくるだろう?」
「いえ、彼女は一度でもロストすればもう帰ってはきません。」
「どういう意味だ?」
どうにも店員のいう事がわからない。
あくまでこれはゲームである。殺しの依頼としたって、
それはあくまで嫌がらせの範疇を過ぎない筈だ。
シシャモも横で聞いている卵の二人はありありと顔に疑問の色を浮かべながらも、
店員の打ち出すチャット文を注視した。
「・・・そういう約束なのです、彼女とは。あのような人ではありましたが、そこら辺の約束だけはしっかり守ってくれるでしょう。例え血塗られた道を作った張本人であろうとも・・・。」
そう言うと、店員はぼんやりとカウンター越しに空を眺めた。
空はそこまで手の込んで描かれていない晴天が広がっている。
「信じてくれないとは思いますが、以前は私も詩人だったんです。『青の詩人』と呼ばれたものですよ。・・・今は名前も変えて、一切リュートを奏でて歌うこともなくなりましたが。」
「あんたさっきは、音楽のことはよくわからないと言っていたじゃないか。」
「音楽っていうのは感覚ですよ。私に言わせれば。詳しい事はよくわからないですがね。」
怪訝な顔で問うシシャモに店員は照れを含んだ笑みを返し、
カウンターに置いたリュートを手に取った。そして、慣れた手つきと言うよりは、
一応動かし方だけを知っているような少しぎこちない手つきで、
リュートを弾きだした。
洗練された音楽と言うよりは、突拍子もない即席の音楽と言えばいいのか。
だが、先ほど殺した詩人の奏でた曲よりとても明るく陽気ではある。
「彼女は私と違って色々考えて音楽を奏でる人だったのです。
私が音楽に飽きて、店を始めるまでは、一緒によくやったものですがね。
・・・いつからなんでしょうね。彼女は私が詩人に飽きてから、変わってしまったのかもしれませんね。私は詩人や芸術家の組合には所属しておりませんでしたから、辞めるのは簡単でした。」
店員、ではなく『青の詩人』であったキャラはリュートを弾きながら、
自分の打つ文を注視している二人など一切、眼中にないかのように、
またぼんやりと空を眺めて、続けた。
「私が音楽に飽きてから、少しずつ村で演奏していた他の詩人が減り始めたのですよ。先ほど言っていた村人が減り始めた推測は嘘です。あなた方が気分を害したら申し訳ありませんが、この件に関してはあなた方は余所者です。それに対しては理解してほしいのです。」
二人は何も言わなかったので、青の詩人はそのまま続ける。
「まぁそれからです。詩人が減ってきてから彼女は音楽の修行と言って、村をしばらく遠く離れました。音楽の修行と言っても私は彼女が何をしてきたのか詳しくは知りません。しかし、彼女と少々争ったあなた方ならわかるかもしれませんが、帰ってきた彼女は詩人としての技術以外の物を多く身に着けていたはずです。」
その青の詩人の発言に二人はよくわからなかったが、
後ろにいるニッキにはそれがなんとなくわかった。
路地裏で見せたあのナイフや、体を動かせなくする不思議な曲、
詩人ができる芸当とは思えない。
「帰ってきた彼女の腕前は以前と変わったかと言うと、私にはわかりません。それほど真剣にやってきたわけでもないのですから、当然かもしれませんね。」
と、店員は少し悲しそうな顔で皮肉のようなことを言った。
卵とシシャモはそれに対して何も言わなかった。
「彼女の腕前に問題があったのかどうかは知りませんが、問題の一つは彼女の曲を良く思わない、評論家気取りの連中が多く出てきたのがあります。まぁ長く続けていればよくある話ですが・・・彼女はその連中の評価を聞き流すことができませんでした。」
確かによくある話かもしれない。
青の詩人は、少し顔を渋くしながら続けた。
「まぁきっと、あなた方があの路地裏入っていくのは遠目で見ましたから、きっとあの箱の中身も見たのでしょう。あれは評論家気取りのなれの果てです。まぁゲームですから、転生してくるんですが、その転生先・・・と言ってもこの近くの転生地点は村の宿屋しかないんですよ。そして、彼女は執拗に転生した瞬間を粘り強く待って、何度も何度も連中をロストさせた訳です。」
青の詩人が奏でる曲は既に終わっていた。
「そんなことが何度も続くと誰しも気味悪がって、村から出ていきました。
あなた方が来るまで、彼女はずっと同じ場所同じ時間に曲を奏でていたんですが、それまであなた達以外、誰も曲を間近で聴いた者はいません。」
そう言い終えると、青の詩人はリュートをカウンターの上に置いた。
そして、最後に、
「彼女は何のために曲を奏でていたのでしょうね。」
と締めくくった。
何だか上手く〆る言葉が思いつきません。




