15話
三人が早足で駆けつけると、通りの広い道には集落の連中や騎士達の見るも無残な死体が転がっていた。どの死体の顔も無念な顔をして、ロストを待って横たわっている。
「遅すぎたわ・・」
その光景を見た途端、背後にいたリビが今までの態度が消え去って嗚咽し膝を地面につく、妹のユエも死んでしまったと思ったらしい。確かに動くものは見当たらない。
ここで卵はリビの悲しむ姿を見てラヒムがさっきからいないことにやっと気付いた。
だが、だからといって彼女と同じように悲しむような感情は不思議と湧いてこなかった。
「結果通りといえば結果通りだな」
とシシャモが怪訝な顔で死体を見回す、彼の連れてきた門番仲間も誰ひとり生き残ってはいなかった。
「取り分は増えたが、犠牲が多すぎた」
とフレークが呟くが、どこか嬉しそうな色もあるのが彼の悪いところだと井出は思った。
卵は久しぶりに眺めるこの死体の群れになんともやるせない気になって、とりあえずラヒムの死体はどこかと辺りを探ろうと死体の近くまで歩くと不思議なことにラヒムの声が聞こえてくる。正確にはチャット文なのだが、一体どこからと辺りを見回すと峠の道の向こうから数人がこちらを目掛けて駆けてくるのがわかった。
手前に見えたのは短刀を血に染めて騎士の奪った得物をいくつか担いで必死に走ってくるラヒムで、その後ろには同じく騎士の身につけていた小銭袋などを奪ってそれを両手に溢れるように持った小柄な女ユエが続いてくる。
どうやら日頃のラヒムの追い剥ぎ癖がユエに伝染ったらしい、そしてその後ろには棍棒を手にして薄い鎧を着て先程までフレークと喋っていた、細身のチンピラが続いていた。
「バックス!・・・畜生、生きてやがった」
フレークが思わず後ろのバックスと呼んだ男を見て悪態を付いた。
どうやら相当仲が悪いらしい。道の先に見えた三人がこちらに走り寄ってくくるにつれて、徐々に表情もわかってきたが、三人の顔は酷く切迫しているようで何事かと思ったが、それは先頭にいたラヒムが石につまづいて転んで際に彼らの後ろが見えた際によくわかった。
一瞬大きな犬のように見えたそれは近づくに連れ大きい犬を模した甲冑を着た騎士だとわかり、図体が卵の二倍ほどはあり、肩幅も広く巨人の様な奴だった。
手には長い鉄の棒の先に刺のついた短い鉄の棒が付けられた『ゴーデンダッグ』と呼ばれた打撃武器を手にして、甲冑は至るところに刺とも装飾とも言える突起物がまるでハリネズミの様に張り巡らされ、まるで何か質の悪い冗談を見事に具現化させたような甲冑を身に付け三人の後を追っている
「おい、なんだよ あのでかいの」
「キャラメイクであそこまで大きくできるのかよ」
思わず卵はラヒム達の後ろに現れた巨漢を指差した、あんなに図体の大きいキャラは初めて見る
「チートだろ、このゲームはフリーだから何でもありなんだよ」
フレークが冷静に言ったが、腰が引けているのが嫌にでも目に付いた。
なんでこうなってしまった と今まさに巨体に追われるラヒムは思っていた。
ついさっきまでは調子よく死んだ者の身ぐるみを剥いで献上金の足しにできるととても幸せだったのに、あのデカブツが出てから天国が地獄になってしまった。
不幸中な幸いと言えばあのデカブツは歩が遅いということで、こうやって多くの戦利品を持っていても必死に走ればなんとか距離を置くことが出来た。
あのデカブツは先ほど今後ろにいるチンピラの一人とその仲間数名を、彼一人残して全員まるでスイカ割りのように無残に叩き割ってしまった。
決してチンピラ達が弱かったとは言えない、あの乱戦の中を生き残っていたのだからそれなりの実力があったのだろうが、あのデカブツにとっては赤子の手をひねるのと同じことだったのだろう。
それなら小柄な自分らがやりあって勝てる相手と考えるのは至って自然で、
仲間が叩き割られるのをラヒムより間近で見て直様逃げに徹したチンピラの男と共に二人は直様かき集めた戦利品を手に元来た道を逃げ帰ることにしたのだ。
小柄なところに親近感を持ったのか、先ほど馬車から皆と降りて突っ込む際からずっとユエというラヒムと同じ小柄な女が彼の後ろを必死に付いてきていた。
先程皆一緒に騎士達と斬り合いになった時は両者の隙間を縫うように素早い動きで鎌を振るっていたが、何人か騎士や集落の連中が倒れると、ラヒムが早速死体をこそこそと漁っているのを見てそちらのほうが楽で金になると踏んで同じように素早く死体を共にあさり始めたのである。
中にはまだ息のある者もいたが長くはないだろうとラヒムもユエも情け心でトドメを両者共に刺して回った。
「卵、撃てよ」
横からシシャモが促す、勿論井出は素早くキーを叩いて卵にクロスボウを構えさせた。
距離も遠いので出来る限りあのデカブツを引き寄せてから矢を放ちたかったが、ああも酷くラヒムが転んでしまっては起き上がる前にあのデカブツが追いついて頭を割られてしまうだろう。逃げる三人のうちバックスと呼ばれた細身の男は転倒したラヒムには一切気に求めずこちらに向かって走ってくるが、何を思ったかリビの妹のユエが急いで転んだラヒムに駆け寄り彼の肩を持って起き上がらせようとしている。
敵に頭を割られるよりは味方に撃たれた方がまだマシだと井出は容赦なくクロスボウの留め具を外し、矢を放った。
急いでいたので少々狙いが雑だったのか、危うく起き上がったラヒムの頭に命中するところだったが間一髪矢は逸れてデカブツの肩に命中した。
しかし、卵が命中したことに喜んだのも束の間で肩に矢が深々と刺さったいうのにデカブツはたじろぐ事もなくそのまま3人を追いかけてくる。どうやら激しい興奮状態で矢が刺さった事にも気付かないらしい、とんでもない化物だと井出は舌打ちをした。
大体の相手はクロスボウから放たれた矢に命中すれば昏倒するか少なくともタフな奴ならたじろぐぐらいの隙は見せるものだが、あのデカブツには全くそれがない。やはり図体があんなに大きいと体力などの設定を存在させるチートでも使っているのかもしれないと井出は思った。
「これはバリスタでもないと無理だな」
とこんな時でも横から軽口が叩けるシシャモを多少羨ましく思いながら卵は急いで次の矢を装填し始めた。もう少し距離が詰まれば致命傷を与えられる筈だ。それでも駄目ならばきっと勝てないだろう。
「とんでもない奴だな、番犬共には昔からあんな奴がいたのか?」
急いで矢をセットして弦を引く最中尻目にフレークに聞くが、彼は渋い顔をして
「いるわけないだろ、俺だって初めてだよあんな化物、ただ」
「ただ なんだよ?」
少し口篭るフレークにシシャモが問いただす。フレークの奴は今にも逃げ出したいような顔で腰を引いているが、一歩でも逃げようものなら妹を見捨てて逃げ出したときっとリビの投げナイフが飛んでくるのだろう。前門の虎後門の狼とはこのことだろうか。
「あの甲冑見たことがある、以前のバックスの鎧だ」
「あのヒョロイ男も元番犬かよ」
まるでプレーリードッグだよな と卵が弦を引き終わりシシャモの様に軽口を叩いたが、誰も反応しないところ見ると自分にはジョークの才能がないと少し落胆した。
「あぁあいつも元番犬騎士団所属だよ しかも副長だ」
「マジかよ あいつはなんで辞めたんだ?お前と同じ女か?」
シシャモが距離が段々近づいてくる味方と敵の一団に槍を構え尻目でフレークに聞くと、彼は少しの沈黙の後重々しく
「俺が団長の頃 女日照りだってバックスの奴に愚痴言ったら 奴が女装して俺を励まそうとして、それを他の団員に見られてクビにされた。 番犬騎士団は女人禁制なんだよ・・」
項垂れるフレークに他の皆は何も言えなかった。
┌(┌^o^)┐




