13話 接敵
やかましい音を立て進む三台の馬車はリビが言っていた真夜中よりも早めに、騎士が関所を構えているとされる峠に着いた。
峠の入口はみすぼらしく、なんていう名なのかも読めない、
峠の名を刻んだ看板が立っていて。
以前は誰か住んでいたのであろう小屋が立っていたが、その小屋も看板と同じように今にも崩れそうなボロ屋だった。
ここからは徒歩だと彼女自ら馬車を降りて連中を率いる。
集落の馬車や門番の馬車から各々(おのおの)降りて、各々武器を取り出し構えて統制も規律もない即席の民兵達のような隊列を組んだ。
だが自然と戦闘に経験のある門番やチンピラ、卵やラヒムが先頭に立ってリビに続いた。
各々目には野望と欲に目をぎらつかせ、先ほどの騒がしさを潜めて歩を進める。先ほどの馬車の騒ぎに辟易していたリビにとっては静かなことはとても満足だった。
現実の時間は既に深夜へ近づいていたが、ゲームの中では逆に昼間の陽が頭上を高々と浮かんでいる。
幾らこのゲームがリアルでも時間まで現実同じでは困る。
峠の道は狭く、馬車が通れないこともないがいざ関所で先頭が始まれば邪魔になると麓に停めた。
集落の連中を率いる旅芸人という奇妙な集団が短剣や鍬という様々な獲物を陽の光にギラギラと反射させ、まるでそれは己らが目に浮かべる野心や憎しみを表現したようにでもあった。
「しかし、まぁ個性豊かなパーティだよな」
沈黙を破り卵が横に立って槍を担いだシシャモに呆れ顔話しかけた。
改めて見てもあまりにも異様な連中で、きっと農民の暴動だと言っても誰も異論はない光景だと井出は思った。
クロスボウには既に馬車の中で矢をセットし弦を引いてあって、いつでも発射することができた。
「お前が言えたことかよ」
とシシャモはこちらを振り返りもせずにそれなりに険しい峠の道で汗を流しながら辛いものの、顔だけは涼しそうにして卵に応えた。
「卵やシシャモがいれば騎士なんて怖くないぜ」
横から先ほどのフレークという名のチンピラが顔を覗かせる、卵より小柄な方だがラヒムよりも大きく筋肉質で獲物は抜かずに歩くことに集中しているようだった。
「あの時は装備が整っていたからな、こんな槍じゃ棒切れと変わらねぇよ」
シシャモが少し不服そうに担いだ槍を見た。
「俺だって甲冑が欲しいよ」
と卵もぼやく、いい加減この素顔を晒していることが嫌になり始めていた。
「殺した騎士から奪えばいいだろ」
「俺のサイズに合うやつがいるかな」
卵が皮肉そうに己の腹をポンと叩くとフレークとシシャモの二人は愉快そうに笑い、
合わなかったら鍛冶職人に調整してもらえばいい ちょうどすぐ近くにいるしな とまた愉快そうに今度は三人で笑う。
しばらく黙々とその奇妙な隊列が歩いていくと、先に斥候として歩いていたリビがこちらに戻ってきて手をすっと挙げ隊列を止めさせ、身をかがめ忍び足で隊列の先頭に立っていた卵とシシャモに近づき小声で
「いたわ それなりに広い道にテント張って待機している 7人いる 全員甲冑装備よ」
張り詰めた顔をして手には既に投げナイフが握られていた。
「よし・・全員に知らせ・・」
それを聞いたシシャモが連中に知らせようとすると
「どんな甲冑を着ていた?」
横からフレークの奴が入ってきた。甲冑の形なんてどうでもいいじゃないかとリビが言うが、彼はどうしても聞きたがったらしく
「犬のような兜被ってる連中よ 飛び道具を持ってるのはいなかったわ」
そうリビが面倒そうに告げるとフレークの顔が強ばった。
額に急に冷や汗を垂らしている
「犬・・それは確かか?」
しつこく聞くフレークにまた面倒そうにリビは首を縦に振った。
それを聞いて今まで意気込んでいたフレークが急にシュンとして、その場にかがみこんだ。
いきなりの変わりようにどうしたのかとリビが聞くがフレークの奴は黙り込んだまま答えようとしない。
「番犬共かよ 懐かしいな」
そこで横からシシャモが知ったような口で割って入った。
どこかフレークに対して少し虚しい声音で、彼はフレークを慰めるように肩を叩いた。
「もしかしたら、前にこいつが団長やってた部隊かもしれねぇんだよ」
同情するような口調ではあるが、顔は愉快そうにフレークの肩を叩きながらシシャモが言った。まさかこんなチンピラが以前は騎士団長とは眉唾で突拍子も無いとリビは絶句した。
「もっとまともな嘘つきなさいよ」
「いや本当だって、な 卵」
流石にありえないというリビにシシャモは卵に確認すると、井出はキーを押してゆっくりと頷いた。
『番犬騎士団』騎士の連中が「Lamia?」創設期辺りから組織していた、組合の一つで
当時は騎士が格好と実力ともに魅力的だったので多数のユーザーが在籍していたが、とてもじゃないが統制が取れずに各々勝手に行動し騎士の面子を貶めるとして、
その多数のユーザーに対する統制や規律を取り締まっていた組織だった。
時には規律違反などの騎士を処刑する仕事もあり、例え仲の良いフレンドユーザーでも斬って捨てる非常さを持った犬どもで構成されていた。
ほかの多くの騎士の様に略奪などを行うわけではなかったが、仲間からは恐れられる部隊であったが、昨今はその名前を聞いたことはなかった。
「番犬騎士団団長フレーク・・・盛者必衰ってのはこのことだよな」
「うるせぇ」
嘲るシシャモにぼやきながら返すが、以前肩を落としたままフレークは項垂れていた。
「確か女キャラにうつつを抜かして追い出されたんだろ?」
「違うっ俺は・・・」
口篭るフレークに対しシシャモはそれ以上もう何も言わなかった。
井出もフレークの件はよく知っている、1年前はよくつるんでいた。彼はそれなりに団長の職務を全うしていたと思っている、ただ少々全うしすぎたのかもしれないと。ゲームの中でも苦悩するフレークに井出は同情した。しかし、今はそれどころじゃない。
昔話は後ですればいい、今はこの先にいる彼の部下だった連中を片付けなければいけない。
「・・・よし、とりあえず全員に知らせて段取りを・・」
フレークが少しだけ時間をおいてやっと落ち着くと、気を取り直したようにシシャモが全員にチャットを飛ばそうとした。
しかし、どうも集落の連中は我慢が出来なかったらしい。
先ほどのリビ達の会話を聞いた連中の一人が既に武器を構えて、我慢できずリビの横を駆け抜けた。
先頭にいた連中の制止も聞かず、その我慢できなかった男は大声で
「獲物だ、速い者勝ちだぞ」
と叫んだ。
これではもう統率も何もあったものではない、隊列の後ろにいた連中も緊張の糸が切れたのかその男に続くように威勢と武器を振り上げて、我先にとそれに続く。
「待てっ危ない」
と声を張り上げてリビが叫ぶ頃には彼女の目の前に立っていた卵とシシャモそれと項垂れるフレーク以外は皆、騎士のいる方へと突撃してしまったあとだった。
そして、その叫び声を出したあとにリビが先ほど戻ってきた道から武器のぶつかり合う音や怒号に悲鳴が聞こえてきた。もう既におっぱじめてしまったらしい。
「全然あいつらなってないじゃないか」
と呆れながらシシャモをリビは責めるが
「あんたの妹さんもそうみたいだぜ」
と彼は呑気に道の先を指差した。
指差した方にはリビの妹であるユエが小さい体ながら得物の鎌を振り上げ、走りさっていく姿を差していた




