27話 負け犬騎士
※前回の話を何度か確認するうちに入力ミスで千文字近く入力されていなかった点についてお詫びいたします。
申し訳ありませんでした。その入力できなかった千文字はこの話でちゃんと入力しましたのでご心配はいりません。
こちらの怯えを感じ取ったのか、団長の斬撃は次第と激しさを増してきていた。
頭の中では逃げ出したい気持ちが膨らみ、自然と腰が引けてその隙に付け入られてしまう。
もういいじゃないかとニッキは諦めたくなる、あくまでこれはゲームであって現実ではないのだ。
仮にこれが現実だとしてもこんな状況で逃げ出して非難されるだろうか、否 そんな事はないはずだ。
褒められることではないがいったい誰がどんな顔をして自分を非難しようか、まずは自分の保身に走って何が悪い、自分にはまだこれからこの世界をこのキャラで味わう未来ってものがあるのだからもう既にロストしかけている煩い女など見捨てるべきだと米山は自己完結させた。
「それでさ・・あなたって彼女とかっている?あぁゲームでも現実でもいいけどさぁ・・」
こんな風に横で先程黙れと念押ししたのに、また変な世間話を始めているのだ。
まるで危機感が伝わってこない、それより本当のところ彼女は元気ではないだろうか。
いや、間違いなく元気だ。きっとダメージは受けてはいるがそれは外見だけで実際はロスト手前でまだ体を動かすことはできるのではないだろうか。
そうでなければここまでのうのうと喋りはしないし、しかも目が見えないって言うのも嘘ではないかとニッキは感じる。
それにさり気なくだが この場から離れようと少しずつ道の傍らの茂みへと失った片腕を押さえて這いずっているではないか。
団長は剣を振るうことに夢中なのか、この滑稽な彼女の動きに全く気付いていないようだが、それに気づいたニッキは何か自分だけ悩んでいるのが一番滑稽ではないかと考え直し始めていた。
3人の中で先頭を走っていたラヒムはひっくり返った馬車がある道までたどり着くと、慌てて姿を隠した。
目の前では森賊風の濃い緑色の衣服を纏った体格のいい男と、先日死闘を繰り広げた騎士共と思わしき甲冑を身につけた男が、激しい斬り合いを繰り広げていたからだ。
おまけに遠めだが森賊風の男の近くに倒れているキャラは、ユエの姉であるリビという女性ではないか。
ラヒムは彼女の片腕がないことは遠目に見えていたが、それよりもそのリビの妹ユエは一体どこに行ってしまったのだろうかと心配した。
まさかあの倒れている姉より先に森族か騎士に襲われロストしてしまったのかもしれない、
そう思うとラヒムは不安で一杯になった。
一体ラヒムはいつからユエのことをそこまで意識していたかは、3日程度のとても短い時間しか無かったのによく覚えていない。ただ追い剥ぎ仲間は皆自分より背が高く、常に卵以外は自分を見下し嘲られ、良い気分していなかったラヒムが初めて自分と身の丈が同じかもしくはそれ以下のキャラに出会えたのだ。
しかも先日の馬車の中では会話も弾み、峠では共に死線をくぐり抜けた。
ユエのユーザーがもし中年の男性だとしてもラヒムの意思は変わらない、今はなんとしてでも彼女の生死を確かめ、危ないのなら全力で助ける気持ちで一杯だった。
甲冑をつけた男は己の身の丈程はある長剣を素早く振るって森賊と思わしき男に対し有利に立っていた。一方森賊と思わしき男の得物は長剣にはリーチに劣る山刀で、防戦一方であった。
厄介なことになるとは予感していたが、まさかまた騎士が現れるとは思っていなかったし、しかも森賊まで追加されている。
ラヒムは瞬時に自分だけには手に負えない問題だと思い、少し距離が離れてしまったシシャモや卵を待つことにして茂みに身を隠し攻防の様子を見守る事にした。
下手に斬り合いに参加するのは頭のいいことではなく、今すぐにでも倒れているリビを助けてユエについて聞きたい気持ちで一杯だったが、今飛び出したら間違いなく己も斬り合いに巻き込まれることになることは目に見えていて、どちらかが倒れたあとに勝った方を後続の2人と一緒に襲えば勝てると踏んだ。
茂みに隠れ斬り合いを静かに眺めていたラヒムは、すぐに騎士の方が森賊を一方的に斬り付けて、無残な森賊の死体を残して終わると思ったのだが。
意外なことに待ち伏せしか取り柄がないと卵から聞かされていた森賊は、騎士相手に短い山刀一本で間一髪に斬撃を躱している。
リーチの長い得物に対してリーチの短い得物で対抗することは、それなりの技術が無ければ難しいことをよく知っているラヒムは森賊がただ者ではないことを感じた。
しばらくラヒムは茂みに潜み森賊の男と騎士との死闘を見ていたが、その際ふとリビに専用チャットを飛ばし上手くここまで這ってきてもらえばいいのではないかと考えた。
そしてそれは思いのほか上手くいき、専用チャットを蹲ったリビに挨拶と自分の潜んでいる場所まで来ることができるかと 打つと彼女はあっさり二つ返事でこっちに今ゆっくりとだが向かってきていた。
近づくにつれリビの片腕の傷がとても酷いことがラヒムにもよくわかった。
生憎こちらにはそれを治療できる技術を持った者はいない。
追い剥ぎ稼業での怪我の治療はそれなりにしてきたが、いくらなんでも切断された腕を戻すのは魔術の覚えでもない限り不可能で、とりあえずリビがラヒムのいる茂みまで這うことができたら救急処置として出血を止めることが大事だとラヒムは直様自分の腰ポーチに何か包帯替わりになるものはないかとまさぐった。
女はゆっくりとだが自分から遠ざかっていくのを団長に気付かれないように常にそっと尻目にニッキは女の様子に目を配り、女の姿が徐々に遠くなるのを見て何故だか少し肩の重荷が落ちる気楽さを感じ始めていた。もうあそこまで行けばすぐにでも茂みに身を隠すことができるだろう。
これが一種の騎士道ってやつなのだろうかと、団長の斬撃を躱しつつぼんやりと思った。
誰かの為に動くなどこのゲームでは初めてだった。
今まではただ自分のために斧などを振るってちっぽけな地位を守り、そこまで親しくない仲間たちと無理に仲良くしてここまでやってきたのだが、今更になって騎士らしいことをしたなとニッキはなんとも言えない満足感を感じた。
さて他人を助けたのなら次は自分の保身だと、ニッキは直様身を翻して逃走を図ろうとしたが、少々満足感に浸っていたのが動きを鈍らせたのか、それとも斬撃を受け流していて疲れからだろうか、背中を見せたニッキに逃げるのかと激昂した団長の剣が背中に深々と刺さった。
一瞬なにか強い衝撃を背中から感じて、米山は何が起きたのか咄嗟に振り返ろうと慌ててキーを押したが、もう遅かったようだ。
パソコンの画面は直様暗転して今までの苦労などまるで最初から何もなかったかのように『Lamia?』のタイトル画面になっていた。
いつもと変わらない画面だが、唯一違うのは『ロードゲーム』の文字はどこにも見当たらないことだろう、画面の前で米山は大きくため息をついた
「終わった」
と一言とても残念そうに呟いた。
好奇心で悲鳴の元へ向かったのが間違いだったのか、妙な誇りと親切心にうつつを抜かしたのが間違いだったのかと後悔の念が湧き出てきたが、それは初めての騎士道を貫いた何かよくわからない誇りに塗りつぶされた。
森賊は途中で形勢不利と見て逃げ出そうとしたが、追い討ちをくらってロストしたようだとラヒムは思った。
逃げようとしているのに何処か誇らしげな顔をした森賊は、背中から刺さった騎士の長剣を腹のあたりから貫通させられていて、とても無残なものだった。
呻く暇もなく即ロストしたのが救いだろうと少しラヒムは哀れな森賊に同情した。
彼が一体どのようなキャラであったかラヒムは知る由もないが、それなりの腕だったようだしきっと森賊の親玉かなにかだろう。
哀れではあるが旅人にとっては世のため人のためにロストして正解ではないかと己が追い剥ぎのくせに勝手に納得して、茂みのすぐ近くまで這ってきたリビを引っ張って一緒に茂みに隠れた。




