19話
「まぁその代償ぐらい始めてしまえば感じなくなるのだろうな」
少し疲れたようにシシャモは遠くを見つめ溜息をつく。
彼の言った素体とはチートを入れ込んで耐えられるかどうかの事らしく、
とてもじゃないが丸々とした卵ではとてもじゃないがチートは入らないらしい。
入れられるとするならば人間で言うと最も成長するであろう10代辺りの外見のキャラが最適だという。チートにも様々な種類があるそうだが、シシャモ自身もそこまで多くを知っているわけではなくて、先ほどのグレンの様な筋力などの異常な強化系ぐらいしか知らないという
「あれは元々はリビの妹みたいな・・なんて言ったか?」
「ユエ」
「あぁそれそれ あいつみたいなガキの筋力はこのゲームじゃ最低値で、ロクな武器も触れないものだから、少しは強化しようとした開発者のデータが盗まれたらしくてさ。
それが異様に改造されて流出したってわけ」
疲れた顔で話す彼に卵は相槌を打つ
「まぁそれでだ。異様に改造されたデータってのがさっきのデカブツみたいな奴にするようなモノでな。
きっとあのグレンとか言ったかな、あいつも元を辿ればあの子娘みたいなガキだった訳だな」
疲れていてもなおシシャモは愉快そうに笑うと、チャットを打つのに少し疲れたのか、「ちょっと煙草吸ってくる」と離席した。
井出も先程からずっと画面を見ていたので少し目を休めようと、パソコンの前で目を閉じて横になった。缶コーヒーのせいで眠気は来なかった。リビがユエとラヒムを連れてくるまで井出はそのまま横になることにした。
久しぶりにシシャモが槍を使うところがぼんやりと浮かんだ。
あんな鮮やかに槍を突ける使い手などきっとこのゲームでシシャモぐらいのものだろう、槍はリーチが長くて距離があれば有利ではあるが、見た目ばかりを優先するキャラが多いため使い手は少なかった。井出が覚えている限りでも精々5・6人程思い出すのが精一杯だった。
不意に井出は時間が気になって目をだるそうに開けて、部屋に置いてある目覚まし時計を眺めると時刻は深夜にさしかかろうとしている。今晩は疲れたし、リビが帰ってきたら寝てしまおうと思った。
「戻った」
ふとぼんやりとしていた井出の目にモニターの文字が映ると徐々に意識がはっきりとしてきた。
「おう」
ぼんやりと二文字だけの返事をして、また起き上がってパソコンを見る。
「さっきふと思ったんだけどさ」
「おう」
思わせぶりな発言をするシシャモに対してまた二文字で返事をした
「俺はさっきあのグレンが元はガキだからチートを入れてあんなデカブツになったと言ったよな」
「おう」
「でも、よくよく考えてみればあんなにデカくなるチートなら元は相当幼いキャラだったはずだよな」
彼は思慮を重ねた顔で卵を見た。しかし、卵の方はと言うと井出の感覚が伝染ったと言うべきかぼんやりと相槌を打つだけで深く聞いている様子はない。
だが、そんな卵を気に求めず彼は話を続ける。
「そんな幼いキャラを騎士にさせるか?俺たちの頃はそれなりに入団試験とまではいかないが不相応な奴は無理だったろ、女子供とか」
「もう3・4年前の話だろ、流石に変わるだろ」
「他の組合はそうかもしれないが、あそこだけは別の筈だ。 俺には他に何かある気がしてならないよ」
そう言って考え込むように腕をシシャモが組むと、ちょうどリビが先程 ラヒム達が走り去っていた方の道から彼らを連れて歩いてくるのが見えた。
一体なにがあるのかは分からないが井出にとってはそんな過去に所属していた組合のことなど心底どうでもよく、今は明日に備えて早く寝るにはどうすればいいかという方が先決だった。
「卵さん・・すごいですね・・あんな図体が大きい騎士殺ったんですか・・」
ラヒムが驚いたような尊敬が入り混じった顔で口を開いた。慌てて逃げて行ったのだろうが、そこは追い剥ぎ癖のせいか戦利品はしっかりと担いだままだった。
「殺ったのはシシャモと彼女だよ」
と卵は二人を見た。言われたシシャモは少し誇らしげにして、リビの方は何か言いたそうだったが、それはユエの声に遮られた
「姉さんっ」
そう涙顔で怖かったと言いながらユエが姉のリビに勢いよく抱きついて泣き、それを姉らしく頭を優しく撫でて慰める姉妹同士の抱擁を尻目に眺めながら、井出は先ほどのリビの極端な泣き脅しを思い出した。そして、ユエの腰に巻きつけた戦利品である銀貨袋が一層二人の姉妹の感動的な光景に水を差している。
どうも胡散臭い二人を見ていたがもう一人忘れていた人物がいる、先程上半身と下半身の送別会を行われてしまったフレークが呼んだバックスという名の男である。
革鎧を身につけているが、手入れはしっかりとしているらしくこれといった傷も無い。
腰に差してあったであろう武器は逃げる際に落としたのか無かったが、彼の腰には日常的に使う為と思われるナイフが差してあった。
細身でラヒムよりは多少身長が高い男は中性的な顔立ちで、どことなく汚れ切ったチンピラの雰囲気とは違う印象があった。
確かにこれなら女装すれば女に間違われるかもしれないだろう、彼にとってはそれが果たして親切心からだったのかそれとも団長を追い落とすための策略だったのかは今となっては被害者もロストしてしまったし、聞く気もなかった。
「どうも、助かりましたよ」
とバックスが腰を低く丁寧にこちらにお辞儀をした。フレークや卵たちは粗野で乱暴だが、この男には旧騎士団らしい礼節さがあるらしく、顔には微笑も浮かべ細い目を優しく曲げている。
「ですが フレークさんはどうやらお亡くなりになったようで・・」
口調は残念そうだが微笑を崩さないということはきっと彼とは仲が悪かったのだろう、それとも内心は傷ついてでもいるのだろうか。よくわからないポーカフェイスを気取って考えるように腕を組んだ。
「残念ながら見ての通り」
シシャモが少し申し訳無さそうにフレークの亡骸の一部と呼んだ方が適切であろうものを差して言った。しかし、そんなことどうでもいいかのようにバックスは
「いえ、いいんです 最近あの人キャラ作り直したいとか言っていましたから、いい機会ですよ」
そう言い終えると愉快そうに小さな笑いを漏らした。やはり仲が悪いみたいだ。
そこで話が切れて井出は全員揃ったことだし今晩はそろそろログアウトしたいと持ちかけ、彼女はそれを快諾してくれたのだ。
適当に明日は何時にログインできるかを各々相談し、特に問題も無く今日と同じログインした時刻に集まってもらえれば良いとリビは言った。
全員が集まるまでに馬車はこの場所へ停めておくとのことだった。
そろそろまた明日に備えなければならないと井出は適当に挨拶をしてログアウトのキーを叩く、パソコンのモニターが真っ暗になるまでさほど時間はかからなかった。
そして、すぐにパイプベッドへ横になるが先程少し横になっていたせいかすぐには眠くならなかった。
睡魔が訪れるまで井出の頭の中にあったのは先程シシャモがチートと騎士団について何か思う節がありそうな事だった。いっそのこと今度の休みに直接本人に聞いたほうがいいかもしれないと井出がぼんやり思ったところで、睡魔がゆっくりやってきた。
少し間が空きますがのんびり続けていきます




