第1話:2月14日の友達。
第0話でギブアップしないでこれを読んで下さる皆さん、ありがとうございます!!それでは第1話をどうぞ。
「おっはよ、綾子!先輩に渡すチョコはちゃんと持って来た??おいしいの出来た??私はも〜大変だったんだよぉ〜、生チョコ作ってたら、途中で生クリームの量間違えちゃって作り直してさぁ、今朝の2時までかかっちゃってぇ…ふぁぁ…」
私が教室に入った途端に駆け寄って来て、一息で喋り続けた祢々(ねね)の話が、大きな欠伸でようやく中断した。
2月14日、午前8時20分。私は結局、一応包むだけ包んだ本命ブラウニーを鞄に忍ばせ、電車で片道45分の学校に登校していた。
「うん、一応持って来たよ。渡せるかどうか分かんないけど。」
「え〜、折角のバレンタインなんだからさぁ、頑張ろうよぉ!!」
祢々がぷぅと頬を膨らませて言ったので、私は思わず笑ってしまった。
祢々は、高校へ入ってから私が一番初めに話した友達だ。もともと積極的でない私は、同じ中学からの知り合いがこのクラス…1-Eにはいなかった為、入学式の日に1人でぼんやりと出席番号順に並べられた教室の机に座っていた。
その時、後ろの席から肩を叩いて、
「初めましてぇ〜、岩崎祢々でぇすっ!!井上…綾子ちゃん??よろしくねぇ!!」
いきなり教室中に響き渡る様な声で話し掛けて来たのが、岩崎祢々だ。
もちろんその声のボリュームは、今でも全く変わっていない。
私は笑いながら自分の話題を流して尋ねる。
「ねぇ、祢々はちゃんと秋くんに渡すチョコ持って来た??」
「当たり前じゃん、ラッピング超気合い入れたんだからぁ!!」
ほらね、あの時と同じ、騒々しい朝の教室でもよく響く声。
「見て見てぇ!!ラメ入りだったから目立つかなって思ったんだけど…どう??」
そう言いながら祢々が鞄から引っ張り出したオレンジのラメ入り包み紙は、いつも音楽好き(要するにバンドメンバー)男子グループの中心で騒いでいる倉木秋にぴったりだ。
「秋くんにぴったりじゃない??祢々はよぉく秋くんを観てるんだね…」
「へへ…だって好きだしぃ!!」
好きだしぃ…なんて素直なんだろう。私にも親友の前だけでも、堂々とそう宣言出来る可愛らしさがあれば良いんだけど。
「でも、いつ渡そうかなぁ……あっっ!!今日全校朝礼じゃない??持ってってみようかなぁ。よしっ、行くぞぉ、綾子!!」
決断の早さも行動力も、私には無い憧れの部分。でも、そんなに大きな包み紙、どうやって隠して持って行くの??と私が訊く前に、彼女は私を置いて、既に走り出していた。
第1話、どうでしたか?? 次回は朝礼でのお話です。