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Lamia?  作者: mo56
第1章 放浪にて
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20話

またもセットしたアラームの音で目が覚めた。

昨晩はそれなりに早めにログアウトしたので目覚めは大分前よりましだ。

また今日もバイトの一日が始まると思うと少し落ち込むところもあるが、それは誰だって変わらないことだと井出は言い聞かせまたバイトへの支度を始めた。

支度を済ませ外に出ると日の光が鋭く目に入った。

昨晩はずっと画面とにらめっこしていたせいもある。たまには目も休めたほうが良いと井出は思ったが、それをいつにするかまでは考えなかった。

一度そう割り切ってしまえば後は楽なもので、その日はそれといったトラブルも無く無事に仕事を終え夕方に帰宅することが出来た。



昨日と何か違うところがあるかと言ったら、それは小林と出会わなかったことと今日の夕食は珍しく自炊だということだろう。

ここのところはずっとコンビニ弁当ばかりであったし、人間の本能とも言うべきか時々野菜が無性に食べたくなる時などがある。今がそれだった。

バイトの帰り道に井出はコンビニから15分程離れた近くのスーパーへ向かい適当に安売りしていた葉菜とオカズにコロッケを買ってまたアパートへと帰った。

部屋に戻り先に風呂に入ってこようと買った荷物を置いて、共同風呂へ行くと珍しく今日は同アパートの住人と出くわした。

その住人はゆっくりとそれほど広くない浴槽にゆったりと浸かっていたが、井出が入ってくるのを見ると申し訳なさそうに浴槽の隅っこに行って場所を空けた。

何もそんな極端にしなくてもいいじゃないかと井出はいつも思うが、住人が何故そのような行動をとるかといえば、それは井出の強面のせいであることは井出自身もよく知っていた。

街暮らしの虚しさがそうさせるのかどうかは知らないが井出がアパートの他の住人に出会う機会はそんななかった。

他の住人が一体どのような職業をしていて、どのような生活をしているかは井出も知る由がないが、確か今申し訳なさそうに場所を譲った住人は『須藤』と言ったか井出のアパート部屋のちょうど真下の部屋に住んでいる中年の男だ。

この須藤という住人とは井出も少しは関わりがある。

確か以前はそれなりに有名なIT企業に勤めていたそうだが、不景気のせいなのかどうかは分からないがリストラにあったそうで現在は派遣社員をしていると本人が涙声で井出に語ったのを思い出した。

「こんばんは」

と井出が空けてくれたことに軽くお辞儀をして浴槽に体をつけると、須藤はまた申し訳なさそうに体を縮ませた。

この人はどうも己が井出よりも年上だというのに誰に対しても腰が低かった。

親切で時に『おすそ分け』を井出にもしてくれ、井出は良い人だと何度も思って休日などに共に飲んだりもしたが最近は須藤も忙しいらしく中々その話題は出なかった。

何でこんなにも良い人が世間で困っているのか井出にはわからなかったが、それはきっと誰にもわからないような気がした。

そして、少し世間話をして井出は先に入っていた須藤よりも先に共同風呂を出た。

少々悲しい顔をしながら日々のことを語る須藤の顔が脳裏に浮かびながらも、井出は少し虚しい気持ちで部屋に戻り自炊を始めた。

と言ってもただ切った葉菜の上にオカズを置くのを果たして自炊と言えるのかは疑問だが、井出にとってはコンビニ弁当よりはまだしっかりしていると食べ始めた。

大分油っぽいスーパーのコロッケはまだ井出が実家で暮らしていた頃の味を少しだけ思い出させた。今頃家族も何か食べているのだろうか、久しぶりに連絡でも取りたいが相手が応答しないのだからどうしようもない。

格別家の味が美味しかったと聞かれればそれはこの時代個人差があるだろうが、井出にとってはスーパーのコロッケよりは美味しいような気がした。


そして、どこか虚しい食事を終えると井出は食器を片付けまたパソコンに向かい合おうとした。

しかし、その時玄関の方からインターホンも使わずに乱暴にドアを叩く音がした。

珍しい来客だと井出はパソコンから手を離して、夜8時をちょうど回った時計を尻目に玄関に向かった。

誰だろうと玄関を少し開けると来客者は勢いよく、ちょっとしたドアの開いた隙間を滑りぬけ気付くと井出の横に転がり込む姿勢でいた

「頼むっ 匿ってくれ」

来客者は情けない声を上げて井出の足にすがりついた。

井出はこの来客者についてはよくわかっている、2つ右隣の部屋の住人の『柵山さくやま』だ。

仕事はしていない、本人はパチスロだと言い張っているが、借金取りに追われるってのがその手の稼業には付き物なのだろうか。

「またですか 柵山さん」

井出は呆れたような声ですがりつく男を引き剥がそうとした。

柵山は20代後半の細身で眼鏡と顎鬚がなんとも特徴的な男で、ギャンブルでは普段は負けてばっかりのくせに少しでも勝つとすぐ調子に乗るような典型的な人で、アパートの部屋には大体いなかった。多方久しぶりに帰ってきたら借金取りが部屋の近くにでも待ち構えているのを確認したのだろう。

別にこれが初めてってわけじゃなく、先月の上旬にも同じことがあった気がする。

「お願いだっ後生だっ井出ちゃん!頼むよっ」

この人が高校で世話になった先輩で無ければきっと井出は匿ったりはしないだろう。

真面目に働く気がないであろう、この他人をきっと大勢の他人が責めるであろうが。

この先輩も高校の頃大きな間違いを犯すまでは健全で頼りになる人だった。一体何が彼をひどくしてしまったのかは知らないし知りたくもない、ただ一つ言えることは人の過去を詮索することはその対象にも劣る愚行かもしれないってことだろう。

「わかりました」

そう井出が一言話すと柵山は何度も彼に頭を下げ、感謝してきた。

明日の朝まで匿ってくれればいいと柵山は言うと、これは少しだが取っておけと腰のポーチに手をやり、金でもくれるのかと思ったが、それは小袋のツマミだった。

小さい額の景品だろう 柵山は少し勝ったようだが、

とてもじゃないが返済に当てられるような額ではなかったらしい。一体どれぐらいの借金があるかはしらないが、知ってしまえばきっとすぐにでもこの人を追い出すかもしれなかったのでやめた。

「助かったよぅ・・井出ちゃんの部屋は安心できるよなぁ・・」

そう言って図々しく部屋に入っていき窓辺に腰を下ろした。

きっと借金取りがもし踏み込んできた場合は窓から脱出する魂胆なのだろう、ここがアパートの二階と言え借金を背負ったものにそれぐらいの高さ きっと気にしないのだろう。

もう少し柵山が感謝の意を告げると、彼は適当に手持ちのこれも景品の一部であろうツマミなどで一杯始めていた。

図々しい隣人のことより井出にとってはこれからこの不幸なギャンブラーの話に付き合いながらゲームをするのは難しいということが井出にとっては問題であって、

井出は早速小林に今晩の参加は無理と柵山の日頃の愚痴を適当に相槌を打ちながらメールを送った。

返信はすぐに来て、なんとか掛け合ってみるという内容だった。

依頼主のリビも目下の問題であって騎士が多数の犠牲の元に解決したのであるし、そこまで急ぐ必要もないだろう。

きっと一日ぐらいは待ってくれるはずだと井出は思った。


そしてメールを確認し終わると、柵山の人生論を聞きながら平日の夜を過ごす時間が悲しくも始まってしまった。

早く休日にでもならないものかと井出も愚痴った。


コロッケにはソースをかけます

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