14話 会戦
峠の道中の中程にある広い道で、甲冑を身につけた男達が円を作り座って談笑をしている。
彼らの甲冑は様々な犬種を模した形で柴犬のような者もいれば、ブルドッグのようなものもおり、その特注品の甲冑が示す通り彼らは精鋭の騎士「番犬騎士団」に所属していることを表現していた。
各々剣や斧などを腰に差して、使い込んだ痕が顕著に見えた。
彼らは本部の騎士団の指示のもとにこの峠で関所を構え、時折通過する旅人から通行税を徴収しているが、その任務を始めてから1ヶ月が過ぎようとしており誰もが滅多に税を徴収できることがない為飽き飽きしていた。希に手向かってくる愚かな旅人もいるが、精鋭である彼らを満足させる腕のものは今のところ誰もいなかった。
その中の一人で今干し肉を齧りながらぼんやりと道の向こうを見つめる、「ニッキ」もこの退屈な任務に皆と同様飽き飽きしていた。彼の甲冑はブルドッグを模した物であり、彼自身その模した犬ほど体格の良い騎士だった。
「お?」
ふと干し肉を齧りながら、道の先を眺めていると一人農民の姿をした男が道の影から飛び出してくるのが見えた。
旅人かと一瞬思ったが、男が農作業用のフォークを槍のように構えて雄叫びを挙げこちらに突進してくる。
それを見てすぐさまニッキはこの男はよくいる無謀な英雄気取りの愚か者だとわかり、自身の得物である斧を腰から抜いてゆっくりと立ち上がった。
そのニッキの行動を見て近くにいた仲間の騎士も直様各々武器を抜いて、立ち上がり臨戦態勢を取る。このような愚か者には直接税金を貰った方がいいのは皆よく知っていた。
フォークを構えた男がニッキの二・三十歩先まで近づいてきた頃には男の後ろからまた大勢の無謀な暴徒が飛び出てくるのを他の犬騎士が見つけ、慌てず騒がず騎士たちは落ち着いて陣形を組み始めた。
男は既にニッキにあと数歩でフォークの先端が届くところまで近づいていたが、その先端が彼に届くことはなかった。届く前に一歩ニッキが素早く踏み込んでフォークの先端に斧を振り下ろして叩き切ったからである。
男は今までずっと騎士というものは所詮格好だけ大層な腕は大したこともないチンピラという認識だったので、途端に今までの威勢が無くなり、慌てて命惜しさに先端を斬られたフォークを捨ててニッキに背を向けて逃げようとしたが、
直様無防備な背中に甲冑を着込んでいても日頃の鍛錬と戦闘経験により素早く動くことが可能なニッキに斧を打ち込まれた。
男は作業着しか着ていなかったのでとても斧の打撃に耐えることはできず、叩き込まれた背中から血を勢いよく噴出させ、愚かな行動のツケをその身で持って払うことになった。
男が倒れるとその向こうから20~30人ぐらいかこちらに雄叫びを上げて向かってくる暴徒共が見える
「いやに今日は豪勢じゃないか」
斧を男の背中から抜き取り、いつでも振り下ろせるように担いだニッキの横で柴犬を模した甲冑を身につけた騎士仲間が呟いた。彼の得物はよく使い込まれた双剣で、一番手柄をとったニッキを少し面具の奥から羨ましそうな目で見ていた。
「油断するなよ 士気だけは一人前の連中だ」
「士気だけじゃぁ俺たちには勝てんさ」
柴犬騎士が甲冑の中から低い笑い声を上げると、それが合図になったのか他の騎士たちも嘲るような戦いを楽しむかのような笑い声を挙げ、愉快そうに暴徒目掛けて切り込んでいった。そしてニッキも例に漏れず皆に意気揚々と続いていく
「派手におっぱじめたようだな」
集落の連中と騎士達の争いが始まり、悲鳴や怒声に武器のぶつかり合う音が響き出すのを聞きながら卵が呟いた。傍らではなんの策もなく突っ込んでいった連中に呆れ、途方に暮れるリビの姿があった。
「どうすんのよ・・皆ロストしちゃうわ」
「その分俺らの取り分が増える」
「俺らだけで番犬共に勝てると?」
脳天気に呟く卵をフレークが嘆く、彼にとってはあれほど精鋭な騎士団はいないと思っているようだ。まぁ元団長ならば誰しも自分が率いていた騎士団が強いと思うのは当然だろうし、実際に彼らは精鋭中の精鋭だろう。
「全滅とはいかないまでも半分ぐらいはなんとかなるといいな、そうすりゃまだ勝機はある」
同じく連中と一緒に行かなかったシシャモが卵と同じく呑気な調子で、すぐ近くで死闘が行われているというのに呑気に手頃な岩に腰掛けていた。
「駄目だったらどうするのよ?」
「逃げる」
事も無げに言ってのけるシシャモに卵は思わず吹き出す、すると彼の頭のすぐ横にリビの投げナイフが飛んできた。
瞬時に謝罪の意を込めた顔に整えた。
「笑い事じゃないわよ、勢いに乗せられてユエまでついていってしまったのよ!彼女がもし、ロストしてしまったら責任取れるの?!」
「気にするなよ、もっと美人になって帰ってくるさ」
そう言ったシシャモに今度は投げナイフが飛んできた。
今度は彼の帽子を投げナイフが捉えて、勢いそのままに地面に落とした。
瞬時にシシャモも謝罪の意を込めた顔に整える。
「とにかく、せめてユエだけは無事に連れ帰ってきなさいよ あんた達」
「あんた妹の事しか頭にないのかよ。俺の仲間だって一緒に・・・」
不平を言ったフレークにもナイフが飛び、武器を持った大の男三人が謝罪の意を込めた顔でリビの前に直立不動で立つ光景が完成した。
仕方なくリビにどやされ渋々と武器を構えた三人はのそのそと死闘の現場に向かおうとしたが、リビが後ろから投げナイフを手に後ろから追ってくるので三人は慌てて歩を早めた。
この乱戦はすぐに暴徒全員を殺して終わるとニッキは踏んでいたが、最初に殺した男に続いて襲いかかってきた連中は最初の男より遥かに場数を踏んでいるようで厄介だった。
暴徒の中にはそれなりに我々の甲冑ほどではないがそこそこの防御を備えた鎧を装備している連中もいて、先ほど意気揚々と切り込んでいった柴犬騎士はチンピラ風の暴徒数名に取り囲まれ情けなく嬲り殺された。
農民風の奴は何人か打撃を躱そうとした得物ごと叩き割ってやったが、厄介なのは緑色の鎧を身につけた連中で、連中の仲の戦包丁を振り回す巨漢が特に厄介だった。
あんな力任せな一撃をくらったら甲冑とは言え、ただでは済まない程の致命傷を被るだろう。
他の騎士が何人か束になって巨漢に挑んだが、既に一人無残に斬り殺されている。
それに巨漢の取り巻きのような同じ鎧を身につけた連中もそれなりに腕のある連中のようで、大分苦戦している様が伺えた。
大したことのない連中で奥のテントで仮眠をしている隊長を起こす必要もないと思っていたが、これはどうにも隊長にも参戦してもらわないと分が悪いとニッキは思った。
そう思うやいなや直様ニッキは隊長のテントへと一目散に駆けた、駆ける最中後ろからあの巨漢の雄叫びに似た悲鳴が聞こえた。どうやら他の騎士の誰かが巨漢を仕留めたらしい、だがその直後よく聞きなれた騎士の悲鳴も聞こえた。
非常にこれは不味いとニッキは隊長のテントへ歩を早めた。
暑い日が続きますね




