仮恋人の契約
「果恋ちゃん、やっぱり良くないよ」
「いいの! そうだ。紹介が遅れてたね。これが私のお兄ちゃんの海堂 廉人」
廉人さんって言うんだ
顔も格好良いけれど、名前も格好良いね
私は頭を下げた
「私の親友・木下 花音よ。お兄ちゃんは、伊集院 麗華を知ってるっけ?」
「業界じゃ有名な娘だろうが! だいたいお前の学校の女は、みんなあんな奴ばっかだろ? …でも君は見たことないや。お父さんは何の仕事?」
「…あ、いや。その…普通の会社員です。…すみません」
「あ~、もう! お兄ちゃんは人を傷つけるのが、本当に得意よね!」
「ごめんね。ちょっと配慮が足りなかった。…ってお前がちゃんと、言えばいいことだろうが!」
なんかお金持ちの兄妹に見えない
普通の兄妹喧嘩に見える
…こういうのは、お金持ちも一般人も関係ないのかな?
「んで、麗華がどうしたって」
「月に一回、彼女主催のダンスパーティがあるんだけど、それに参加して欲しいの」
「別にいいけど…で、それを言うために、俺の仕事を休ませたのか? 悪いけど俺、仕事行くから」
廉人さんが、ソファから立ち上がろうとする
「ちょ…まだ先があるんだってば、そこに座って!」
果恋ちゃんは、廉人さんに座るように指をさした
しぶしぶ廉人さんは文句を呟きながらも座った
「ただ参加するだけじゃないの。ここにいる私の可愛い友人、花音を恋人にしていくのよ! わかった?」
廉人さんの眉に皺が寄った
「は?」
「だから、今日からお兄ちゃんと花音は恋人同士ってこと。拒否権はないのよ。質問は私ではなく、花音によろしく。では、あとはお若い二人の時間ってことで!」
果恋ちゃんは紅茶も飲まずに、廉人さんの家を出て行った
ちょ…ちょっと待ってよ
廉人さんの質問もちゃんと答えて言って…
私から説明なんて…できるわけないじゃない
私は下を向いたまま、体が固まってしまった
緊張と、申し訳なさと恥ずかしさで、廉人さんの顔を見ることも、部屋の様子を見ることも、紅茶を飲むことさえもできなかった
廉人さんが、立ち上がる
私の体は驚きで、びくっと跳ね上がった
立ち上がった廉人さんは、私の隣に座ると私の肩を抱いた
「あ…いえ。あの…」
私は廉人さんの腕を振り払って、距離を開けて座りなおした
「やっぱり、よくないですよね! 急にそんなことを言われても、困るっていうか。迷惑ですよね…」