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Lamia?  作者: mo56
第1章 放浪にて
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51話 詩人の村⑤

 「なんだ、ありゃ?」

 「なんか俺らなんて一切眼中にないって感じだったな。」

 

 一旦背中を向けたものの、

吟遊詩人が今度は足早にその場を卵とシシャモよりも早く立ち去ってしまったので、

二人はその姿を眺めた。

 赤い衣服が路地裏へと消えていった。

 


 その後は、ほとんどキャラがいない村の中をしばらくうろつき回ってみたが、

特にこれといったようなものもなかった。

誰もいない民家に食料などを専門的に扱っているような出店、

酒場もあったが、中を覗けば客も勿論店員もいなかった。

そもそもキャラが、ろくに村にログインしていないのであれば当り前だろう。


 「本当になにもない村だな。」

 「ほとんど誰もいないからな。」


 吟遊詩人の歌が終わると、村はより一層静けさを増した。

二人は仕方なくその不気味さが逃れるように、

一旦先程の雑貨屋に向かうことにした。

他の連中は吟遊詩人が歌っていた広場から離れ、

村の入り口辺りに向かったらしい。

入り口というのは、

ログインする際の集合場所にもちょうどいいし、

村から出る際にも良いからだ。


 「あれ、お客さんまたきたんですか?」


 雑貨屋まで来ると、先ほどの店員がカウンターから顔を覗かせて、

こちらを見ている。

さっき代金を払ったせいか、

今度は商売人らしい笑顔を卵に向けている。


 「今度は何をお探しで?」

 

 手を揉んで愛想良い笑顔を向ける店員に卵は先ほど買い忘れた。

食料やクロスボウのボルトなどを注文することにした。

案の定通常の価格より大分上乗せしてあったが、

背に腹は代えられないと仕方なく、

銀貨袋から銀貨を取り出し数枚支払った。


 「お客さん、良い買い物しましたよ。」


 笑顔で店員は購入した品物を渡して、

今後ともご贔屓ひいきにと手を揉んでいるが、

卵は二度と来るものかと内心毒づいた。

しかし、そうは言っても購入したボルトの質は以前使っていたものよりも、

それなりに上質なもののようで、

値段相応なものも少なからずあった。


 

 画面の前で井出は缶コーヒーをまた啜り、

今後はどうしようか考えていた。

とりあえず卵自身の消耗品は、

食料やクロスボウに使用するボルトなど、とりあえず補充できた。

共に行動しているシシャモはさほど物に困っていることはないようで、

雑貨屋では何も買わなかったが、気になるのは他の連中だ。

そういえば、先日から同行しているバックスとニッキの二人は、

ずっとみすぼらしい衣服を纏っているが、

いい加減に装備を変更したりしないのだろうか。

何も卵のような甲冑を身につけろとは言わないが、

身軽とはいえ外見がどうも乞食のようなものでは、

同行するこちらとしても、気分のいいものではない。

 だが、それはあくまで個人の意思であるし、

たかだか同じ護衛依頼を引き受けた者同士の間柄で、

個人の装備をどうこう言うのも気が引ける。

 どうしたものかと、シシャモにチャットを飛ばすと、

彼はバックスはともかくとして、

ニッキの方は、あれは肉体兵器とも言えるようなプレイスタイルであるから、

必要ないだろうと皮肉を込めた笑みを見せて言った。



 「・・・ねぇ、なんで今日も聴きに来てくれなかったの?」


 不意に卵とシシャモの背後で、チャット文が表示された。

何処となく不気味さを感じる文体に思わず振り返ってみると、

雑貨屋の前に先ほどの赤い衣服を纏った、吟遊詩人が立っていた。

吟遊詩人はただ純粋に問いかけるような口調だが、

それは異様に冷たい色が、

先ほどの彼女自身が奏でた曲のように響いた。

 カウンター越しには店員が立っている姿が見えるが、

先程の商売相手に対するような笑顔は見えなかった。


 「仕方ないだろ。私には店があるんだ。」

 「客なんていつも来ないじゃない。」


 店員の男は当然の様に言い放ったが、

吟遊詩人の女は静かにそんな男を睨んで返した。


 「来たさ。ほらそこに立っている二人組さ。」


 店員は女の睨みに少々怯んだのか、

少し声音を弱くして、

今まさに振り向いた卵とシシャモを指差していた。

振り向いてから突然指を差され、二人は面を食らったが、

どことなく緊迫した雰囲気をかもし出す店員と吟遊詩人に、

文句の一つも出てこなかった。


 「嘘なんて聞きたくないわ。」

 「嘘じゃないよ。本当に品物を買っていったんだ。」


 そう言うと彼はこちらに手招きをしてきた。

どうやらここで品物を買った事を、

証明してほしいみたいだった。

店員と吟遊詩人のどこか異様な雰囲気の場に、

行きたくはなかったが。

立ち去るのも何処か後ろめたい感じがして、

仕方なく雑貨屋のカウンターまで戻ってきた。


 「本当にここで物を買ったんですか?」


 すると彼女は二人に静かに聞いてきた。

どうしたものかと二人は一瞬顔を見合わせたが、

何も隠す必要もないだろうと、

卵は購入した品物を素直に見せた。

 しかし、それでも女の疑り深い表情が消えることはなく、

甲冑や戦闘用のピックなどで武装している、いかつい卵に対して、

怯むことなく疑惑の目を向けてくる。


 「本当のようね。」


 と卵の購入した品物を眺め終わると、

女は納得したように溜息をついて、

店員の方を振り向いた。


用が済んだのなら、自分たちはもういらないだろうと、

今度こそ二人は雑貨屋からさっさと立ち去ろうとしたが、

何故だか店員がこちらに対して、

あわれみを求めるような眼で見てくる。

そんな目で見られてもどうしようもないと二人は困惑するが、


 「頼むから、そばにいてくれませんか?この女何をしでかすかわかったもんじゃないんです。」


 と店員が悲痛な声音で、

専用チャットを二人に飛ばしてきた。

それでもなお興味の無い顔をして二人が立ち去ろうとすると


 「お願いします。もし傍にいてくださったら、先ほどの代金返しますから。」


 とチャットを飛ばしてきた。

シシャモは呆れたが、

卵はくるりと進行方向を雑貨屋に変えて戻っていった。


 一体この吟遊詩人の女の何を恐れているのか、

卵は知る由もないが、

あれだけふんだくられた代金を返してくれるというのなら、

悪い話ではない。

そこまで信用できた話でもないが、

現実の金を失った訳でもないし、ゲームの中で騙されたとして、

なんの損失があるだろうか。

店員に言われた通りすぐ傍らというのは不自然だが、

雑貨屋近くで二人のやりとりがよくわかるように、

近くにあった木箱の上に腰を下ろした。

 先ほどの客がまた立ち去ろうとして戻ってきたのを見て、

吟遊詩人の女は卵に対して怪訝な顔をしたが、

すぐに視線を店員に戻した。


 「ねぇヤコブ。あなたはこのままでいいの?」

 「このままってのどういう意味だ。」


 女が『ヤコブ』と呼んだ店員は、

落ち着き払ったようにカウンターの品物を整理しているようだが、

内心酷く動揺しているのは先ほどのチャット文でよくわかる。


 「ずっとこの村にいるか、という事よ。」

 「別にいいじゃないか、そんなの私の勝手だろう。」


 二人は親しい間柄なのか、

それからなにやら込み入った話を続けていくが、

そういう会話は専用チャットで、

やればいいのではないかと卵は疑問に感じたが、

 どうやら無理に周囲にわかるチャットの形態で、

店員が話したいようだった。

その証拠に女が静かに話しましょうよと、

専用チャットを使おうと持ちかけると、

店員はすぐさまこのままで構わないと、そこだけは語気を強くして答える。

どうやら彼は卵のような第三者に自分らの会話を、

聞いていてほしいようだった。

それが何を意味するか分からないが、

井出は少々安受けしない方がよかったと、

今更になって少し後悔し始めていた。


少し涼しくなってまいりました

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