表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Lamia?  作者: mo56
第1章 放浪にて
45/149

45話 ユエ

意識しているのはラヒム本人だけで、

彼女は全く彼の事など意識していないものとばかり思っていたので、

今の発言は不意打ちに近いものがあった。

別に片思いという訳でもなかったらしい、だが本人に告げれば調子に乗ると思った。


 「あいつなら先にログアウトしたよ」

 「いつ・・ログインするかわかりますか?」


 それはわからないと卵は答えた。

実際彼は睡魔に負けたのか、

ログアウトすることだけを告げてログアウトしてしまったのだ。

確か明日は金曜日だったはずで学生なら学校があるだろう。

とすれば、ログインするのは必然的に夜になるだろう。

昼間からログインしてきたのなら彼の人間性を疑うところだ。


 「そうですか・・じゃあ私ラヒムさんがログインするまで待ってます。」


 『待つ』 一瞬その発言に卵は目をパチクリさせた。

それは一旦ログアウトして時間を見て再度ログインして待つということなのだろうか、

それともまさか、ずっとログインしたまま待つということだろうか。

普通ならば前者であろうが、ユエが一旦小屋の中に引っ込んで、

椅子にゆったりと腰掛けたところを見るとどうやら後者らしい。

小屋の中で一体何があったのかはバックスの方から話を聞くまで知らなかったが、

彼が言うには横に立っているニッキという大女が大暴れした結果らしい。

森賊共の遺体は既にロストして無くなっていたが、

あたりに一面に散らかったテーブルであったものや陶器の破片が、

先程の戦闘というよりは一方的な殺戮の凄惨さを物語っている。


 「待つ?待つって・・・その場でですか?」


 ユエの行動に呆気を取られてバックスが彼女に近づいて聞いた。

それに対して彼女は当然というように首を縦に振る。

これは酷い廃人だと卵達は小屋の外で呆れたようにため息をついた。

別にずっと昼夜ログインしているような廃人プレイヤーを見るのは初めてというわけではないが、久しぶりに見た。

一応そんなプレイヤーは追い剥ぎ組合にもちらほら見かけることがあった。

いや、寧ろ追い剥ぎ組合だからこそなのかもしれない。

獲物となるプレイヤーが通り過ぎるまで長時間待っている場合もあるのだから、

時間のある追い剥ぎは時としてとても長い時間をこのゲームに投入することがあった。

別に他人の事など口出しするほど井出も立派な人生を送っているわけではないが、

ただ一つ言えることは何も体を壊すほどやるようなゲームではないということだった。


 「本人が待つって言うならそうしてやればいいだろ」

 「馬鹿言うなよ、依頼対象だぞ。」


 そうシシャモに諭されて卵は黙り込んでしまう。

もういい加減眠かった。流石にこれ以上はついていけない。

とっくに日付は変わっている。

そう思うと少々イラついてくるもので、

卵は小屋の中でたたずむユエに、

頼むからログアウトしてくれないものかと持ちかけた。

だが、どうも彼女は首を縦に振ってくれない。

次第に言うことを聞いてくれないユエに対して卵の口調が荒くなっていき、

シシャモが心配になって止めに入るが、卵の勢いは止まらない。

終いには彼女の目の前まで歩んでいき、

最終通告とばかりに怒鳴りながらログアウトを頼んだ。


 「嫌です」


 だが、彼女から帰ってきた返答は冷たかった。

このまま彼女をほおってしまえば転生などをした森賊に襲われかねない、

その森賊に対して彼女が対応できる程の力を持ち合わせているだろうか、

否、そんな力はユエには全く無い。それでも待つと意固地になっているのはそれだけラヒムが待ち遠しいということか、どうやら夜が長くて少々気がおかしくなっているらしい。

ここは少々荒療治が必要だと卵は思い、腰の戦闘用ピックに手を伸ばした。


 ピックを何に使うのか一瞬背後から見ていたシシャモは当惑したが、

卵のことについてそこそこ理解のある彼は落ち着いて見守る事にした。


 彼がピックを手に携える姿を見て、ユエは今までの意固地な態度を改めるしかなかった。

姉に助けを請いたかったが、現在どこにいるのかも分からなければ、

連絡もできない。ピックを携える卵の表情は甲に隠れて見えないが、

荒い息遣いから察するに相当怒っているようで、

ユエは仕方なく今晩はログアウトすると頷いた。

彼女がログアウトすることがわかると卵は深呼吸してピックを腰に収めたが、

その仕草を見たユエは、

護衛者として雇った彼らの方が襲撃してくる者よりも遥かに凶悪に見え、

より一層同じぐらいの身の丈であるラヒムへの親しみを感じるのだった。



 一時はどうなるかと思ったがこれでログアウトができると、

画面の前で井出も深呼吸した。

そして、落ち着いて明日の集合時間と段取りを素早く決め、

手馴れた動きでログアウトの操作をする。

今いる現在地から離れてログアウトしてしまったラヒムには、

明日にでも小林にメールで現在地を知らせ来てもらうこととした。

きっと明日の晩には陰鬱な森からも抜け出せるだろう。

抜け出せば後は草原地帯が広がっていて、

森と比べれば遥かに見通しもよく追い剥ぎなどの襲撃も比較的しにくい。


追い剥ぎ組合に所属している卵が追い剥ぎの心配をするのも滑稽な話しだが、

時には組合に所属していないフリーの野盗や追い剥ぎなども存在する。

彼らは元々善良な旅人や一般市民のようなキャラであったが、

何か不幸なことがあったか路銀でも尽きたかで盗賊などになった連中だ。

それに一度でも他のキャラの物を奪ったり殺したりすると、

中々抜け出せなくなるもので、その点については現に自分がその類だと、

自覚のある卵にはよくわかる。

その追い剥ぎ行為が常習化して、

群れたくなってくる奴が集まるのが追い剥ぎ組合であり、

やはり卵もそんな理由で所属した一人でもある。


 

 現実で言えばまさに愚図の集団とも言える。

ログアウトしてパソコンの電源を切った井出は、

すぐに寝床に転がり込んで、ふとそう思った。

だが、その集団はあまりに暴力的で背徳的あるからこそ、

大勢のプレイヤーが集まり、盛況している。


やはり皆ストレスなどの捌け口が欲しいのだ。

ストレスの発散について誰しも形は違うが、

ある意味その形自体を皆欲しがっている。

このゲームだけに言えた話ではないが、

このゲームはその発散方法をいびつな方法で数多く提供している。

殺人・放火・略奪・・・挙げれば暇がない。

先程意固地にログアウトしたくないと言ったユエはまだ綺麗な方だろう。

だが、何事もそうだと思うが、のめりすぎるのは良くないと井出は思う。

あくまでゲームはゲームであり現実は現実だ。

だが、時に長くプレイしているとそれが曖昧に感じてくる奴がいる。

それはとても危険な兆候ちょうこうであり、

下手をすると戻ってこれなくなるやつも、こんな時代多かれ少なかれいるものだ。

長い時間魔術の鍛錬に精を出しているサンマもその類なのかもしれないが、

今度会ったら程々にした方がいいと忠告したほうがいいかもしれない。


 そんなどうでもいいことを考えながらうつらうつらしていると、

睡魔は心地よくやってくるのだった。


最近更新ペースが落ちてきて誠に申し訳ないのです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ