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Lamia?  作者: mo56
第1章 放浪にて
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46話 一日

 睡魔は心地よくやってくるものだが、

その結果必ずしも目覚めが良くなるわけではない。

大分遅くまで起きていたこともあって睡眠時間はあまり取れず、

井出の目覚めは最悪のものとなった。

だが、いくら眠かろうとアルバイトを休むわけにもいかない。

ここ最近の景気で長い時間のシフトを取れているだけでも、

有難いと思わなければならなかった。


 またいつものように眠たい目をこすりながら支度を済まし、

バイト先へ赴く。

安アパートからバイト先への往復で一日が終わってしまうが、

別に井出はそれで満足していたし、

それ以上求める気など会社を辞めさせられてから全く起こらなかった。


 アパートを出てバイト先へと向かう途中、

登校中の学生の一団が反対側の道を歩いてくる。

様々な話題で賑やかに楽しく話しながら歩いている姿を尻目で見ると、

学生の頃が異様に懐かしくなってくる。

あの中に小林も混じっているのだろうか、

昨晩いきなりログアウトしたことに、

文句の一つでも言ってやりたい気分にはなるが、

眠くて真っ先に心の中でログアウトしたがっていた自分が言うのも図々しいと考え直した。


 そうこうするうちに学生の一団の後ろから小林が見える、

図体の大きい彼はよく目立った。

登校中の姿を見ることは滅多になかったが、

確か大体いつも一人で登校していたような気がする。

だが、何故だか今朝の小林は横もう一人連れて歩いていた。

見るからに不良というものか『チャラい』と言うべきか、

茶髪にピアスと他の学生たちとは違う異様な雰囲気を出しながら、

それとは対照的な小林と肩を並べて歩いている。

何やら軽い口論をしているようだが、内容は聞き取れない。

しかし他人の口論を盗み聞きするというのも下衆な気がしたので、

井出はそのままバイト先へと向かった。



 「なんで昨晩ログインしてなかった?あぁ?」


 小林よりも頭一つ分程度小さいが、体は頑丈な筋肉に包まれている。

喧嘩で鍛えたと本人は言っていたが、

一体どこをどうしたらこうなったのだろうと小林は疑問だった。

そんな米山が若干口調に怒りを含ませて聞いてくる。


 「え・・ね・・眠かったから」

 「眠かったじゃねぇよ。危うくお前の仲間殺すとこだったぞ、糞が」


 小林にとって睡眠はとても重要な問題ではあったが、

米山には理解してもらうことができなかった。

ここのところ大分遅くまでログインしている日が多かったので、

さすがに昨晩は寝たかったのだ。

学生なら平気で徹夜だってできるものと思われがちだが、

個人差はあるものだ。

だが、わざわざログインして森の中を彷徨って、

そこまででもなかったが森賊との戦闘での危険を冒し合流し、

それで誘った張本人が不在というのは米山自身許せるものじゃなかった。


 「いいか?今日は俺より早くログインしろ。いいな?」

 「・・・わかったよ。」


 先ほどより一層強いガンを小林に飛ばして米山は念押しした。

そこまで言われたのならば、今日のログインは急がなくてはならない。

そうでもしなければ次の日はガンでは無く拳が飛んでくる気がした。



 気怠い感覚に身を任せながら、汚くあたりにゴミが散乱している部屋の中で、

薄い赤色をしたジャージ姿の物体が蠢いた。

少し開いたカーテンから差し込む光が蠢く者に対して、

朝だと半ば強制的に告げている。

その差し込む光を睨みつけるように、

カーテンより濃いボサボサに伸びた髪の奥から、

黒い瞳が覗いた。吉沢だった。

 重い体を動かして部屋の中を見回すと、

暗い部屋の中で唯一パソコンのモニターだけが光っていた。

電源を消し忘れたのではない、普段からこうなのだ。




 バイト先へ到着しそのまま着替えて仕事を始める。

仕事の時間はそれなりに長いが、

単調な仕事の連続は時間の経過を早く感じさせるもので、

今日も今日とて特にこれといった事も無く過ぎていった。


だが、そんな一日がいつまで続くかはわからない。

親も金も無限では無く、有限であり、そしてそれが無くなるのはそう遠い未来ではない。

そう考えると井出の背筋は寒くなる。

未来への絶望と無気力さが、

自分に襲いかかってくるような気持ちになるからだ。

そのことについては極力考えないようにしている。

考えてどうなる、悩んでどうなる、それで解決する問題ではないのだ。


 少々憂鬱な気分になりながらもシフトの時間が過ぎて、

井出は帰り支度を済ませて、コンビニを出た。

辺りは夕暮れに照らされて赤く染まって、

悲しい気分と夕暮れは相成って何とも言えない感傷的な気分になる。

それを必死に忘れようと井出は、

できる限り力を込めて安アパートへの道を踏み出した。


「あれ?井出さん」


 不意に帰宅途中の少々憂鬱な気分を払拭できない井出に、

誰か声をかけた。ゆっくり振り向くと、

下校中であろう小林と今朝一緒にいた例の茶髪がいた。

さらに小柄で細身な男子生徒も混じっている。

 少し元気がない声で井出が「おう」と返事をすると、

3人こちらに寄ってきた。


 「昨晩はどうもすいませんでした」

 「・・・気にすんなよ。俺だって眠い」


 先にログアウトしたことを小林が軽く頭を下げて詫びた。

そんな図体の大きい小林が詫びる姿を見て、

少し距離を取った茶髪と小柄な男子生徒は少々訝しげに見ている。

それから少し話すと小林は2人のもとへ戻ってきた。


 「アイツ誰だよ?」


 米山が訝しげに小林に聞く、

図体は小林ほどではないがなかなかの強面だ。

どこぞのヤンキーかもしくはヤクザかもしれないと踏んだ。

だがそう危惧した米山の考えとは裏腹に小林は「君が昨晩蹴った人だよ」

とさりげ無く答えた。

それに対して米山は「あぁアイツか」と納得したような顔になったが、

その横にいた長谷川には何のことだか全くわからなかった。



 井出が安アパートに着く頃には辺りは薄暗くなっていた。

そして、その時になって初めて、

今晩の弁当を買うことを忘れていた事に気付き後悔した。

だが今更悔やんでも遅い、

わざわざ売れ残りの弁当を買いに戻るのも図々しいと井出は思い、

仕方がないので昨日冷蔵庫を覗いて確認した、

賞味期限の切れた肉などを料理しようと考えた。

きっと火を通せば食べられるものにはなるだろう。

別にそこまで料理ができないわけではないし、

井出はその時は楽観的に考えていたが、

それはあまりに愚かな事だったと気づいたのは食べたあとだった。


 風呂も済ませて、パソコンを点け、

軽く焼いた肉と食パンの食事を済ませるまでは良かった。

だが、すぐに強烈な腹痛に見舞われた。

薬を飲んで便座に小一時間程座って用を足してなんとか具合は良くなってはきたが、

今度から二度と賞味期限の切れた物は絶対に口にしないと、

井出は腹痛に顔を歪ませながら、何度も心の中で呟いた。


 こんな調子でゲームをするのは若干無理があると感じたが、

横になってもすぐに腹痛が消えてなくなるわけでもないので、

意識をゲームに集中すれば多少は痛みも感じなくなるだろうと、

だがそれも後で少々後悔する結果になるのだった。



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