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Lamia?  作者: mo56
第1章 放浪にて
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44話 小屋の前

果たしてこのゲーム内に俗で言う『弁慶の泣き所』と言われるような急所が、

設定されているかどうかは知らないが、

どちらにしろ、とても痛かったに違いない、

彼女は鬼のような形相でこちらを睨んでいる。

それに対してシシャモは慌てることもなく、じっと槍を構えたまま動じなかった。

今まで何度もこういう手合いの相手をしてきたのだから、何も恐れることはない。

それにドアを蹴破ろうとして目の前にいる大女に吹っ飛ばされた卵は、

甲冑の装甲のおかげで大きな怪我をしたわけでもなく、

少々辛そうなうめき声を上げながらも立ち上がる姿がシシャモの目に入った。


「畜生、痛いじゃないか。」


少しすねが痛むのか軽く大女は手で怪我をした箇所をさすると、

憎々しげにこちらを睨んで、丸太のように太い2本の腕をこちらに向けて構えた。

咄嗟にシシャモは大女に穂先を構えつつ、

あの腕ならきっと先程目にした遺体の様な事を簡単にできるだろう と思った。

峠で戦った図体のデカイ騎士と同じぐらい厄介な相手だと、

シシャモは顔を少々渋くしながら槍を強く握り締めた。


 大女は顔を怒りに真っ赤に染めて、殴りかかってきた。

一本でも己の体に彼女の指が触れれば簡単に肉を持って行かれそうで、

冷静に己に素早く伸びた腕に突きを加える。

穂先は丸太のような腕の表皮を剥ぎ、赤い筋肉が傷の隙間から覗き始める。

本来ならば串刺しにしてしまいたいが、素早く振るわれる拳がそれを阻んでいた。


「殺してやる」


 と拳を振るいながら叫ぶ大女の猛攻を躱しながら、

シシャモは彼女の背後に目を凝らすと、

シシャモの目には先程地面に叩きつけられた卵が、よろよろと立ち上がり、

大女の背後からピックを構えてゆっくりと近づいてくるのが見えた。

彼女も顔を怒りに歪ませているが、卵も負けず劣らずだろう。

だが、彼の不意打ちが成功することはなかった。

卵は大女の背後にあと数歩までの距離まで近づいたが、

彼の気配に気付いた大女に振り向きざまに回し蹴りをくらい、

また吹っ飛ばされるような形で地面に叩きつけられた。

まるで虫が潰された時のような小さい悲鳴を上げて卵は地面に突っ伏した。

そして、大女の意識が卵にいった隙にシシャモは頭を目掛けて槍を繰り出しす。

槍の穂先は正確に大女の卵を蹴り飛ばし少々気分をよくした顔に、

突き刺さるものかと思われたが、


「やめてください」


 急に大女の背後から静かではあるが、腹に響き渡るような声が響いた。

何処か聞き覚えがあるその声に、思わずシシャモは穂先を引っ込めて間合いを取った。

大女も慌てて彼から距離を取る。

卵はよろつきながら立ち上がり、バツが悪そうにシシャモと同じように、

今の声を発した人物を眺めた。


 声の主は小屋の入口に少々気弱そうに立っていた。

ボロ切れを纏い、やせ細った体を小屋の戸に預けてこちらを見ている。


「バックス?お前なんでここに?」

「名前を覚えていてくださるとは光栄ですね。」


 静かな顔でバックスはシシャモと卵の二人を見ていた。

峠以来の再開だが、確かユエを連れているはずだ。

多方森賊に捕まったのだろうが、それにしてもこの大女を一言で鎮めてしまうとは、

一体どういう事なのだろうか。


「・・・そいつは誰だよ?危うく殺されかけたぞ」


 2回も甲冑を着込んでいたのにも関わらず吹っ飛ばされ、

少々情けない気分になっている卵が言った。

井出はここまでやられたのは久しぶりだと思った。

大女は力だけで重装の卵を蹴り飛ばしたが、

其処ら辺のキャラにできる芸当ではなく、

それなりの技術があるプレイヤーであることが感じ取れる。


「元部下・・・と言ったところだな」


 少し照れくさそうに戸に寄りかかっているバックスの横からユエが顔を覗かせた。

それを見て二人は目を丸くする。

多少の怪我を負ったものの依頼条件であるユエが見つかったのだ、

もっと時間がかかるものとばかりに考えていただけあって有難かった。



 画面の前で井出は一体何が起こっているのか全くわからなかったが、

これまでの事情を親切にバックスが話してくれた。

そのチャット文に目を通しながら、井出は少し背伸びをした。

どうも細かい文字を長い時間凝視するのは疲れるものだったが、

なんとか読了した。

バックスの言う通りならば、彼女は護衛依頼の仲間だということだ。

肝心の彼女を誘った張本人であるラヒムが、

先に無責任にもログアウトしてしまったので困ったが、

その点はこちらもバックスに事情を話し納得してもらった。


「いやぁ悪かったね。いきなり蹴られたもんで切れちまってねぇ。」


 それなりに申し訳なさそうな顔をして彼女は卵に詫びた。

まぁ元はといえばこちらから先に仕掛けようとしたのだから、

彼女を責める訳にもいかない。

と言っても甲冑を着込んだ卵を蹴り飛ばすとは、

一体どれほどの筋力を備えているのだろう。

もし、途中でバックスが出てきてくれなかったら、

シシャモ共々ロストの憂き目にあったかもしれない。

護衛者としては心強いが機嫌は損ねないほうがいいなと卵は思って、

こちらこそ悪かったとお互い詫びを入れた。


「それにしても助かった。彼女を保護していてくれていたとはな」

「保護?あ・・・あぁ勿論。」


 シシャモが軽くバックスの肩を叩いた。

てっきり森のどこかで適当にユエを殺して身包みを剥いで、

どこぞへとんずらしているものだと思っていたからだ。

保護という単語に少々引っかかった様子ではあったが、

すぐに平静な顔になって、ユエを小屋から連れ出した。

どうにもユエ本人は無骨な男と女に囲まれて落ち着かないらしく、

森賊から解放されたというのに、怯えたように始終目を泳がせている。

やはりラヒムの様な同じ目線のキャラがいたほうがいいのだろうか、

彼女にとってみたら森賊も卵達も然程変わらない存在なのだろう。


「それじゃあ、この陰気な所からもおさらばだな。依頼条件も果たしたしな」

「あぁ、いい加減 日の光を浴びたいぜ」

「ゲームの中でか?引きこもり野郎」

「うるせぇ」


 シシャモと軽く冗談を交わしながら、早速ユエを引っ張っていくことにした。

『ニッキ』と言う名の大女と細身のチンピラ『バックス』を引き連れ、

護衛者とも合流できたし、あとはバストロクを目指すだけだ。

森を出たら今度こそログアウトしてしまおうと井出は思った。

時間は既に深夜をまわり1時になりかけている、

森の中での探索に時間をかけすぎた。

さぁ急ごうと皆を急かしながら卵は一歩踏み出そうとした。

だが、その一歩は何故だか後ろから引っ張られる力のせいで踏み出せない。

何だろう と後ろを見ると、

ユエが卵の引く手を力いっぱい持って踏ん張っている。


「どうしたんだ?お嬢さん」


 とできる限り依頼条件だということもあって、

卵は腕を引っ張らずに彼女の目線まで腰を低くして聞いてみる。

横からシシャモが卵の滑稽な様にクスクス笑っている声が聞こえるが、

今は無視した。


「ラヒムさんは?彼はどこなの?」


 とユエはとても不安そうに卵を見つめた。


西瓜も美味しい季節ですね。

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