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Lamia?  作者: mo56
第1章 放浪にて
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3話 お勤め②

 

 追い剥ぎ仲間がログインしたことに気をよくした井出は、

もう缶コーヒーはいらないと、

それ以上プルタブを捻ることはなかった。

とは言っても、もうすでに3本ほどPCの横に空の缶が転がっている。

しかし、それは今晩の分だけで、

スタンドライトの光に照らしてよく見れば、

7~8本ほど転がっているのも見える。

 井出は短気でさらに面倒臭がりでもあり、

そのような悪癖がきっと今の彼を形成しているのだろう。


 「・・もうどのくらい待っているのですか?」


 不意にずっと道の傍らに伏せていたラヒムが、

顔を男に向け個人用チャットを飛ばし尋ねた。

 顔には緊張によるものか冷や汗が吹き出ている。

ラヒムは獲物である通行人に男が矢を放ち、

命中させた場合死んでいるかの確認や、

もしくはトドメを刺す役の為できる限り道の傍らのすぐ近くで、

隠れている必要があった。


 「大体40分程だろ」

 「そんなに・・ですか?」


 ラヒムがどこか不平じみた色のある台詞を、チャット欄に挙げる。

待つことに対して井出は短気ではあるが我慢強かった。

特にこの「Lamia?」で我慢するなら、

何時間でも待てるような自信だってある。

待った分だけ上手く仕留めた時の達成感は、

高まるのだから尚更だ。


 「12時まで待てよ、嫌だったら落ちてもいいぞ」

 「本当ですか?」

 「あぁ ただし獲物が来たら俺のもんだからな」

 「・・・・」


 そう打ち込むとまた会話が途切れ、

ラヒムは諦めたようにまた地面に突っ伏し、

通行人が来るのを待つことに専念した。

 何か用事があるのなら必ず報告してくるような奴だ。

きっと、ただ単に眠たいのだろう。

別に寝たければ寝て明日に備えれば良い。

 多分ラヒムのユーザーは、俺よりまともな人生送っているのだろうと、

井出はふとぼんやりと思った。

 OFF会でもすれば顔でも見る事ができるのだろうが、

面倒だしわざわざする気はない。

 別に、今までユーザー自身について気になった事が無いといえば嘘になる。

現に哀れな通行人を仕留めた後は死体を漁って、

物品や装備を剥いだりするが、

 その際たまに通行人の死体を見て、

そのキャラクターが如何に、

作りこまれたデザインをしているかを見れば、

実際そのキャラクターを使いプレイしていたユーザーが、

どんな顔をしているのか気になるのは、

ある意味自然の流れだと井出は思っていた。


 この前殺した通行人は薬草組合に所属せず、

単身で野草採取に来た女だった。

 これといった武装もしていなかったが、

男が放った矢を軽いステップで回避した動きから見て、

それなりの場数を踏んでいるようだった。

 しかし男が襲撃に失敗するのを見て、

傍らの茂みから襲いかかったラヒムに、呆気なく刺されたのだから、

場数を踏んでいるとは言え、所詮それまでの実力と言えた。

 近づいて死体を眺めると、

それなりによく作りこまれ綺麗な整いをした顔が、

所々刺された箇所から溢れる血に汚れていた。

 装備を漁るとその女の名前がわかったが、

とてもじゃないが、書くのが恥ずかしい痛々しい名前だった。

顔のグラフィックよりも、名前の方にもう少し力を入れれば良かったなと、

ラヒムが愉快そうに笑ってトドメを刺したのをよく覚えている。

その時は結局、功績があったラヒムに、

手に入れた物品はほとんど流れた。


 次こそは外さないように気をつけたい、

あの時は的が小さすぎた。女は細すぎる。

 できれば男のほうが有難い。

甲冑も着込んでいればさらに良い。

甲冑を着込んだ奴は動きが鈍るし、

クロスボウは大体の甲冑の装甲を貫通して殺すことができる。

 わざわざ集落から遠く離れたこの森へ、

重装備で訪れるような奴だなんて、

素人だと相場が決まっている。

逃げるにしろ早く移動するにしろ、軽装の方が良いからだ。



 男からの視点では中々道の奥までは見ることができず、

すぐ道の傍らの茂みに潜んでいる、ラヒムの目が頼りになる。

 一番獲物に近づき、返り討ちに遭う可能性も、

男よりはるかに高い役なのだから、

緊張しているのも当たり前なのかもしれない。

 だが、ラヒムもそれなりの場数を踏んでいる。

 そもそも荒事専門の組合が彼の前身なのだから、

こういう類には慣れていると思っていたが、

ラヒムはよっぽど臆病な性格らしい。

 武者震いか怯えなのかはわからないが、

先程からずっと震えているラヒムが、

こちらに急に顔を向けた。

 油汗や緊張によって顔が歪んでいるが、

口を必死に歪ませながら、

笑った形を作ろうとしているところを見ると、

どうやら通行人が来たらしい。

 そう察すると自然とクロスボウを握る腕に力がこもった。


 「来ました 左から・・・・一人」

 

 チャット欄にラヒムの報告が表示され、

彼は腰に差した短刀に手を伸ばし、

ゆっくりと音を立てないように引き抜いた。

 男も視線を左に集中しクロスボウを構える。

ラヒム程ではないが、男もこの時ばかりは、

彼同様の冷や汗を滲ませ緊張に顔を歪ませていた。

 それは画面を前にする井出も同じで、男ほど切羽詰まってはいないであろうが、

それなりの渋い顔をして画面に集中していた。


 ラヒムの報告からしばらくすると、

道の端からぼんやりと通行人が姿を現した。

 遠目であるのと、森の暗さが相成って、

正確には視認できないが、通行人は比較的軽装な部類に入ると思った。

 どの程度の性能があるかまではわからないが、

通行人は動きやすい革鎧を身に付け、

背中には自身の身の丈より少し短い程度の長剣を背負っていた。

 通行人の足取りは軽く、軽装の為歩が速い。

しかも華奢な体をしていて、

また当てにくい奴が来たと男は舌打ちをした。

 しかし、何度もラヒムの奴に獲物を取られるのも癪に触ったし、

何より普段の段取りでは、先に男がクロスボウを放ち、

獲物の動きを封じるか鈍らせることが目的なのだから、

とりあえず放たなければ始まらないと、

男はクロスボウの先端を、

比較的当てやすいであろう通行人の胴体目掛けて放った。

 乾いた音が森の中に響き、

緩い放物線を描き飛んだ矢が、

通行人の脚にぶすりと嫌な音を立て突き刺さった。

 通行人は一瞬何が起きたか理解できず、

その場に立ちすくんで悲鳴をあげたが、

その悲鳴は手はず通りに、

傍らの茂みから襲いかかったラヒムの奇声に遮られた。



 奇声と肉を裂く音が一通り終わって、男が道へ確認しに出ると

 ラヒムがまだ息を整えることができず、

若干過呼吸になりながら肩を震わせ立っていた。

 その横には哀れな通行人が倒れている。

 残念なことに、通行人が着込んでいた革鎧は、

ラヒムの短剣には対した効果がなかったようで、

あちらこちら、突き刺され斬られた痕が見えた。

 そしてもっと残念なことは、

もうボロボロになってしまった革鎧は、

大した価値が無いということだ。

もう少しラヒムが丁寧に仕留めていれば、

価値はさほど下がらなかったかもしれないと思うと、

男は少し恨めしい顔で彼を睨んだ。

 しかし、ラヒムはそんな男の意思と反して、

如何にも仕事をちゃんとしたかの様な笑顔で、

息を切らしながら返してきた。

 井出はなんとなく彼が傭兵組合を辞めた。

いや「辞めさせられた」理由がわかる気がした。


 けれども楽しいのは彼だけではない。

男もこれから哀れな通行人の持ち物を拝借することに関しては、

とても胸が踊った。


不定期ながら続きます。

何かご指摘ありましたらよろしくお願いします。

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