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小話②

三人称です。

ミカ、異世界到来から四カ月あたりすぎたころの一幕。



「アラン様、ミカ様って素晴らしいです!」


「素晴らしい?」


「えぇ、だって、だって、あんなに古語をすべらかにお話しになるなんて!!すごいです!!」


 最近、ミカ付きになった侍女のマーリは、興奮気味にアランに話した。

 ミカが庭を散歩中のあいまを見計らい、アランはマーリを自室に呼び最近のミカの様子をたずねた。

 すると、先ほどの言葉…「ミカ様って素晴らしいです!」との答えだったのだ。


「私、自分の傲慢さを知りましたわ…。父が学者だったこともあって、色んなところへと小さな頃から助手がわりに連れていかれていましたし、歴史書もたくさん読んできました。古語の勉強も、とても真面目にやってきましたわ!だって、古語を理解しないとフレア国成立以前の古来の歴史書を紐解けませんものね…。だから正直、同じ年頃の貴族たちよりも古語の扱いも長けているんじゃないかって、傲慢な気持ちをもっていたのですわ」


 マーリの言葉に、先をつづけるようにとアランは視線でしめす。


「ですが、ミカさま付にと呼ばれて、まだ二カ月ほどですけれども…。世界は広く、そして私の知っている言葉など、とても狭い範囲だと思い知ったのです。」


「そうですか?」


「えぇ。ミカさま自身は、きっと元の世界では普通の少女であったのかと思います。古語を話されているのも、ご本人は意識しているわけでないとのことですから、思うままに話されます」


「そうですねぇ」


 アランは、ミカの喜怒哀楽をつめこんだいつもの表情を思い出す。

 ぽんぽんと言い返してくる、元気な娘。


「ミカ様が話される言葉は、本当に生き生きした表現の…でも古語なのですわ!今まで、私にとって堅苦しく、文法を暗記したような形で接してきた古語が、心をともなって話されるなんて…それに接する機会があるなんて、本当に感動です」


「それは良かった。研究の助手を中断させてこちらに来てもらったのですからね…。悪いことばかりでは申し訳ないですから」


 アランがマーリに言うと、マーリは首を振った。


「最初申し出を受けたときは…もちろん戸惑いましたけれど、『異世界から来たらしい』というだけでも不可思議で興味がわきましたし、イヤで来たわけではありません」


 そう言ったあと、マーリは言葉を切った。


「でも、今おもうと、そういう『興味がわいた』という思いも、ひどいものだったのではないかと反省しています」


「ひどい?」


「えぇ…。だって、ミカ様をまっとうな人間扱いしていないでしょう?この世界に到来された原因はまだ解明されていませんが、たったひとりこちらに突然くることになったミカ様にとっては不安な限りのはずですのに…」


 マーリは少し哀しそうな顔をした。

 アランはマーリを呼んで良かったと思う。

 マーリはミカの良き友となってくれるだろう。


「他に何かありませんか?」


 アランがマーリにたずねると、マーリはちょっと言いづらそうに答えた。


「あの、ミカ様から頼まれたことがありまして…」


 アランが首をかしげると、


「古語では、一般の使用人たちと話せないし、会話ができる人が限られてきてしまうので、一般共用語も習いたいとおっしゃっているんです…」


「一般共用語、ですか」


 アランは逡巡する。


 ……これまで王城での審問、聖殿での審問を経て、ミカの暗殺者や間者としての可能性は低いとされていた。出歩くのは無理だが、今のところアランの館の庭までなら散歩も良いことになり、ミカは楽しんでいるようだ。


 ……だが、たしかに言葉が通じなければ、不便だろう…



「いちおう確認はとりますが、一般共用語の習得は王からも許可がでると思います」


 アランはマーリにそう答えた。


「家庭教師を手配しましょう」


 アランがそう言うと、マーリは「いいえ!」と答えた。


「あの…私がお教えしてもいいでしょうか?」


 マーリはおずおずと申し出た。


「あなたが?もちろん、かまいませんが…」


「言葉を教え合うということは、文化を知るということだと、父が言っていました。ミカ様は古語を話されますが、その発される言葉の内容の背景にはミカ様がお育ちになった世界があります…私、すこしでもミカ様とわかちあいたいんです…」


「言葉を教えあう中で、通じていけると?」


「えぇ。一般共用語をお伝えするということは、単語を覚える中で、こちらの文化を知っていただくことになりますし、それを古語に言い換えて、そしてミカ様にわかるように説明すると言うことは、ミカ様が以前にお暮らしになっていた世界に通じることでもあると思うんです」


「なるほど…」


 マーリの言っていることに、アランは頷いた。


「本当に、マーリには来てもらって良かったと思いますよ」


 アランがそう微笑んで言うと、マーリは笑った。


「こちらこそ、感謝しています。ミカ様とお会いできて、本当に良かった」




 マーリが退室してから、アランは軽くため息をついた。


「一般共用語か…」


 アランは思う。

 ミカが何か願ってくれたことは、嬉しいと。

 でも、正直なところ…アランは、自分にそれを願って欲しかったと思う。

 

 朝食や夕食、お茶の時間をできるだけ一緒にするようになって、3カ月。

 ……『何か必要なものはありませんか』と何度もたずねているのに。

 まだこちらに来て二カ月のマーリに頼むとは……。

 なにか気持ちがすっきりしない。

 

 ……グールドはミカにいろいろと世話をやいているようだし

 ……マーリとは良き友になりそうだ

 ……庭を散歩するようになって、古語を少し理解するらしい庭師キースともよく話しているらしい。


 実際のところ、アラン自身も朝食も夕食もお茶の時間もミカと一緒にいて、宿直で王城で泊まる日以外は、毎日ミカの顔を見るようにしているのだが…。

 それでも、置いていかれたような、周囲のものたちにミカとの距離を負けたような気持ちがして、アランは無性にくやしく思った。


 そんな自分に、アランはため息をつく。

 アランは自分の気持ちが、ミカに対して少々固執する傾向にあると自覚し始めていた。


~~これが、ミカが異世界に落下して、4ヶ月目あたりのこと。


アラン、じわじわと気持ちに自覚が?

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