16話 先手
しかし3人を追っているうちに徐々に矢の痛みでも出てきたのか距離が出てきて、3人がこちらに来る頃には大分距離が開いて、3人はホッとした顔で卵たちに近づき
「あれは無理」
とラヒムはこちらに来て立ち止まるかと思ったが、そのまま卵達の横を3人ですり抜けて逃げていってしまった。
これを見て先程からずっと逃げ腰であったフレークは、すり抜けて逃げ出していった3人に遅れて自らも逃げ出そうとしたが、リビの携えた投げナイフがまた目に入り、寸前で立ち止まった。
卵も矢の装填を終えていつでもクロスボウを発射できるようにしたが、自分もラヒム達と一緒に逃げてしまいたいと本心から思った、矢をくらっても動じないような化物を相手にするほど自分は愚か者じゃないと思いたかった。
今目の前にはシシャモがやる気のないように槍を構えデカブツの道を塞いでいた。シシャモ自身としてもこんなものとはやり合いたくはなかったが、かと言って逃げ出して投げナイフにやられるのも癪だった。
フレークとしては逃げ出したい気持ちで一杯だったし、リビにとっては幾らデカいからといって大の男3人でかかれば何とかなると踏んでいたし、いざ危なくなっても言いようによっては見逃してくれるかもしれないと淡い希望を抱いていた。
そう4人の間に様々な思惑が錯綜としているうちにデカブツは4人の二十歩程手前で立ち止まり、手に携えたゴーデンダッグを構えると酷いダミ声で甲冑の奥から声を出した。
「おい 今さっき俺に矢を放ったのはどいつだ?」
勿論矢を放ったのは卵であるが、ここで正直に答えればあのデカブツが携えた武器をまともに喰らう羽目になるだろう、卵以外の3人の視線が卵に集まるが井出は問いに答える文を打つつもりはなく
「いきなり、名を聞くのは無礼じゃないか。初めにアンタは誰なんだ、騎士とお見受けするが」
と文字を打った井出自身でさえも流石に無理があると感じた。
幾ら何でもこんな話の紛らわし方なんて己が打ちましたと言っているようなものだ。
井出は画面の前で久しぶりに痛々しい文章を打ったもんだと頭を掻いた。ここのところはずっとドライなロールプレイしかしていなかったものだからこんな文を打つのは本当久しぶりだ、以前打ったのはどれぐらい前だろうシシャモ達と色々やってた時期だろうか、3年前のことなどろくに覚えていなかった。
卵は今にもデカブツが激昂して手に持った武器をこちらに振り回してくるのではないかと緊張する、シシャモが槍を前で構えてはいるが彼の技量であのデカブツを相手にするのはやや難がある。
「・・・これは失礼、俺は番犬」
意外と野蛮そうな外見ではあるが話がわかるやつだったようで、一旦構えを解いて名乗りを始めた。
そうとなれば先手必勝とはよく言ったもので、デカブツが文を打っている間にこちらから仕掛けるしか手はない。
卵は即座にボウガンを構えデカブツが自慢げに自分の名前を名乗る前にその口のついた頭目掛けてなんの躊躇いもなく矢を放った。
「騎士団・・・」
矢は見事にデカブツの頭部に命中し犬を模したその兜に深々と突き刺さり、デカブツは自分の名前を名乗ることすらできずに、力なくうなだれて地面に膝をついた。
何が起きたか一瞬わからなかったがすぐに卑怯にも不意打ちをされたのだと気付くとデカブツは兜の穴から覗く瞳を怒りに歪めたが、そのまま地面に無念そうに倒れ込んだ。
「・・・幾らなんでも卑怯じゃないかしら」
「正々堂々やって勝てる相手でもないだろ」
少し冷めた目で言うリビに対して卵は平静に答えた。
そもそも武器を持った相手の前で一々丁寧に名乗りを上げる方が悪いと井出は思った。
隙だらけでいつでも撃ってくださいと言っているようなものだ。
罪悪感が無いかといえば嘘になるが、日頃から追い剥ぎをしている卵に今更そんな罪を恥じる事が必要だろうか。そんなもの些細なもので、相手が悪い俺は悪くない と井出は心の中で繰り返した。
「本当にやったのか?こんなにでかいんだぜ、まだ生きてるんじゃ・・」
フレークが弱々しく呻く、じゃあお前が生きているか死んでいるか確認してみろと卵は彼に勧めたが
「かっ勘弁してくれよ。俺は嫌だよ」
と手を前に出して振って慌てて拒否された。しかし、彼がやったことといえばずっと後ろで震えていただけだったので、それぐらいやれと皆に急かされる。
じゃあリビはどうなんだとフレークは慌てて言ったが恒例のごとく投げナイフを見せられては大人しく確かめる他なかった。
死んだのであればロストするのを待ちたかったが、こんなデカブツになるチート使っているのならロストを回避するチートをもしかしたら入れているかもしれない。
さっさとこの場所からは皆離れたかったが、このデカブツをほおっておいてしばらくしてから後ろから不意打ちされるのも困る。
「大丈夫だって騎士ってのは、卑怯な真似をしないものだろ?」
恐る恐る剣を持って先端でつっつきながら確かめる引け腰のフレークに嘲りながらシシャモが言う、フレークが冷や汗を垂らし緊張した顔で振り向いてできる限り虚勢を張って
「相手が卑怯じゃない限りな・・・」
そう答えたが、それが元番犬騎士団団長フレークの最期の言葉で一瞬鈍い音が辺りに響き渡り、音がやむ頃にはフレークの体は足の付け根を情けなく地面に残し跡形もなく消え去っていた。一瞬何が起きたか一同はわからなかったが
激しい憎しみに染まった怒声が続いて響き渡ると、やはり騎士ってやつも卑怯なことをするものだと残された三人は理解した。
「許さん」
とデカブツが顔に矢を受けたまま上半身だけ起こしてこちらを睨みつける。
今の元団長に振るった一撃は片手の振りによって繰り出さられたもので、それを起き上りざまに素早くフレークの上半身と下半身を別れさせたことはこのデカブツがやはり尋常ならざる化け物じみた腕を持っていることを意味した。
三人は後ろに飛び退いてデカブツと距離を置いているうちにデカブツは起き上り再び武器を構え
「この番犬騎士団副長グレンに不意打ちとは貴様ら・・・」
不意打ちに頭を打ち抜いてそれでも生きている化け物が不意打ちぐらいみみっちいことを言うなと文句の一つでも言ってやりたいと井出は思ったが、言った瞬間きっと次に下半身と上半身の送別会を行わなければならなくなるのは自分であるから何も言わなかった。
「卑怯千万の狼藉 許さんぞ」
グレンと名乗った化け物じみた騎士は3人を威嚇するかのように強く睨みつけ、今にも携えたゴーデンダッグを振り回そうと構えたが、突然ちょっと待ってくれと言わんばかりにリビが手を挙げた
「待って 私はただの旅人よ!ここを妹と通りたいだけなの それだけなの」
汚い奴と小声でシシャモが罵るが、そんなことなど気に求めずリビは続ける
「お願いです 騎士様どうかお慈悲を・・・」
そう言うやいなや直様リビは直様その場に跪いて哀れみを乞おうと手を合わせて、グレンに縋るような声を出す
「横にいるこのチンピラ二人が貴方様を襲いました。 私は関係ありません・・どうか・・お慈悲を・・」
挙げ句の果てには俺らを売るのかと驚愕の色と失望をちょうど良く混ぜたような顔で卵がリビを睨みつけるが、彼女はそんな二人を無視して
「ちゃんと通行税も払いますから・・どうか・・どうか・・」
と嘘泣きをしながら腰の銀貨袋に彼女は手を伸ばす、これは困ったことになったとシシャモと卵は顔を見合わせる。だが、不意に見るからにわざとらしく情けを乞うように動くリビの手は銀貨袋では無く、横の袋の厚みに隠された投げナイフに手が伸びていた。
騎士団は全部で4つ以上作る予定です




